一里塚
人によっては不快な内容かもしれません。年齢制限がつく、というわけではございませんが、ご了承ください。
彼女は学校のことを『一里塚』と呼ぶ。
ちょうど家から4キロのところにあるからだそうだ。
「それだけじゃないけどね」
と、彼女は苦笑しながら続けた。
「私が死ぬまでの一里塚だよ」
この子は、まだ花の女子高生のくせに、『死』についてよく話題にする。
そして、彼女の家庭教師である私は、仕事とは
全く関係ないのに、彼女の自分が存在しなくなることについて
の話に、凝りもせずに乗る。
◆
「私が生まれて初めて『死』を覚悟した瞬間は、いつだと思う?」
今日も彼女は、どうでもいいことのように私に話題を振った。
「さあ……、車にひかれかけたとか?」
「違う。母親に、私が描いた絵が見つかった時だ」
どうでもいいが、どうして彼女は、4つも年上の私に敬語を使わないのだろう。
「小5の時のことだった。車にひかれた猫の死骸をスケッチしたものだったんだが、
3時間正座の罰だった。あれはきつかったなあ」
彼女の変人っぷりは小学生の時からすでに開花していたらしい。
「なんでそんなものを絵に描いたんだい?」
彼女は遠くを見ながらつぶやいた。
「私も、いつかああなることを忘れないためだよ」
それから、彼女は、憑き物が落ちたように数学の問題を
解き始めた。
話題は初老の紳士のように枯れているのに、
彼女の数学の試験の点数は一桁から上がることがない。
彼女が、『死』の前に、長い長い『生』があることに気づくのは、いつだろうか。
できれば、その瞬間に、私も立ち会いたい、と思った。
<了>
思いついてパーッと書いたので、支離滅裂かもしれません。
お読みいただきありがとうございました。