~美人すぎる芸子に飼われることになった俺、カップ麺ねだる~
第一話 流されるまま
ラジオからザラザラした音がもれている。
「やっぱ長渕だよな~。」
つぶやきながら、晃は自分の部屋から軽快に階段を駆け下り、台所の戸棚を探る。見つけたカップ麺の蓋を乱暴に空け、お湯を注いだ。 時計を見ることもなくフライング気味に蓋を空けた瞬間、窓から風が舞い込み、晃は吸い込まれるような感覚を覚えた。
数秒、いや、全く時間の経過を感じないまま、目の前からカップ麺は消えていた。晃がカップ麺は???と思うより前に、けたたましいクラクションを鳴らす車が晃の横をすり抜けていく。
「クソガキ!轢き殺されてぇのか!」
「なんだてめぇ、やんのか!!」
と怒鳴り返すも、車は既に遠くに見えた
くすくす。
歩道の向こう側で女が笑っている。胸糞わりぃ。と、こちらへ真っ直ぐ向かってきた。
切れ長な瞳が印象的な美女?いや美少女?あどけなさを残しつつ妖艶な、不思議な魅力を持つ女だ。
なんだ?いちゃもんつけるなら、女だって容赦しねぇぞ!と叫ぼうとして、腹がぐう~と鳴いた。
あ~!!カップ麺食いてぇ。そうだ。カップ麺。あれ、、、俺いま何してんだ。いや、、、それよりここ何処だ?
鼻腔にはそのインスタント特有のくせになる匂いが鮮明に残っている。
「遅いじゃない。」
女はいきなり距離を詰めると、真っ直ぐな瞳で晃にキスをした。初めてのその感覚は、うわさに聞く甘さは全く感じられなかった。
動揺を隠すかのようにラジオ体操第二をはじめる晃。
「さ、行くよ!」
と晃の手を引いてごきげんに歩き出す七瀬。
なかなか顔の火照りの冷めない晃は、手を離すも、七瀬について歩く。
「なぁ、なんなんだよ!お前誰だよ。てかなんなんだよ!!!!」
急に立ち止まり、振り返って首をかしげる仕草をみせる。悪戯な口元が不覚にも可愛いと思った。
「質問一、ここはどこでしょう?二、あなたは誰でしょう?」
あ~イライラしてきた。いい女だけどぶん殴ってやろうか。いや、別に可愛くねぇよ!
誰に冷やかされた訳でもないのに、また顔が赤く染まる。
「俺は晃、秋吉晃。」
ぼそりと言って周りを見渡すと、四条の交差点辺りにいることが分かった。
角にあるはずの土産物屋がなにやら違う店構えに変わっていることに若干の違和感を覚えたが、間違いない。
「ここ、四条だろ。」
言いながら、おかしいと気付く。
俺は確かに、家にいた。なんで外に出てんだ?もしかして、夢遊病?そもそも夢なんじゃないか?
「正解!じゃ、晃、、、服買いに行くよ!」また強引に腕をくんで歩き出す七瀬。
もともと考えることが苦手な晃は、「わけわかんねぇ。」とつぶやきつつ七瀬の華奢な腕に気付き、耳まで赤くなった顔を隠すように七瀬より半歩先を歩いた。
「そこ、右ね。いいよ、その店入るよ。」
言われるままに、普段足を踏み入れたことのない横文字のセレクトショップに入る。晃が買い物をする時は、地元の商店街の決まった店だった。
店に入ると、奥から妙に色気のある細身の女が出てきた。うわさに聞くハウスマヌカンてヤツか。
「面白いじゃない。どこの病院から逃げ出してきたの?裸足にパジャマ君。」
言われて初めて自分が裸足だと認識する。
そういや足の裏、痛ぇ。
「この子かわいいでしょ?私の彼氏。よろしくね!とびきりいい男にお願いね。私が連れてておかしくないように!」
「オッケー、腕が鳴るわ!」
試着室で気が遠くなるほど着替えさせられ、空腹もありイライラしてきた。
「お前、誰なんだよ!彼氏って何だよ?」
「似合うじゃない。これ、全部いただくわ。」
晃の言葉には答えず、山のような買い物袋を晃に押し付け店を後にした。
「なあ、どこに向かってんだよ。そもそもお前誰だよ。何で俺のこと知ってんだ?」
二人は四条の真ん中に位置する高級マンションの前にいた。
「私は橘七瀬。なな葉とも呼ばれているわ。七瀬でいいわよ。」
涼しい顔でマンションのオートロックを開けると、晃にも入るように促した。
晃は、女の部屋に入るなんて思いもよらず、足が止まる。
「何?いやらしい事でも考えてんの?」
薄いピンクの、おそらく口紅は引いていそうにない唇はしっとりと濡れたように光っていた。
「ば、馬鹿いってんじゃねぇよ!」
最高にぎこちないあしどりでエレベーターへと足を進める。
最上階は贅沢な作りで、一戸の広い造りになっているようだ。
「さ、入りよし。」
急に京ことばになり、悪戯な笑みを浮かべながら七瀬が先に入り、小さく手招きをする。
晃は足を止めた。このままどうなってしまうのか?不安になったのだ。
いい女が初めて会った男を部屋にあげる?
本屋で立ち読みした半グレモノの漫画を思い出す。
これって、美人局とかいうやつじゃねぇ?中に怖いお兄さんがいて、ぼこぼこにされて身ぐるみ剥がされる?
七瀬は躊躇している晃の手首を掴むと、女とは思えない力で引っ張りこんだ。
ドアのカギを素早く締めると、奥に入っていく七瀬に、観念したように晃も続いた。
「そんな怖がらなくても、誰も取って食べやしないわよ。お腹空いてるんでしょ?」
キッチンの籠に入っていたりんごを正確に晃の手に投げた。晃は、りんごには口を付けずに、
「カップラーメンねぇのかよ。」と低い声でつぶやいた
「カップラーメン、ほんと好きよね。」懐かしげに微笑むと、また手招きをする。
廊下の左右にある部屋の右側の扉を開いて言った。
「今日からここがあなたの部屋。自由に使って。まずクローゼットに服をしまって。話はそれからよ。」
とりあえず、身の危険はなさそうだと思ったが、やはり七瀬に自分を見透かされているようでいい気はしない。
「ほんと、なんなんだよ。」ためいき混じりに言うと、リビングのソファーに深く腰掛けた。
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駆け出しですが、長くやっていきたいと思っています。よろしくお願い致します。