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目的地に到着した。
正確に言えば、乗り物で行けるところまでは来たってところか。
新幹線や電車、バスを乗り継いで山の麓まで来た。
タクシーやレンタカーを借りたいところだが、アスファルトで舗装された道は無い。
道はあるが、歩いて行かなければならないのだ。
やっぱり不参加で良かったかな?
接近する台風の影響で雨が降っている。
雨雲で照り付くような日射しは緩和されているが、蒸し暑さは健在だ。
土がぬかるんでいて足場として心許無い。
山奥の別荘に向かう訳だが、社員の中にはすでに不満を表情に出す人がいる。
俺? 俺は勿論平静を装っていた。
装っているだけで、内心は不満なんだけれどね。
だってそうだろう?
森林浴だかなんだか知らないが、曇天でやる行事か?
だがぁっ! だぁがしかしぃっ! 悪天候なれども太陽は我らに有り!
皆が不満を顔に滲ませながらも、それを言葉にしないのは彼女がいるからだ。
そう、野崎春香その人である。
悪路の踏破を始めてからそこそこ時間が経過した。
しかし野崎さんは弱音も愚痴も吐かずに歩いている。
彼女は集団の先頭辺りを歩いている。
俺? 俺は集団の真ん中辺りだね。
他の社員よりも一歩リードしているはずだったのに、今では野崎さんの背中を離れた場所から追うだけ。
時折、近くにいる男性社員が野崎さんに気を遣い休憩を提案したり荷物を持つ事を提案するが丁重に断られていた。
荷物の肩代わりを固辞して自分で持つのは彼女の理念なのか、あるいは他者に手荷物を預けたく無いからなのか。
それは分からないが、とにかく野崎さんはタフだ。
別に男が女よりも強くなれなければ駄目なんて事は無いし、女が男より弱くなければ駄目なんて事も無い。
そしてそんな二人が結ばれてはならないなんて事も無い。
だけどね、やっぱり見栄を張っちゃうんだよ。
見栄を張るというか、背伸びしちゃうんだな。うん。
地べたに尻餅を着いて愚痴を零し合うよりも、背伸びをしてでも頑張る方が格好いいじゃないか。そうだろう?
ネチネチしているのは雨でぬかるんだ泥だけで充分。
山道は舗装されているけれど、さっきも言ったようにアスファルトの地面では無い。
勿論、大理石の地面でも無い。地面って言うか、大理石なら床だな。
とは言え舗装されている。それでも土の地面がほとんどで、靴の裏に泥がこびりつく感覚が有った。
青空でも見えていればハイキングとして楽しめたんだろうけれど、青はどこにも無い。
と、思いきや。
「はっ……はっ……はっ……」
青色吐息が聞こえてくる。
青が有った。吐息だから見えないけど。
俺の少し後ろを歩いている坂本紅葉だ。