5
「ほら、純也も肉食えよ!」
先輩から肉を差し出された。
バーベキューの準備をしている時は冷たく感じたが、いざ始まると一転して好意的になる。
それも当然と言えば当然だ。
閉鎖空間でデスクワークをしていれば苛立ちも募り刺々しい態度で人に接してしまうが、開放的な青空の下にいれば自然と爽やかに振舞うようになる。
バーベキューの準備段階では爽やかな気分が漂っていなかったが、バーベキューが始まれば気分爽快だ。
「ありがとうございます」
俺は精一杯爽やかな笑顔で肉を受け取った。
美味い。
肉自体はそう大したものでは無いかも知れないが、そこに至る経緯が肉の美味さを何倍にも増幅させていた。
炭火は時折、網を超えて燃え盛る。
汗が皆の頬を伝うが、誰一人不愉快な表情など浮かべていない。
体育会系は好きではないが、それが流行る理由は納得が行く。
俺が体験しているのが体育会系に分類される行事なのかは定かでないが。
一時的とはいえ事務処理から解放された状態で時間を共有する社員たち。
自然に事務的ではない会話が飛び交いだす。
飲み会とは違い会計の場面が無いから遠慮も無い。
しかし気遣いはあった。
そう、あった。
「普段どんな音楽聴く?」
いったい誰が投げかけた問いなのか。
「俺は三浦大知かな」
「私は西野カナが好き!」
「小田和正とか」
「米津玄師っしょ」
「最近は聴いてないけどポルノグラフィティ」
各々の好みを言い合っている。
「はぁーっ」
先輩の金子が溜め息を吐く。
「どうした金子? 金子はどんな音楽聴いてんだ?」
金子と同期の佐藤が訊ねた。三浦大知の名前を挙げた人物。
脳内では敬称略。
「いやぁー、趣味合わねーなぁって。ほら、俺洋楽ばっか聴くじゃん? みんな邦楽しか聴いてねえみてぇだからさ、溶け込めねぇーなぁって」
金子はやれやれと言った調子で嘆く。
「西野カナよりもテイラースウィフト聴こうよ! 米津玄師よりもエドシーラン聴こうよ! 小田和正よりもブルーノマーズ聴こうよ! もっとグローバルにさぁ! 世界的アーティストの楽曲を聴けるんだぜ!?」
俺たちを啓蒙する金子。
いや、俺はまだ自分の聴く音楽を言っていないから違うか。金子にとっては同じだろうが。
「……」
沈黙が木霊する。変な表現だが、そんな感じがした。
「……お前さ、他人の趣味を否定すんなよ。仕事じゃないんだからよ」
佐藤が沈黙を破り、場を取り成そうとする。
「なに? 怒っちゃった?」
金子は肩をすくめた。
「わーるぃ悪い、俺、ズバッと言っちまうタイプだからよォ」
「……」
再び沈黙が木霊する。
「まっ、でも? 普段洋楽しか聴かねえ俺でも、三浦大知は聴ける方か……な?」
気まずくなって譲歩したのか、調子に乗って音楽評論しているのかは分からないが、饒舌に語った。
しかし金子が語り終えた後、沈黙は訪れない。
「あのよ、世界的アーティストは凄いのかも知れないけど、『洋楽しか聴かないお前』の評価になんの価値が有るんだ?」
佐藤は食ってかかる。
険悪な空気が充満した。
折角の山なのに。
「私も西野カナ好きだな」
野崎さんがポツリとつぶやく。