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4 第一歩

 野盗たちを全滅させた俺は、街道を進んでいた。


「しかし、この体は虚弱すぎるな」


 歩くたびに、体の節々に痛みが走る。


 野盗の一人に殴られ、地面に叩きつけられただけで、腕の骨にヒビが入っていたらしい。

 町に着いたら、教会に行って僧侶に治癒してもらうか。


『禁呪法『闇の鎖』を受けた影響ですね。あなたの身体能力は、一般的な人間よりも大きく劣っています』


 胸の中から【闇】の声が響いた。


「回復する方法はないのか?」

『一つだけあります。禁呪法によってあなたから失われたもの──体力や魔力などは、すべて勇者を強化するための【光】へと変換されました。ですから、その【光】ごと奪い返せば、あなたから失われたものは元に戻るでしょう』

「【光】……?」

『今は勇者の元にあるはずです』

「ユーノか」


 俺は顔をしかめた。

 憎しみがまたよみがえる。


『ふふ、その調子ですよ。ダメージ数値が8まで上がりました』

「数値が多少上がったところで、ユーノを今すぐ倒すのは無理だろう。あいつは曲がりなりにも勇者だからな。それに仲間たちもそれぞれ一流の戦士や賢者、僧侶たちだ」


 俺はため息をついた。


「当面は、この衰えた体で生活するしかないわけか」

『【闇】の力の中には、【飛翔】や【加速】といったスキルもあります。それらを発現すれば、普通の人間の数倍の速度で動けますよ』


 と、説明する【闇】。


「俺の身体能力を補えるってことか?」


 それを先に言え、と思いながら、俺は【闇】にたずねた。


『ただし、あなた自身は呪いの効果のために、それを使うことはできません。現状、使用できるスキルは【固定ダメージ】だけですね』

「……結局、駄目なんじゃないか」

『いずれ、スキルを付与できる【従属者】が現れれば、あるいはあなたの足りない部分を補ってくれるかもしれません──』

「えっ」

『いえ、それはいずれ説明しましょう。あ、町が見えてきましたよ』


【闇】の言葉に、俺は前方へ視線を向けた。


 城壁に囲まれた町が、はるか前方に見えた。


 まずは、休もう。

 そして力を蓄えるんだ。


 たとえ何年かかっても、あいつら全員に復讐を遂げるために。


【闇】を、育むんだ──。




 二年が経った。


 その間、色々と苦労があったり、いくつかの戦いに巻きこまれたりもしたが──今は、それはどうでもいい。

 ようやく、目的を果たせるだけの圧倒的な力を得た。


「後は──進むだけだ」


 山道を、俺は一人で歩いていた。

 もう少し先にはオーガの群生地がある。


 かつて、俺が勇者パーティにいたころも避けて通った難所だった。


 オーガは単体でも高い攻撃力と耐久力を有している。

 それが群れで行動するとなれば、手の付けられない凶悪な軍団と化す。


 誰も近づく者はおらず、こんな場所をわざわざ通るのは俺くらいのものだろう。


 がさり、と茂みから音がした。

 巨大な影が三つ、前方から歩いてくる。


「さっそくオーガのおでましか」


 筋骨隆々とした薄緑色の体躯。

 身に着けているのは腰布ひとつ。

 それぞれの手に、丸太をそのまま削り出した棍棒を携えていた。


「距離はどれくらいだ」


 つぶやいた瞬間、俺の視界の隅に『20』という数字が表示された。

 きっかり20メートルのようだ。


 これは俺のスキルの副次的な効果だった。

 念じることで、対象との距離を数値化して表示できるのだ。


 スキルの射程は10メートルだから、もっと近づかなければ効果を発揮しない。

 当然、前進あるのみ。


 恐れるそぶりをまったく見せない俺に、オーガたちのほうが少し戸惑った様子だった。


 俺はゆっくりと歩みを進めた。


 身体能力でいえば、俺の脚力は老人と大差ない程度だ。

 少しずつ、前進した。


 3メートル、距離を縮める。

 5メートル、距離を縮める。

 7メートル、距離を縮める。


 俺は歩みを止めず、オーガとの距離が十メートルにまで縮まった。

 直後──、


 うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおんんっ!?


 苦鳴と、悲鳴。

 三体のオーガは無数の光の粒子と化して、一瞬で消滅した。


 まさしく瞬殺。


 体力値(HP)が9999以下なら、スキル効果が発動した瞬間にすべて死ぬ。


『そもそもHP9999を超えるモンスターなど、数えるほどしかいませんので』


 俺の中から澄んだ女性の声が響く。


【闇】。


 二年前、ユーノたちに裏切られ、殺されかけた俺に宿ったそれは、まさしく【闇】そのものだった。

 俺にこのEXスキル【固定ダメージ】を与えてくれた存在。


 一体何者なのか?

 天使や悪魔の類なのか、それともスキルに疑似人格のようなものが発現しているのか、あるいは──。


 正体はいまだに分からない。

 まあ、正体なんてどうでもいいか。


 俺が欲しいのは力だけ。

 その力を【闇】は与えてくれた。


 俺の中の闇が濃くなればなるほど、ダメージ値が増すといわれたが、その値が今では上限である9999にまで達していた。


 俺の周囲10メートルにいる敵すべてに、3秒ごとに9999ダメージを与える、恐るべきスキル。

 次の3秒でまた9999ダメージ、さらにその次の3秒でもまた9999ダメージ……と3秒ごとにダメージを与え続ける。


 ダメージを与える対象は大まかに分けて二種類あった。


 一つは、俺が殺意を持って敵と認識した存在。

 もう一つは、俺に対して害意を持つ存在。


 この二つだ。


 害意に関しては、一定以上の負傷等を負わせようという意思、ということになる。

 この『一定程度』は数値化することはできないし、俺にも正確なところは分からない。

 まあ、少なくともなんの罪もない一般市民を虐殺、なんてことにはならない。

 もしそこまで無差別的な殺傷能力なら、俺は二度と人里には足を踏み入れないだろう。


 俺はふたたび進み始めた。


 その後もオーガたちに出くわしたが、いずれも現れる端から消し飛んだ。

 あるいは、俺が目視する前に、範囲内に入ってひとりでに消滅する。


 そうやって歩くだけでオーガの群れを消滅させていき、俺は山を越えた。


 この先に、町があるはずだ。

 とりあえず、今日の宿はそこで取るとしよう。


 いよいよ復讐を始めるために。

 その英気を養うんだ。

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