~作中に出てくる固有名詞及びに団体名は架空のものであり作者とは一切関係ありません~
第四話 森プロの闇
洗面所の鏡を拭き終えたところで、電話が鳴った。
プルルル・・・プルルル・・・ツーーピーー
「留守番電話サービスに接続します。ピーと言う発信音の後に60秒以内でメッセージをお話しください。」
「ピー・・・・」
「お世話になっております。森プロの葛西です。先日の選考結果をお知らせしたくお電話差し上げました。
ご不明な点があれば、折り返し頂けますようお願いいたします。」
「ピー・・・ギュ・・ギュ・・ギュ・・」
FAXがぎこちない音をたてて印刷される。
ここは七瀬の家だ。俺は電話にでるように言われていないが、この件は俺も関わっている。FAXに目を通すくらい、いいだろう。と心の中で言い訳をして、FAXの紙を手に取る。
≪秋吉晃様 第二次審査 合格≫
第三次面接日時5月17日(日)13時~
場所:四条センタープラザ7階 待機室・会議室D
(30分前に待機室にて説明があります)
審査室・別室にて(当日移動)
まさか。合格しているとは思ってもいなかった。森プロの豪華な俳優陣の顔がちらつく。あの中に自分が混じるかもしれない?「まさか。なに期待してんだ俺。」少し調子に乗った妄想をした自分に恥ずかしさがこみ上げる。
と同時に、七瀬の言葉を思い出した。
ストーリー詐欺・・・その中にでてきた劇団員、という役割が引っかかっていた。二次審査のあったビルの部屋は、幹部と劇団員が唯一接触できる場所。幹部はあの面接官の中にいたのか?劇団員て、どいつらのことだ?
頭の中を一度整理してみないことには、色々な情報で混沌としている。
ストーリー詐欺
(構成)
幹部⇒劇団員⇒実行犯⇒被害者
被害者は実行犯の親
劇団員は幹部に騙されている
だめだ。全く見えてこない。
七瀬と志乃さんはどこまで知っているんだろう。そもそも志乃さんは一体何者なんだ。次々に疑問が浮かぶ。
一昨日の遊園地から、七瀬とろくに会話をしていない。というのも、七瀬が多忙すぎるからだ。
芸子のお茶席は普通、昼の部と夜の部に分かれ、途中休憩をはさむ。普通なら21時にはあがり、22時ころまでには帰宅するのだろうが、七瀬は日をまたいで帰宅し、翌日7時迄には起床し、9時には出かける。
そこまで芸子という仕事に熱心なのは、情報を集めるためだと言っていた。七瀬の顧客リストには、大物政治家や各界のトップの名が連ねられている。もちろん芸能界も例外ではない。今回俺が、森プロのオーディションに潜入したということは、そこに何かあるのは間違いなさそうだ。
よくこれだけの数の名刺を記憶し、顔と名前が一致するものだと言ったことがあるが、七瀬はこの中に詐欺に関与している者がいると思うと、自然と頭にはいるのだと悲しく笑っていた。
ガチャリ
いつもとは少し違う音で玄関の開く音がする。
何だ?七瀬はまだ帰ってくる時間じゃない。
「おい小坊主。役者になるこころの準備は出来たか?」
「志乃さん、茶化さないで下さいよ!なんで鍵持ってるんですか。なんで合格したの知ってるんですか?」
「そろそろ通知がある頃だと思ってな。」
鍵には言及せず、ファックスの紙を眺める。
「センタープラザじゃったか!!やはり、近藤組か。」
「また俺を無視して、話を進めるのは無しだぜ。近藤組?て、指定暴力団の?」
「他に近藤組を知っとるのか?」
小馬鹿にした口調がイラつくが、またはぐらかされるのはごめんだ。水を差すのはよそう。
「センタープラザは近藤組傘下の不動産会社グリーンタワーが保有しとるビルじゃ。前に面接のあったビルは登記情報が個人名になっており、どこの持ちビルか特定出来なかったんじゃが。これで確信が持てた。グリーンタワー関連の個人の所有物のはずじゃ。」
なんとなく、話が見えてきた。森プロと近藤組とが何らかの繋がりを持っているということか。あのクリーンなイメージの森プロがまさか暴力団と繋がりがあるなんて、世間に知れたら新聞の一面を飾るだろう。まぁ、今のところ想像にすぎない。面接会場がたまたま、そこだっただけだ。
しかし、森プロは大手だ。本社は東京だが、京都にも事務所を構えているし、森プロならば自社ビルくらいありそうなものだが。
「おい小坊主、次の三次面接までに、お前さんに演技指導をしなければならん。」
「は?俳優の面接に行くために演技指導?こないだの面接じゃ演技力はむしろ必要ないって言ってたよな。」
「そうじゃ。今回の面接は、不自然さが命取りになる。自然に、普通ならこう、という演技が必要なんじゃ。」
もう、まったく意味不明。何が何だか。 しかしこの後、俺は全ての理由を知ることになる
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駆け出しですが、長くやっていきたいと思っています。よろしくお願い致します。