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5 復讐の魔術師

「クロム様!」


 赤い閃光と化したシアが、俺の元まで戻ってきた。


「……シア?」


 彼女は、無事とは言い難い状態だった。

 甲冑のあちこちが砕け、腕や足から血が滴っている。


「何があった」


 聞くまでもなく、予想はついた。

 マイカとの交戦で命からがら逃げ延びた、といったところか。


「……申し訳ありません」


 シアはその場に崩れ落ちた。

 真っ青な顔で気を失ってしまう。


 どうやら体力の限界まで走ってきたらしい。


「おい、シア……!」


 俺は慌てて彼女の側にしゃがみこみ、手早く止血や消毒を始めた。


 腕力が衰えているため、鎧を外すのにも一苦労だ。

 ユリンに手伝ってもらい、アンダーウェア姿にする。


 豊かに盛り上がった胸の谷間に、ハート型の紋様が浮かんでいた。


【従属者】の証である紋様だ。


「……ん?」


 その意匠が以前とは変化している。

 より複雑で精緻なデザインへと。


「一体どういうことだ……?」


 気になったが、今は手当てが先だ。

 ユリンにも手伝ってもらい、俺は彼女の応急手当てを済ませた。




「村で何があったんだ、シア」


 彼女を休息させた後、俺はあらためてたずねた。


「その……」


 シアがユリンをチラリと見る。

 言いづらそうにうつむいた。


 暗い表情を見れば、おおよその察しがついた。

 おそらく、ユリンの村は──。


「話してください」


 ユリンがシアを見つめた。


 青ざめた顔だ。

 彼女も、自分の村に何が起きたのかはだいたい想像がついたのだろう。


「ごめん……あたしが到着したときには、村はもう……」


 シアが頭を下げた。


「死体の山が、積み上がっていたの……生きている人がいるかどうかも……」


 ユリンが息を飲んだ。

 その顔が血の気を失い、蒼白になる。


「う、嘘……嘘です」


 シアは無言で首を左右に振った。


「お父さん、お母さん……みんな……」


 みるみる、その目に涙がたまっていく。


「マイカの仕業か?」


 たずねる俺。


『闇の鎖』は生け贄を必要とする禁呪法だ。

 奴が村人たちを生け贄に捧げたのかもしれない。


「おそらくは……ううっ」


 うなずいたシアは、まだ傷が痛むのか、顔をしかめた。


「大丈夫か?」

「は、はい……マイカが攻撃してきて……応戦しましたが敵わず、あたしは逃げてきました……」


 傷口を押さえつつシアが答えた。


【闇】のスキルを持つ彼女でも敵わないとは。

 マイカは【闇】か【光】の力を得ているのかもしれないな。


「──行くか」


 俺は決断した。


 村が全滅しているなら、ユリンをここに待機させておく意味はない。

 たとえ魔物を呼び寄せても、被害を受ける村人自体が残っていないなら、な。


 第一、ユリンは一刻も早く自分の目で村の状態を確かめたいだろう。


「シア、ユリン、一緒に来てくれ」




 村に到着したころには、月が出ていた。

 淡い月光の下、折り重なった無数の死体が青白く照らし出されている。


「ああ……」


 ユリンはかすかな息をもらし、その場に崩れ落ちた。

 呆然自失の状態だ。


「あ……あ……ああ……」


 断続的なうめき声と、嗚咽がもれる。


「ユリンちゃん」


 シアがその側に屈みこみ、ユリンを抱きしめた。


「ようやくご到着ですか。待っていましたよ」


 死体の山の向こうから、小柄な人影が進み出る。

 距離は約15メートル。


 鮮やかな赤い髪に、少女のように可憐な美貌。

 ヴァレリーの弟子、マイカだ。


 だが、研究所で会ったときとは雰囲気が変わっていた。

 血走った目は俺を憎々しげににらみ、口元は固く引き結ばれている。

 血の気を失った顔は、それでも華やいだ乙女のような印象をなお保っている。


 美しき復讐者──。

 そんな印象の少年魔法使いが、俺に右手を突き出す。


「スキル【祝福の矢】」


 同時に、彼の前方で黄白色の光が弾けた。


 再収束した光は、羽毛に似た形に変わり、矢のように飛んでくる。

 次から、次へと──その数はおおよそ百。


「あれは、あたしの【切断】でも切り裂けなかった攻撃です! しかも、避けてもどこまでも追ってくる──」


 シアが隣で警告した。


 光の羽毛群は俺に向かって四方から突き進み、


 ばしゅっ……!


 俺の全身からあふれる黒い鱗粉のような輝きに触れたとたん、跡形もなく消滅した。

【固定ダメージ】の効果範囲である10メートル内に入ったのだ。


「切り裂く必要も、避ける必要もない。消し飛ばすだけだ」


 言って、俺はマイカを見据えた。


「【光】の力を得ているようだな……」


 直感的に悟る。


 今の攻撃は『魔法』じゃない。

 魔力の発動をまったく感じなかった。


 やはり、マイカは『闇の鎖』によって【光】を身に着けたんだろう。

 二年前のユーノと同じように──。


 記録オーブの情報だけで自分なりに術式を組み立て、ヴァレリーがおこなった『闇の鎖』を再現するとは。

 さすがに、マイカも一流の魔法使いだけのことはある。


「いい練習台になりそうだ。ユーノの前に、まずはお前の【光】を打ち砕く」

「僕の【光】でヴァレリー様の恨みを晴らします。覚悟してくださいね」


 にいっと歪んだ笑みを浮かべるマイカ。




 そして。


 俺は初めて、【光】との戦いに挑む──。

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