呪詛の祝言~リテイク~ 悪性継承
年末にこんなのを書いてしまい、申し訳ございません・・・なんて微塵も思ってません。
あ、でも、これを読んで気分が悪くなったらごめんなさい。
年の瀬に咽び泣く声が反響する。一つの時代が終わる証明、音が各所に届いた頃にはすべてが過去になる。
時代が変わる。すべては未来に向かって進み続ける。過去を振り返ることは重要だが、必須事項ではない。過去の偉業は後世に語り継がれるが、過去の罪は払拭できない。
私はついこの間出所した。罪状は窃盗・・・とても小さな罪だ。けれど法を犯した事に変わりはない。どうしても我慢できなかった。どうしても盗りたかった。だって、そうしなかったら私が壊れていたから・・・。
「はぁ~また書類選考で落ちちゃった・・・」
出所した人間にとって折の外での居場所は限定されている。親には勘当され、友人との縁は切れ、務めていた会社はクビになった。
私の罪を知るみんなが言う。お前は犯罪者だ。なにのうのうと外を出歩いているんだ。お前みたいな奴が年を越すとかあほらしい。この人殺し。近寄らないで。
「そんなにアレを盗んだことが悪いことだったのかな・・・」
就職活動なんてうまくいくはずもない。お金は親から渡された手切れ金のみ。それだってもうすぐ底を尽く。住まいも確保できていないからカプセルホテルに連泊するはめになる。
「お腹空いたなぁ・・・寒いなぁ・・・」
寒空の下、まだ賑やかさが絶えない公園の片隅で身を屈めながらしんしんと降る雪を見つめていると自分の感情が普段よりもより深く浮き彫りに感じる。
この世のすべてが空虚に感じる、流石にこれは言い過ぎだ。
犯罪者になってしまった者の多くは自分のしたことを悪いことだと自覚している。自覚しているからこそ、自分が今まで築き上げてきたものが大きければ大きいほど、そこから来る罪悪感に押しつぶされる。という自責の念を形成して自身の存在証明を確保しようとする。だから、決して押しつぶされているわけではない。
自分が反省している。自分は反省できている。きっと今の自分を救ってくれる転機が訪れる。そんな淡い幻想を見ながら次の人生に備える。それができない人は自殺するか再犯を繰り返す。
「あ・・・」
目の前に男が立っている。男の視線が向く先にはとても温かそうな一軒家が建っている。ここからベランダの中が僅かに見える。そこに映る光景は、なんとも幸せそうな――――。
「あ、あの!」
私はたまらなくその男に声を掛けた。
「アん?なんだよ、なんか俺に用か?邪魔なんだよどっかいってろ!!」
男はいらついているのか、私に対して必要以上に冷たく当たる。
けれど、私にはそれがどういう意図をもった言葉なのかかが正確に理解できた。だからこそ、私に止まる理由は無かった。
「あなた、今そこの家を壊そうとしましたね」
男は私の言葉に対してハッと驚くわけも無く、ただ何言ってんだコイツという視線だけを私に向ける。
「いいから、どっかいけよ!!邪魔なんだよ、意味わかんねぇし」
「あなたは、あの幸せを壊そうとしましたね」
ここまで言って、私の言いたいことを理解したのか男は私に詰め寄ってくる。
「おい!いいからどっかいけっつてんだろ殺されてぇのか!!」
男の恐喝は公園にいる人々にまで届いてしまったのか、私の背後でざわつく声が目立つ。
「ッち!くそ、覚えてろ!!」
男は気まずくなったのか、はたまた人々の注意が自分に向いてしまったせいか、その場を離れることを選択した。
私も無理に男を追おうとは思わなかった。だって、男はまだ何もしていないのだから。
「大丈夫でしたか?」
公園から出てきた一人の男性が私を心配したのか声を掛けてくれた。
私は、ありがとうございますと応えながら振り向いた。けれど、その先の出来事がどうなることなのかは、はじめからわかっていた。
「あ、お、お前!!犯罪者の――――」
・・・男が私についての持ちうる限りの情報を言葉に載せると、公園の中にいた人々は途端に悲鳴を上げたり、冷たい視線を向けたり、中には警察に通報したり・・・。
「あ、あの・・・通報しないでください。私、何もしてないです・・・」
「黙れ殺人鬼!!お前そこから動くなよ!近づくなよ!逃げるなよ!!」
「待ってください!!私、殺人鬼なんかじゃありません!信じてください!!」
私の必死の訴えが意味を持つことなんてあるわけがない。私には、どうしようもない。逃げる気力もない。
「私、本当に何もしてないんです・・・本当に、本当に何もしてないんです・・・」
「嘘つくな!ニュースになってたぞ、お前は殺人鬼だって!!」
「そんなの・・・嘘です!私を信じてください!!私はただ――――」
――――幸せになりたかっただけなのに・・・。
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久留須市女児怪死事件 無断コピー
被疑者:咲本玲那(当時24歳)
報告:2014年1月1日水曜日。久留須市における女児怪死事件の容疑者として咲本玲那が自ら証拠物品を携帯して署に出頭した。しかし、当人に殺害行為をした自覚は無く、窃盗罪であるという主張を繰り返す一方である。現在は精神病棟に入院中となってはいるが、彼女が携帯していた凶器から女児のDNAが検出されたことにより逮捕に至る。
当人の言い分としては、「私はあの子(被害者)の幸せを多少強引に盗っただけ。あの子の家族が幸せそうだったから、その中心にいる、幸せを一番多く受け取っているあの子の幸せを御裾分けしてもらおうと思ったけれど、どうにも難しかったから・・・幸せを受容する脳と幸せを内包できる身体の源である心臓を盗っただけ」
上記のような明らかに常軌を逸している思考と証言も踏まえて、彼女を被疑者として確保し、精神病棟に移送することが決定した。
同年1月17日金曜日追記:咲本玲那の身辺調査の結果が揃った。久留須市の大地主である咲本家に所縁のある者との確認が取れた。正確には、本家にあたる大地主の家系の分家にあたる身分の嫡女。家族構成は父のみ。母親にあたる人物との関わりはほぼ無かったようだが、存命であり確認も取れている。兄弟姉妹はいない。本家の咲本家との関わりも薄いため、あまり情報は聞き出せなかった。大手企業である咲本建築株式会社に二年程務めていた模様。
現在、精神病棟での入院期間が延ばされる動きが進んでいる。この延長に意味があるのか、この話が何処から出たものなのか、その一切が報されていない。上司に掛け―――――
この先の文面が不自然にも丁寧に切り取られている。咲本玲那本人との接触そのものが禁じられているため、私も今年で定年ということもあり情けなくも怖気づいてしまっているため、これ以上は深追いできない。この先は、警察関係者以外の者たちによる協力が必要となるだろう。
PS. 霧矢、この件を継ぐかどうかはお前に任せる。もし、継ぐのなら身辺整理だけはしておけ。
読んでいただき誠にありがとうございます。
呪詛の祝言~リテイク~ 本編の続きを書く目途が立っていない状況ではありますが、ちょっとした情報の小出しとして読んでいただければと思い書くことにしました。