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51話 お婿さん候補が……

 なんというか……バーンがやってくれた。


 まずエルフの里の件だが、こちらの調査は成功。

 やはりというか、真っ黒だ。


「エルフの仕業なんすけど、たぶん狙いはイヌ人っすね。エルフの里は縄張りを拡げたくて、イヌ人の里が邪魔だったんす。俺たちとぶつけて数を減らしたかったんすよ」

「なるほどな。イヌ人が減ればよし、万が一我らが敗れればさらによしか。上手い手だ」


 バーンの言葉にスケサンが感心している。

 これはバーンと一緒にくっついてきたフィルとかいうエルフも肯定してるし間違いないだろう。


 このフィルというエルフの若者、バーンと長老たちのやりとりを見て里を出奔したらしい。

 陰謀に関してはエルフの里も一枚岩ではないのだろう。

 金髪に青い目、長い耳だがエルフにしては四角い顔つきで男らしい印象である。


 俺としても小狡いエルフのやり口に腹もたつが、たしかに一石二鳥の妙手だ。

 だが、感心している俺をよそにアシュリンはかなりショックを受けていた。

 そりゃそうだろう、ある意味で信じていた故郷に裏切られた形になったのだから。


 彼女はわんわんと泣いてイヌ人たちに謝っていた。

 身も世もないといわんばかりのアシュリンの嘆きようにイヌ人たちが恐縮していたが、あまりにもしつこいためにウンザリされていたのはご愛敬だ。


 なによりも感情が優先するアシュリンは、こんなときは実にうざい。

 イヌ人たちの気持ちはよく分かる。


 俺たちは無視してエルフの里について話を続けることにした。


「しかし、放っておくと癖になるぞ」

「そうだな。イヌ人は3人死んだわけだし、仕返しに5人くらいは殺さんとなあ」


 スケサンが『しつけ』を口にし、俺が同意した。

 誰からも異論はない。

 これで報復は決まった。


 実際に確認してきたバーンやフィルだけでなく、コナンもアシュリンですら報復は逃れられないと思っている。

 それゆえにアシュリンは泣いているのかもしれない。


「皆殺しにはせぬよ。少しばかり数は減るだろうがな」

「俺とスケサンと……ホネイチで行くか。ケハヤとコナンとバーンで周囲を警戒しといてくれ」


 さすがにエルフたちに同胞を討てとはいえないし、このメンバーが無難だろう。


「あ、それと……ちょっといいづらいんすけど」


 バーンがちょっと気まずそうに発言する。


「実はね、片耳のイヌ人、あいつヘラルドって名前なんすけど、たぶん次のリーダーらしいんすよ。アイツ俺を助けてくれたもんで――」

「へえ、それがどうしたんだ?」


 わりとずけずけ意見をいうバーンにしては珍しくなにかをいい淀んでいる。


「なんでもいえよ。それだけの働きをしたんだからな」

「そうすか、へへ、なら――」


 バーンはイヌ人21人をごちゃ混ぜ里に迎える約束をしたといい、俺に特大のゲンコツを食らった。

 さすがに話がデカすぎる。

 ぶん殴られたバーンを見てフィルがビビってたが……まあ、問題ないだろう。


 そして即座に行われたエルフの里への報復――こちらも空振りに終わった。


「あれ? なにもないな」

「うむ、すでに逃げたようだな」


 張り切って完全武装で来たのに肩透かしだ。

 それにしても逃げ足が早すぎる。


「ん? どうしたホネイチ」


 見ればホネイチが壊された家屋の囲炉裏を示している。


「ふむ、ベルクよ、囲炉裏を調べてくれるか」

「わかったよ――っと、温かいな! こりゃ逃げたてホヤホヤだ」


 なんと、灰の中が温かい。

 これを見抜くとはホネイチもなかなかやるものだ。


「どうするね、追うか?」

「いや、やめとこう。逃げる獣を追い詰めない方がいい」


 里を捨てて逃げるのはツラいことだ。

 俺もごちゃ混ぜ里を捨てろといわれたらできるかどうか――そう考えるとワイルドエルフの族長は傑物だろう。


 イヌ人への策略や、この逃げっぷりを見ても侮れない相手だ。

 下手に突っつかないほうがいい。


「帰るか。折角だから木材くらい貰っていこう」

「うむ、見せしめに焼き払ってもいいが、イヌ人の家も造らねばなならぬからな。私とホネイチで往復し、いただくものはいただくとしよう」


 スケサンの言葉で思い出し、俺は溜め息をついた。

 20人以上の受け入れ――それは里が倍になるということだ。

 やっていけるのかどうか見当もつかない。


「バーンもやってくれたな」

「うむ、だが農業や作事に人手が欲しかったのも事実。近くに新しい里を拓かせるもよしだ」


 俺たちの会話を聞いていたホネイチが口をパカリと開けた。




☆★☆☆




 そして、新エルフの里跡(変な表現だな)から帰った翌日。

 イヌ人たちの集団がやってきた。

 俺たちの捕虜になっていたヤツラもこれで解放となる。

 総勢で22人(赤ん坊ふくむ)、なかなかの規模だ。


「アニキ、よろしくお願いいします!」

「おう、待ってたぜ。話は通しておいたからよ」


 バーンがいい顔で振る舞う姿に腹もたつが、いまさらいっても仕方がない。


「よし、全員聞いてくれ。急なことで全員の家はない。今日のところは体の弱いものや子供はゲストハウスで、それ以外は仮設の屋根で休んでほしい」


 俺の説明を聞き、明らかに皆がホッとした様子を見せた。

 いきなり追い出されないと理解したのだろう。


「それとヘラルド、身体が特に壮健な者を5~6人ほど選抜してくれ。この先にごちゃ混ぜ里のオオカミ人が小集団で開拓をしているが、そちらに人手が足りないから助けてほしい」


 さすがに20人を超える移住者を一気に増やすのは難しい。

 そこで、ガイたちオオカミ人にも相談し少しだけ移住者を引き受けてもらうことにしたのだ。


 もちろん、食料などは支援するし、オオカミ人とイヌ人はかなり近い種族でもある。

 リザードマンやヘビ人よりも相性がよいのは間違いない。


「壮健な者をですか?」

「そうだ。強く、美しい男女を選抜するんだ」


 俺はあえて『ごちゃ混ぜ里のオオカミ人』『助けてほしい』『優れた男女』などの言葉を使うが、これはスケサンの知恵だ。

 オオカミ人の集落に向かう者が島流しにあったような印象では将来に禍根を残すと考えたからである。


「さあ 、難しい話はここまでにして飯にしよう。イモと肉を炊いたものを用意してあるぞ」


 緊張顔のイヌ人たちもこれには喜び、ウシカのイモに舌鼓を打っていた。

 女ウシカと女ケハヤが仕込んだ獣骨とイモを煮込んだ汁はごちゃ混ぜ里の名物料理である。

 気に入ってくれればなによりだ。


(しかし、わりと食うな)


 20人もの食を賄うのは大変である。

 こちらもほぼ同数ではあるが、スケサンとホネイチが食べないのは大きい。


「どうぞ、まだまだたくさんありますよ」

「ああ、ありがとうヤギ人のお嬢さん。お世話になります」


 モリーがかいがいしく世話を焼いているが、大変そうだ。

 そもそも食器も足りないし、用意するものは山ほどある。

 人数が倍になるとは大変なことなのだ。


 このあとでイヌ人たちは話し合い、翌日には若者6人が選ばれていた。

 年寄りや子連れなどを除けばあまり選抜の余地はなかったようだ。


「ああ、私のお婿さん候補が……」


 モリーが小声で嘆くが、考えてみれば若い独身者を選抜したようなものである。


(どこかで見つけてやらねばなあ)


 小さな里ではなかなかお相手がいないのである。

 俺は新入りのフィルに「モリーとかどう?」と聞いてみたが「いやあ、寿命が近い方が」と断られてしまった。

 なかなか難しいものである。




■■■■



ごちゃ混ぜ里


ベルクが拓いた土地。

地震からアッサリと立ち直ったが、復旧が進まない種族や生活基盤が壊れてしまった種族が襲撃や盗みを働くようになっており、治安に不安が残る。

食料事情は十分であったが住民が急に増えたことにより不安定な状態。

交易により豊かな里だと認知されている様子。

パコの飼育やエルフの繊維などにより、衣服が特産物扱いされている。


鬼人、1人

スケルトン、2人

エルフ、4人

リザードマン、6人

ヤギ人、3人

ドワーフ、1人

イヌ人、16人

合計――33人


近隣種族

『リザードマンの里』

リザードマン、27人


『オオカミ人の里』

オオカミ人、7人(子供が産まれた)

イヌ人、6人


『ヘビ人の里』

ヘビ人、17人

ドワーフ4人


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