~美人すぎる芸子と遊園地デート~
第三話 僕は君が好きだ
面接会場は四階の会議室となっていた。三階の控室には晃と同じくらいの年頃に見える男達が思い思いに過ごしている。発声を行うもの、ストレッチをして緊張をほぐしている者。どの顔も真剣そのもので、この面接にかける想いが伝わってくる。
俳優になるなんて考えたこともない晃は、自分が場違いなところにいる気まずさに耐えかねて、のども乾いていないのに持っていたペットボトルの水を何度も口に含んだ。
面接の部屋には、五人ずつ入るように指示された。次が晃の番だ。スタッフに指示されるまま、部屋の中に入る。
「君たちには、書類審査で選ばれてここに来て頂きました。本当に多くの応募の中から、選考を重ねました。君たちの中から、私たちの期待する逸材と思われる人物を今後の森プロダクションの新人として全面的にバックアップしていきたいと思っています。今日は、自分のパフォーマンスを余すことなく見せて下さい。」
「それぞれに台本を渡します。それを三分間で落とし込んで下さい。演技中は台本を見るのも見ないのも自由です。」
すぐに台本が配られ、皆必死で食いつくかのように、むさぼり読む。
志乃さんの言葉を思い出す。
《いいか?台本は覚える必要は無い。うまく演技する必要もない。大事なのは、スタッフの指示に従順に従うこと。そして疑問を口に出さない事。勝とうとせんでいい。むしろ、目立たないくらいが丁度いい。》
なんとも楽な指示。勝つ必要がなければ、台本を見ながら演じようと構わないってことだ。晃は周りの緊張をよそに、ひとり別のことを考えていた。(この中に明日のスターがいるかもしれないんだよな。なんかスゲーな)
あっという間に三分は過ぎ、順番に熱の入った演技を披露していく。
『僕は、君が好きだ。子供の頃から君をずっと見てきた。もう自分に嘘はつけない。君を誰にも渡したくない。』
晃の演技は散々だった。台本を持ったままの棒読み。勝つ必要が無いとはいえ、ひどいものだった。晃の演技は他の参加者の緊張をほぐしたに違いない。
演技審査の後に、一人ずつ簡単な質疑応答があり、主に家族のこと、特に親との関係について聞かれた。
晃は、志乃さんから指示された通りに答えた。
「両親は他界し、家族は祖母だけです。別々に暮らしていますが、僕のことをとても可愛がってくれていて、俳優として成功し、祖母を喜ばせてあげたいです。」
「おばあさんと仲が良いとのことですが、毎日のように連絡をとっていますか?」
「いえ、用事がある時以外はあまり連絡していません。盆や正月なんかには必ず帰るようにしています。」
変な質問だな、と思いながらも、聞かれたことに志乃さんのシナリオ通り答える。俺、意外と役者向いてるかもな。
面接は意外と早く終わった。結果は後日連絡があるということだった。
喫茶店に戻った俺は、志乃さんと七瀬に満面の笑みで迎えられた。全てマイクで聞かれていたことをすっかり忘れていた俺は、愛の告白シーンを演じたことを思い出し、今更ながら全身に汗をかいた。
「晃、これから遊園地行くよ!」七瀬の悪戯な口元から笑みがこぼれる。
「もう、頼むから勘弁して。」
七度目のループコースターに涙目になりながら、声を絞り出した。
絶叫マシンは苦手だ。俺が怖がる様子を見て、七瀬は何度も腹を抱えて笑った。
こんなに子供のようにはしゃぐ七瀬を見たのは初めてだった。
嫌がりながらも、こうして付き合ってしまうのは、この笑顔をずっと見ていたいからかもしれない。
「最後に、観覧者乗ろ?」
上目使いで言われて、思わず顔が赤くなる。
七瀬は意識して目線を使い分けているとしか思えない位、くるくると表情が変わる。その変化にいちいちドキドキしていることを隠すため、わざとそっけなく「おう。」とだけ返事をした。
ゆっくりとまわる箱。外はすっかり暗くなり、遊園地の灯りがキラキラと万華鏡のように輝いている。
いつもはよく喋る七瀬が、いつになく静かで、向かい合って座っているその距離を遠く感じた.
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