文化祭準備(9月4週目)
9月3週目は省略しました。
文化祭準備の他ルートは明日に番外編に載せます。
ボブ子
「いってきまーす」
セミ子
「いってきまーす」
セミ子がランドセルを揺らして、くるりとこちらを振り返った。
セミ子
「今日から文化祭準備なんでしょ? 帰りは遅いの?」
ボブ子
「うん、ちょっと遅くなるかも」
セミ子
「そうなんだ。頑張ってね」
セミ子と別れて、自転車にまたがる。
今日から文化祭準備期間だ。がんばるぞ。
[・・・ロードします・・・]
文化祭はクラス単位で参加する。まず、クラスでの出し物をみんなで決めることになった。いくつか出された案を、最後は多数決で決定する。
伊藤忠良
「――はい。多数決で、今年は輪投げ屋さんをすることになりました。みんなで頑張って、文化祭を楽しもうね」
輪投げ屋さんかぁ。輪投げに使う道具を作って、教室の飾りつけを作成して、景品は各自で持ち寄って準備する。食べ物を扱う店をするよりは、結構楽かも……。
伊藤忠良
「それじゃあ、それぞれ分かれて準備をしよう。まずは教室準備班と、買い出し班に別れようか」
私は――
選択1⇒「教室準備班」
選択2⇒「買い出し班」
●選択1「教室準備班」
教室準備班をすることにした。
伊藤忠良
「それじゃあ、先生は買い出し班の人と一緒に商店街まで行ってきます。教室準備班の人たちは、机と椅子を移動させてください。それから学校に余っている段ボールや板があるはずですから、それを貰いに行ってください」
教室に残った私達は、さらに二つのグループに分かれることにした。机移動をするグループと、学校の倉庫から物を貰いに行ってくるグループ。
えっと、私は――
選択1「机移動をする」
選択2「物を貰いに行く」
●「物を貰いに行く」
物を貰いに行こう。確か学校の倉庫は、渡り廊下を行った先の旧校舎三階だったよね。結構大変そうだなぁ。
グループの何人かで倉庫まで行くと、他のクラスや学年の人たちも大勢いて混みあっていた。文化祭では備品はどこでも必要だから、良い物は早い者勝ちだ。
人ごみをかき分けてでも前に行った方が物をもらえるのかな? でも人の壁がすごくて、なかなか進める気がしない。私が人ごみの前で戸惑っていると、後ろからどんと押された。そのまま人の波の中に巻き込まれて、一緒に来ていた同じクラスの人とも離れてしまった。
ど、どうしよう。とりあえずこの中から出ないと……。
ボブ子
「す、すみません! 出してください!」
声を出して見るものの、ざわめきの中でかき消えてしまう。私が途方に暮れていると、急に後ろからの圧力が軽くなった。
あれっと後ろを振り向くと、そこには人の波から私を庇うように立っている啓太先輩がいた。先輩は私と目が合うと笑って、そっと腕を引いて波から出してくれた。
ボブ子
「ありがとうございます。助かりました」
桂木啓太
「ボブ子さんが人ごみに流されていたからびっくりしたよ。この倉庫前の人の壁って、毎年すごいんだ。去年は僕も困ったよ」
ボブ子
「そうなんですね。私、どうすればいいかわからなくちゃって」
桂木啓太
「うん。僕がボブ子さんを助けられてよかったよ」
啓太先輩はそう言ってから、ちらっと後ろを振り返った。
桂木啓太
「でも、ボブ子さんはまだ物を貰えてないんだよね? もう一回、あの中に入れる?」
ボブ子
「あの中に、ですか」
あのすごい人の群れに、もう一回入るのかぁ。……ちょっと心の準備をしないと、行けないかも。
深呼吸してなんとか覚悟を決めようとしていると、苦笑した啓太先輩が優しく背中を叩いてくれた。
桂木啓太
「そんな顔しないで。……ボブ子さんのクラスは、何が必要なの?」
ボブ子
「ダンボールと板です。加工しやすい大きい物を……」
桂木啓太
「わかった。じゃあ、ここで待っててね」
そう言ったかと思うと、啓太先輩は人の海の中に入っていって、すいすいと散歩でもしているかのように止まらずに進んでいった。あっという間に戻ってきた啓太先輩の手には、私が言った通りのダンボールと板があった。
桂木啓太
「はい、どうぞ」
ボブ子
「えっ! あ、ありがとうございます! すごいですね、啓太先輩」
桂木啓太
「ダンボールとか板はたくさんあるから、そんなに手に入れるのは苦労しなかったよ。人の波を歩くのは、まぁ、慣れだね」
ボブ子
「私も、来年にはちゃんと自分で行けるようにしないとダメですね」
啓太先輩みたいに行くのは無理かもしれないけど、力技で前に進めるようになるぐらいは私にだってできるかもしれない。今から来年の文化祭に備えて筋トレをした方がいいのかな。
桂木啓太
「来年なら、まだ僕がいるから取りに行ってあげるよ?」
ボブ子
「いえ。いつも先輩に頼ってばかりだといけませんから」
桂木啓太
「そう? ボブ子さんに頼ってもらえると僕は嬉しいんだけどな。自分で取りに行くのは、再来年からにしない?」
ボブ子
「再来年、ですか? 啓太先輩が卒業したあとですよね? なんだか随分遠い先ですね」
桂木啓太
「うん。遠い日の事に思うけど、でも今から卒業した後の事を考えると落ち込んじゃうよ」
ボブ子
「ちょっと気が早いですよ」
桂木啓太
「そうだね。来年ことを言うだけでも鬼は笑ってしまうのに、再来年のことなんて尚更だね」
ちょっと啓太先輩と話してから、手に入れた段ボールと板を持って同じクラスの子達と合流した。皆に、手に入れてくるなんてすごいと褒められてしまった。本当は啓太先輩が貰って来てくれたんだけど
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買い出し班が戻って、みんな一緒に教室で作業をしているとチャイムが鳴った。
伊藤先生が時間を確認して、一度全員集まるように号令をかける。
伊藤忠良
「四時になりました。いったん作業はここで区切りにしましょう。用事がある人、部活での文化祭がある人はここで解散です。まだ作業が続けられる人は、先生と一緒に作業をしましょう」
(演劇部)
私は演劇部だから、そっちに行かないと。今年の演劇部は、体育館でシンデレラの公演をする。私は舞台に立たないけど、裏方役としていろいろと仕事があるのだ。照明とか、大道具の運び入れとか。
演劇部の部室に行くと、いつも通りの姿の熊先輩がいた。首にはなにか白いプレートをかけている。
ボブ子
「クマ先輩、首になにをかけているんですか?」
エンクマ
「宣伝用のプレートだよ。これを持って、学校中を歩いて演劇部を宣伝するんだ。まったく、マスコットキャラも大変なんだぜ?」
ボブ子
「クマ先輩一人で回るんですか?」
エンクマ
「い、いや、それが……」
急に歯切れ悪くぼそぼそ言ったかと思うと、クマ先輩はそろりと後ろを振り返った。そこにはサルシス君がいて、憮然とした表情で大きな看板を持って立っている。
ボブ子
「サルシス君も、宣伝で回るの?」
本田サルシス
「うん、そうらしいね。五津木くんも一緒に回るらしいよ。ボクとクマ先輩が看板を持って宣伝する役割で、キミがチケットを販売する役割。三人一組だね」
ボブ子
「そうなんだ。当日は衣装を着て回るんだよね? きっといろんな人の視線を集めるよ!」
本田サルシス
「そうだね! ボクの美しさで、お客さんを大勢集めて体育館をいっぱいにしようじゃないか!」
人の視線を集める、という言葉を聞いてぶすっとした顔をしていたサルシス君が表情を明るくした。よかった、いつものサルシス君に戻って。
ちらりと振り返ると、サルシス君に一人だけ妙に嫌われているクマ先輩がずーんと落ち込んでいた。
エンクマ
「あいつらもさぁ、サルシスと俺を組ませなくたっていいじゃん。いや、俺はべつにいいんだよ? サルシスはかわいい後輩だし、俺はクマだから嫌われても別に気にしないし。だけどサルシスの気分が下がって、演技に影響があったら困るだろー……」
ボブ子
「嫌われても気にしないんですか?」
エンクマ
「まぁ、気にはしないようにしている。好かれた方が本当はずっといいけどなぁ」
はぁーっとため息をつくクマ先輩。
サルシス君はあいかわらずクマ先輩にだけ冷たい。本当に、どうしてなんだろうな。
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いつもより遅く家に帰えると、もう夕飯の時間だった。お腹がペコペコだった私はついつい食べ過ぎてしまう。夕飯後、お腹いっぱいでベッドの上に寝転がっているとセミ子が部屋にやってきた。
セミ子
「お姉ちゃん、文化祭の準備はどう? お姉ちゃんのクラスは何をするの?」
ボブ子
「輪投げ屋さんだよ。あ、そういえば、輪投げ屋さんの一回分遊べるチケットを貰ったんだった。これあげるから、セミ子も当日遊びに来たら?」
セミ子
「チケット……?」
私の取り出したチケットを見ると、セミ子がにやりと笑った。
セミ子
「私にあげるより、他の人にあげたら? ほら、気になる人とかに。そしたらお姉ちゃんのお店に遊びに来てくれるよ?」
ボブ子
「き、気になる人?」
セミ子
「うん。誰かいないの?」
以下の⇒「選択」から選ぶ
⇒練絹八十
⇒桂木啓太
⇒本田サルシス
⇒下前学
⇒ヒヨリ
⇒やっぱりセミ子
●練絹八十
八十君……は同じクラスだから渡しても意味ないか。やっぱりセミ子に渡そう。
セミ子
「なんだ、やっぱり私? つまらないの」
ボブ子
「つまらないのって……。セミ子を楽しませるための私じゃないもの」
セミ子
「でも、せっかくの高校生活に恋愛のときめきもないなんてつまらなくない?」
ボブ子
「あんたね……」
妹にからかわれてしまった。
……まったく。ませてるんだから。
●文化祭の教室準備で「机移動」をしたら、
机移動をしよう。まずは机と椅子を片付けないといけないわよね。
グループに分かれた私たちはさっそく作業に取り掛かった。使わない器具は、文化祭当日には使われない教室へと運び込まなくてはならない。机と椅子を重ねてテープで固定し、それを持って今いる二階の教室からから一階の端の教室まで持っていく。結構な重労働よね。まぁ、日ごろから健康にたくましく生きている私にはこれぐらいの重みはどうってことは無いけれど!
両腕に机と椅子を抱えて教室を出る。階段を降りるのは、荷物を持っていて前が見えないからちょっと怖い。一歩ずつ階段を慎重に下りていると、突然ふわりと両腕にかかっていた重みが軽くなった。なに? 私、もしかして新たな力に目覚めてしまったの?
よく見ると誰かの手が私の持っている机を支えていてくれていた。私がうらやむくらい、真っ白い大きな綺麗な手。透き通る白髪の向こうの赤い瞳が、静かに私を映していた。
練絹八十
「大丈夫ですか?」
ボブ子
「あ、ありがとう、八十君。あれ、八十君の分の机は……?」
練絹八十
「自分の分はもう運びました。必要なのであれば、お手伝いしたいです」
ボブ子
「手伝ってくれるのはありがたいけど、でも自分の仕事だし……」
練絹八十
「そうですか。でも、階段はちょっと五津木さんには危ない気がします。それではこうしましょう。階段の前まで、他の机を持ってきてもらえませんか? 階段を降りて教室まで運ぶのは私がします」
ボブ子
「え、でも、それだったら八十君の方がたくさん働くことになるんじゃ」
練絹八十
「そうした方が早く終わると思います。手伝うのは、迷惑でしたか?」
ボブ子
「ううん。ありがとう。それじゃあ一緒に、さっさと終わらせちゃおうか」
八十君に手伝ってもらって、作業を進める。最後の一組の机と椅子は、八十君と一緒に下の教室まで運んだ。
ボブ子
「これで最後だね。お疲れさま」
練絹八十
「はい。おつかれさまです。それでは戻りましょう」
ボブ子
「うん。戻って、他の子の手伝いをしないと――」
くるりと方向転換したその時、誤って足を机に引っかけてしまった。重ねられた机がぐらぐらと揺れて、バランスを崩した私がそのまま机の山に突っ込みそうになったところを、強い力が引き戻した。思わずどきりとするぐらい冷たい手が、私の腕を掴んでくれたのだ。
ボブ子
「あ、ありがとう、八十君。おかげで倒れずに済んだよ」
練絹八十
「怪我はないですか? 足を机にぶつけていましたね。痛くはありませんか?」
ボブ子
「平気だよ。ちょっとジンジンするくらい」
練絹八十
「しびれているのですか? あとから痛くなるかもしれません。氷を貰ってきましょう」
ボブ子
「本当に大丈夫だよ。私はこんなに元気だから!」
まだちょっとじんじんとしびれている足でむりやり飛び跳ねると、八十君は仮面のような無表情のまま眉だけ器用に下げた。
練絹八十
「すみません。気を遣わせてしまいました。……私はやはり、人と接するのが下手みたいです」
ボブ子
「そんなつもりじゃなかったんだけど。私こそごめんなさい」
練絹八十
「五津木さんが悪いのではありません。その、私が上手く言えなかっただけです」
ボブ子
「そんなこと……」
このままだと同じことの言いあいになってしまいそう。私が不注意だったばっかりに、申し訳ないな。八十君は真面目だから、どういう風に言ってあげればいいんだろう。
ボブ子
「えっと、心配してくれたのはすごくうれしいよ。ありがとう」
練絹八十
「はい」
ボブ子
「本当に痛くなったら言うから。その時は、ちゃんと冷やすから心配しないで」
練絹八十
「わかりました。その時には、私が氷を貰いに行ってきます」
うん、と大真面目に頷く八十君に思わず笑ってしまう。別に幼い仕草でも姿でも無いのに、純粋なその言葉を聞いているとまるで子どもみたい。そんな八十君の姿を見ていると、優しい気持ちになれる。
ボブ子
「じゃあ、その時はよろしくね」
練絹八十
「はい。それでは教室に戻りましょう」
八十君と一緒に教室に戻って、その後も準備を進めた。
【手を貸してもらったかわりに手を引いてあげる】




