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京都時越え物語  作者: ちょもらんま★
9/9

~美人すぎる芸子の秘密~

 第九話 動き出す 


  リビングで指輪をはめた手を、じっと眺める。ソファーに腰かけた七瀬がふ、と笑う。

 

「サイズ間違うなんて、晃らしいよね。ピンキーリングも可愛いけど、薬指が良かったな~。」


「もう時間だろ?着付けしようか。」七瀬がなな葉に変わる瞬間の妖艶さは、言い表せない。化粧と着付けをする時は、七瀬の美しさを最大限に引きだすことができるのは、自分だと思っている。


 指輪は、七瀬の小指にぴったりだった。好きな人のサイズくらい、分かる。薬指にしなかったのは、自分にはまだ早いと感じていたからだ。いつか七瀬と晩酌でもしながら、何気なく指輪を渡せたらいい。ビストロで想定外の事態に陥ったのは、少し背伸びをしすぎたからかもしれない、と苦笑した。


「前に鴨川で話しそびれた事があるの。」


「ん?」着物の帯を締めながら、相槌を打つ。


「私ね、おばあちゃんに育ててもらったの。両親は物心つく前に亡くなって。

そんなに寂しくはなかった。小さな頃一人遊びが大好きで、よく山に行って遊んだわ。

もうあんまり覚えていないんだけど、心で強く願うとそこに有るものが、消えたり現れたりするの。

イタイイタイの飛んでけ~、て子供にするじゃない?あんな感じ。」


「カエルとか虫とかね、明日へ飛んでけ~、てイメージするの。すると風が吹く。そして風に乗って消えるの。同じように、戻っておいで~、て。そしたら、また現れる。」


晃は手をとめて聞き入った。


「おばあちゃんがね、人にはそれぞれ神様から与えられた使命があり、一部の人間には特殊な能力があると言っていたの。でも、能力には限りがあるんだって。力が限界をむかえると、能力に関する記憶が消えてしまうって。だから大切な時以外は能力を使ってはいけないって。」


「それで、遊びをやめた。大きくなって、そんなことすっかり忘れてたんだけどね。」


七瀬は晃を真っ直ぐ見て言った。


「晃を、この時代へ飛ばしたのは私。」


 今更、驚くことは無かった。自分のタイムスリップには七瀬が関係しているのは間違いないと思っていた。


「なんだ、そんなこと。気にするなよ、こうして出会えたんだ。」


 あ、と思い焦って付け加える。


「もし元の時代に戻すなら、一緒だろ?七瀬と離れるなんて、考えられないからな。」


七瀬は優しい表情を浮かべた。


「そうね。Kの正体を突き止めたら、一緒に。」


 七瀬は、久しぶりに祖父母を思いだし、思いを馳せる。

七瀬の祖母はもうずいぶん前に亡くなり、残された祖父はすぐ、痴呆症でほとんど会話も出来なくなった。祖父は亡くなる前、祖母は若いころ自分の前に突然現れたと言っていたのを、七瀬は印象深く覚えていた。祖母もまた、私と同じ能力を持っていたのだろう、と今になって思う。


 七瀬を送り出し、自分は東京へ向かった。これから、ドラマの打ち上げパーティに出席する。

七瀬の選んでくれたスーツを着ていると、気が引き締まる思いがした。


これからが勝負だ。


 六本木のホテルの会場には、既に出演者とスタッフ、関係者が数十名集まっていた。晃は挨拶を交わし、ターゲットを探す。立食形式で助かった、自由に動ける。


脚本家の水原直子、演出家の吉田直樹、プロデューサーの佐藤健吾。彼らがスポンサーの三共食品の会長と接触する様子を観察する。半年間待ったチャンスを逃す訳にはいかない。


「晃くん、こちら、監督の奥様です。」

 マネージャーに促され、監督ご夫妻としばし談笑する。監督には本当にお世話になった。右も左も分からない俺に、厳しくも優しく指導をしてくれた。演技の良し悪しが、というより、人としての枠を広げてもらえたと感謝している。


 と、プロデューサーの佐藤健吾が近づいてきた。


「監督、奥様、いつもお世話になっています。晃くんはいかがでしたか?」

「いやいや、若いながらなかなかの逸材だと思うよ。曇っていない。今どき珍しいね。」


 自分の話題にはにかみながら、挨拶もそこそこにその場を離れる。

佐藤健吾はしばらくここから離れそうにない。他の二人は何処だ?


見つけた。


 吉田直樹は、主演女優の菅野優、助演の高畑美奈、堂本ひかりに囲まれ鼻の下を伸ばしている。古希を迎える歳になっても、二十代の美女にデレデレするのか。なんか、男って情けないな。こっちもしばらくはあのまま動かないだろう。


 佐藤と吉田を目の端に感じながら、水原直子を注視する。

脚本家というより、銀座のママという方がしっくりくる貫録のある妖艶な女性だ。

壁に背を向けて一人でワインを片手にたたずんでいる姿は、何かを警戒しているようにも感じられる。


 突然、水原直子はハイヒールの音を響かせ、会場の入り口の方へ逃げるように駆け出す。

晃はあわてて後に続いた。思い扉をあけると、水原の姿は消えている。


「しまった。」距離をとりすぎていた。辺りを見廻し、エレベーターが下の階へ降りていくのを確認する。エレベーターは11階で止まった。


ここは15階、間に合う!と思う前に、晃は階段を転がるように駆け下りた。


読んで頂いてありがとうございました!




評価頂けたら喜びます。次話も読んで頂けたら最高に幸せです。




ご指摘など頂けたら、すぐに対応したいと思います。




駆け出しですが、長くやっていきたいと思っています。よろしくお願い致します。

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