4月1週目
ボブ子
「いってきまーす」
セミ子
「いってきまーす」
今日は妹と一緒に家を出た。赤いランドセルを背負ったセミ子は、うらやましそうに私の方を見る。
セミ子
「いいなぁ、自転車通学……。セミも自転車で学校にいきたーい!」
徒歩でいくと学校まで少し時間がかかるので、今日から自転車で行くことにした。
ちょっと拗ねたような顔をするセミ子の背中を、ぽんと叩いた。
ボブ子
「ほら、はやく行かないと遅刻しちゃうよ」
セミ子
「はぁーい。じゃあお姉ちゃん、いってきまーす」
大きく手を振って走っていく妹の姿を見送ってから、私も自転車にまたがる。ペダルに足を乗せて力を込めると、桜の花びらがふわりと風に流されていく。
風が気持ちいいなぁ……。
選択1⇒「のんびり行こう」
選択2⇒「スピードにのっちゃおう」
●ルート1
のんびりと風を感じつつ登校した。
さて、学校に着いた、のはいいんだけど……。自転車ってどこに停めればいいんだろう? 校門の横にある自転車置き場に停めておけばいいのかな?
???
「ねぇ、君」
後ろから声をかけられる。振り返ると、こちらを見つめて優しく微笑む童顔の少年が立っていた。彼も自転車を手で押している。
選択1⇒(なんだか見覚えがある……)
選択2⇒(同級生かな?)
●ルート1(なんだか見覚えがある……)
???
「そっちは二年生の自転車置き場なんだ。君、新入生だよね? 一年生の自転車置き場はあっちなんだ」
そう言って彼は、私が向かおうとしていたのは反対方向を指さす。
ボブ子
「ありがとうございます。えっと、先輩ですか……?」
桂木啓太
「うん、そうだよ。僕は二年の桂木啓太。よろしくね」
先輩だったみたい。一目見たときは、私と同じ新入生だと思っていたのに。
桂木啓太
「今日の実力テストが終わってから、放課後に新入生向けの部活見学があるんだ。よければぜひ、うちの茶道部も見学してみてね。楽しいよ」
そう言って桂木先輩は二年生用の自転車置き場に行ってしまった。
部活かぁ……。どうしようかな。
でも、その前に実力テストだよね。昨日疲れてそのまま寝ちゃったからなぁ。
自転車置き場に自転車を置いて、私は教室へと向かった。
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チャイムが鳴った。テスト監督の先生にペンを置くよう言われて、解答用紙が回収される。
うーん。半分ぐらいは書けたかな……。
テスト監督の先生が出て行くと、クラスは一気にざわつき始める。
ちらりと視線を後ろに向けると、透けるような白髪を耳にかけながら窓の外へと目を向けている練絹八十くんの姿が目に入った。昨日話した時から、なんとなく彼が気になってしまう。
そんな彼の元へ、女の子三人のグループがそろそろと近づいて行くのが見えた。
女子A
「あ、あの、練絹くん!」
練絹八十
「はい。どうかしましたか?」
女子B
「私たち、昨日からずっと練絹くんに話しかけたいと思ってたんだ」
練絹八十
「そうでしたか。私は何か不具合を起こしてしまいましたか? 申告していただければ、私もできるかぎり改善していきたいと思います」
女子C
「えっ……。あの、そういうことじゃないの! ただ、練絹くんってすごく目を引くから。昨日も黒塗りの車に乗って帰ってたみたいだし」
練絹八十
「あれですか。昨日は目立ちすぎたと言っていました。今日は校門まで迎えに来る予定にはないので、あなた方に迷惑をかけることはないと思います」
女子A
「ぜんぜん迷惑だと思ってないよ! ただお金持ちなんだなぁと思って――」
伊藤忠良
「みなさん、席についてください。帰りのホームルームを始めますよ」
伊藤先生がにこにこ笑顔で教室に入ってきた。練絹八十くんと話していた女の子たちは名残惜しそうに自分の席へと戻っていく。
伊藤忠良
「実力テストお疲れさまでした。テストの結果は一週間後に発表されるよ。さて、大変な実力テストも終わったところで、今日の放課後から新入生向けの部活動見学があります。ちなみに僕は園芸部の顧問です、興味があればぜひ遊びに来てね。今日のお知らせはこれぐらいかな、また明日会いましょう」
伊藤先生がぺこりと頭を下げて、帰りのホームルームは終わった。
どうしようかな。悩みながら廊下に出たところで、隣の教室から男の子二人が出てきた。
一人は金髪碧眼ですらっと身長の高い男の子だった、もしかしたらハーフかな。もう一人は眼鏡をかけた真面目そうな男の子。金髪の子にしつこく話しかけられて、うるさそうにしている。
???
「しかし、学くん! 目の下の隈がひどいことになっているよ! 美しくない!」
下前学
「少し静かにしたまえ、本田。目の下の隈は仕方がないだろう、遅くまで勉強していたんだ」
本田サルシス
「学くんは随分と勉強熱心なのだねえ」
下前学
「入試では、隣のクラスの練絹とかいう奴に負けてしまったからな。次こそは一番をとる」
本田サルシス
「うんうん! 何かに情熱を傾けるのはとても良いことだよ、学くん! その情熱を部活に向けてみないかい!」
下前学
「少しは落ち着きたまえ本田! 僕はお前と同じ部活に入る気はないぞ!」
個性的な二人が騒がしく廊下を通り過ぎていく。
思わず二人を見送ってしまってからハッと我に返る。私も行こう。
選択⇒「以下から選びましょう」
・生徒会
・茶道部
・園芸部
・演劇部
・テニス部
・帰宅部
●生徒会
生徒会室に行くと、眼鏡をかけたおさげの先輩が迎えてくれた。
先輩A
「今年は一年生がたくさん来てくれてうれしいわ」
生徒会室には、他にも四人見学者が来ていた。
あれ、一番奥の方にいるの。あ、さっき廊下ですれ違った眼鏡の男の子かも。さっき見たときも思ったけど、すごく姿勢がいいなぁ。
……というか、微動だにしてない。まばたきすらしないで椅子の上に固まってる。だ、大丈夫なのかな、あれ。
先輩A
「はい。この紙が見学者用のレジュメね」
ボブ子
「え……? あ、えっと、はい」
先輩A
「どうかした……? あら、下前君。そんなに畏まらなくてもいいのよ」
下前学
「は、はいっ!」
さらにぴきぴきっと、よい姿勢で固まったその子に先輩は苦笑した。
先輩A「あんまり待たせたら悪いわね。じゃあそろそろそれ生徒会活動の説明をするわね」
先輩から生徒会の仕事の説明を受けて、この日は終わった。
それにしてもあの眼鏡の男の子すごかったなぁ。先輩の説明を聞いている間中、ずっと背筋を伸ばしたまま首だけかくかく動かしてうなずいていたもの。
たぶん、すっごく真面目な人なんだろうな。
さて、どうしようかな?
・選択1 この部活にしよう
・選択2 もうちょっと考えよう
●「もうちょっと考えて」茶道部
茶道部が使用している和室の扉を開ける。すると、目の前にお茶碗を抱えた桂木先輩が立っていた。
桂木啓太
「あ、来てくれたんだね!」
嬉しそうに近づいてくる桂木先輩が、私に部屋へ上がるように勧めてくれた。靴を脱いで和室にあがると、畳の匂いが懐かしく感じた。
ボブ子
「あの、桂木先輩」
桂木啓太
「え……?」
ボブ子
「あれ? 桂木先輩、ですよね?」
名前を間違えてしまったかと思って不安に思っていると、桂木先輩は首を横に振った。
桂木啓太
「いやだな、啓太でいいよ。そんなによそよそしく呼ばないで」
ボブ子
「でも、先輩ですし……」
桂木啓太
「そんなこと気にしてたの? 先輩だなんて気にしないでいいんだよ」
ボブ子
「そう、ですか?」
桂木啓太
「そうだよ。本当にいいんだから、ね」
ボブ子
「わかりました……啓太先輩」
そう呼ぶと、啓太先輩は満足そうにうなずいた。
その後は部活説明だけでなく、実際にお茶の点て方指導までしてくれた。いろいろ教えてくれたし啓太先輩は親切な人みたい。ちょっと不思議な人だけど。
さて、どうしようかな?
・選択1 この部活にしよう
・選択2 もうちょっと考えよう
●「もうちょっと考えて」園芸部
園芸部に行くと、伊藤先生が園芸用エプロンをしてスコップを握っていた。
伊藤忠良
「あれ、五津木さん! 見学に来てくれたんだね!」
伊藤先生は私を大歓迎してくれて、一人一人園芸部の四人の先輩を紹介してくれた。
伊藤忠良
「園芸部ってあんまり人気がなくって……。来てくれてとっても嬉しいよ! 園芸部は楽しいよ、校舎の裏にある花壇に自分達の好きな花を植えたりしてね! あ、僕ばっかり喋ってるね。ごめんね」
伊藤先生は園芸が大好きみたいだ。先生と園芸ってとてもイメージにあっている感じがする。
先輩A「先生は園芸部の中で一番子どもみたいなのよね……。おかげで私たち生徒がしっかりしないといけないんだけど、でもとっても楽しいわ。入部してくれるなら大歓迎よ」
先輩もいい感じの人ばかりのようだ。
さて、どうしようかな?
・選択1 この部活にしよう
・選択2 もうちょっと考えよう
●「もうちょっと考えて」演劇部
演劇部の部室近くまで行くと、クマのきぐるみが「演劇部」と書かれた看板を持って立っていた。
クマ?
「部活見学? ようこそ演劇部へ」
ボブ子
「は、はい!」
クマ?
「なんか期待の新人が来ちゃって、ほかの部員は全員そっち行っちゃったんだよね~」
ボブ子
「期待の新人?」
部室の中をのぞき込むと、さっき廊下ですれ違った金髪碧眼の男の子がなにか不思議なポーズをとっていた。
本田サルシス
「ボクが美しいのではない、美しいという言葉がボクなのだよ! 美しいものを見てごらん、その背後にボクの気配を感じるはずさあ!」
す、すごい……! 期待の新人だ!
クマ?
「まぁ、あんな奴ばっかりじゃないから。初心者でも安心して入部して。気楽にやっても全然いいから」
ボブ子
「えっと、クマ先輩みたいにですか?」
クマ?
「いやいや。……いやいやいや。俺はマスコットキャラクターだから。意外と気楽じゃないから! 演劇部のクマ、エンクマくん! よろしくね!」
ボブ子
「はぁ」
エンクマ
「あれ、反応うすい?」
私は金髪碧眼の男の子に圧倒されつつ、クマの着ぐるみから詳しい部活説明を聞いてその日は終わった。
演劇部ってすごくおもしろそう。
それにしても、あの男の子すごかったなぁ。自信満々っていうか、なにかオーラみたいなのがあった。ああいう人が演劇に向いているのかな。
さて、どうしようかな?
・選択1 この部活にしよう
・選択2 もうちょっと考えよう
●「もうちょっと考えて」テニス部
テニス部の部室には、ポニーテールの女の先輩がいた。
私の姿を見た途端、輝かんばかりの笑顔で出迎えてくれた。
マネージャー
「ようこそ! 私はテニス部のマネージャーです。うちのテニス部ったら男所帯で、女子はマネージャーの私しかいないんだけど……」
そこまで聞いたところで、パーンッと高い音が鳴った。
ビックリして放心していると、複数のロッカーがガタガタ揺れて、勢いよく男の先輩たちが現れた。その手にはクラッカーが握られている。
え、なに……?
マネージャー
「こ、こらぁ! 今日は姿が見えないと思ったら! 1年生ちゃんが逃げちゃうでしょ!」
先輩A
「いや。だって、俺等なりに歓迎を……。はぁ。マネージャーより早く来て、いままでずっと隠れてたから、酸素が……」
先輩B
「ってか、耳やばくね? クラッカーの音がロッカーの中に響いて……」
先輩C
「ばっか、お前。クラッカーはちょっと扉を開けて、その隙間から手を出して鳴らすんだよ」
マネージャー
「もう! そんなんだから人が来ないのよ!」
……マネージャー先輩、かなり大変そうだなぁ。でも、なんだか楽しそう、かも。
その後、わいわい騒ぎながらテニス部の活動について教えてもらった。
さて、どうしようかな?
・選択1 この部活にしよう
・選択2 もうちょっと考えよう
●「もうちょっと考えて」演劇部に決定する
傾いてきた太陽が窓から差し込んできて、廊下の向こうが見えなくなるぐらいまぶしい。
部活も決めたし、そろそろ帰ろうかなと思っていると窓から傾いた太陽を一心に眺めている人影を遠くに見つけた。あの人、あんな風にして眩しくないのかな。
気になって近づいていくと、その人影がこちらを振り返った。
その人は、練絹八十君だった。
彼の白い髪が太陽によって赤く染められている。
練絹八十
「こんにちは」
ボブ子
「こんにちは。そんなにじっと見て、眩しくないの?」
太陽を指さして私が言うと、練絹君は目尻を指で拭いながらうなずいた。
練絹八十
「痛くて涙が出てくるほどまぶしいです」
ボブ子
「えっ、ええっ! じゃあ、見つめてたらだめだよ!」
練絹八十
「まぶしいと、太陽を見つめてはいけないんですか?」
ボブ子
「だめっていうか、痛いくらいまぶしいんでしょう? 痛いのは嫌だもん」
練絹八十
「しかし、私は太陽を見つめていたかったんです。あまりにも綺麗だから」
練絹君がそう言ってまた太陽を見つめ始めるのにつられて、私も窓の向こうに目を向ける。
すごくまぶしい。まぶしいけど、でもきれいだ。きれいだって知っていたけど、でもこんなにきれいだなんて知らなかった気がする。
しばらく練絹君と一緒に太陽を見つめていると、突然彼は腕を持ち上げた。どうやら時間を確認しているらしい。
練絹八十
「うっかりしていました、もう帰る時間が過ぎています。それでは五津木さん、さようなら」
ボブ子
「あ、さようなら」
頭を下げてさっさと行ってしまった練絹くんの背中を、私はぽかんとしながら見送った。
やっぱり練絹くんは不思議な人だなぁ。わたしも帰ろう。
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疲れ切った私はベッドに飛び込んだ。
実力テストもあったし今日は疲れたな。もう寝よう。おやすみなさい。
他選択だったら……
●朝の登校で「スピードにのっちゃおう」
わぁ、風がびゅんびゅんと通り過ぎていく! きもちいいなぁ!
選択1⇒「このまま学校に行こう」(学校につく)
選択2⇒「さらにスピードに乗ろう!」
●ルート2
あはは! きっもちいいぃぃ! いまなら車だって追い抜けちゃいそう!
選択1⇒「さぁ学校にいこう」(学校につく)
選択2⇒「わたし、風になるわ!」
●ルート2「わたし、風になるわ!」
遅い! みんな、遅すぎるわ! 世界が止まっている! 私、世界を超えてしまったのねっ!
ガンッと、何か前輪に強い衝撃を受けた。何か轢いてしまった気がするけど――いいえ、今はそんなことどうでもいいの!
私はこのままどこまでも行くの! 風さえも追い抜いて、光になるわ! この世界を照らす、光なの!
【BADEND1 そして少女は光となる】