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野崎さんは自分を理解していた。
彼女の一言にその場の意見は収束していく。
まるで砂場に磁石を近付けたら砂鉄が纏わりつくように、我先にと賛成の意が表明される。
「だよね!」
「俺も西野カナには前から注目してたんだよなぁ」
「分かる」
「歌上手いよね」
「歌詞が良いんだよ」
彼女の影響力とは容姿に由来するものだが、男性社員のみならず女性社員に対してもその効力はいかんなく発揮されていた。
異性を惹きつけて止まない人物がいる。
そういった人物が同性から支持されるか、あるいは疎まれるのか。
同性ではなく周囲と言い換えても良い。
支持は分岐していく。
明確に二極化する。
分岐点がどこに有るのかを俺は大学時代に実感した。
それはなんなのか。
その容姿によって得られる影響力をどれだけ他者のために行使するか否かにある。
俺はそう結論付けた。
大学時代、モテる男が周囲に三人いたが評価の差は歴然だったのである。
三人の容姿に差はそこまで無かったと俺は認識していた。
しかし彼らの振る舞いには歴然とした差が有ったのだ。
一人目はただ経験人数を自慢し、他人を馬鹿にするだけだった。
二人目は取り巻きを作り、従順な人間に異性を『紹介』する。
三人目は多くの人間と仲良くしていた。性別に関わらず立場の弱い人間の味方として振る舞う。合コンでは無く旅行や娯楽施設へ分け隔てなく声をかけて誘い、引き連れて行く。
自分のグループに入っていない者や誘いを断り続ける者であっても、困っている時には手を貸していた。
手を差し伸べるのでは無く、手を貸す。
そして対価として何々を奢れと誘い出し、親睦を深める。
奢れと言っておきながら、結局は割り勘。
「俺も楽しかったから」と屈託の無い笑顔で言われたら陥落してしまう。
少なくとも、俺はそうだった。
結局、一人目は『雰囲気イケメン』と評価されるようになり、二人目は『中途半端なイケメン』に分類され、三人目こそが『真のイケメン』と呼ばれるようになった。
繰り返し言わせてもらうが、三人の容姿にそこまでの差は無かったと俺は認識している。
実際、最初の内は三人の容姿に評価の差は無かったはずなのだ。