入学式
本作は乙女ゲームシナリオです。作者の任意でルートを一本化しています。
???
「お姉ちゃん、朝だよ!」
ボブ子
「ううん……まだ眠い……」
???
「今日は入学式でしょ! 一日目から、遅刻しちゃうよ!」
ボブ子
「入学式……?」
その言葉に驚いて目を覚ますと、目の前には妹のセミ子がふくれっつらがあった。
セミ子
「もう、お姉ちゃんってば! ぜんぜん起きてくれないんだもん!」
ボブ子
「ごめん、ごめん。今って何時?」
セミ子
「もう7時だよ! 朝ごはんだってとっくにできてるんだから!」
セミ子に腕を引かれて、私は立ちあがる。
タンスには、まだシワ一つついていない高校の制服がかかっていた。
セミ子
「お姉ちゃん! はやく行かないと、朝ごはんが冷めちゃう!」
ボブ子
「はいはい」
私はセミ子に返事をして、弾むような足取りで部屋を出る。
今日から私は高校生だ。
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ボブ子
「いってきます」
少し早めの時間に家を出た。
高校入学を機に引っ越してきたばかりこの町並みをゆっくり眺めながら、学校へと向かう。
歩いていくうちに、ちらほら自分と同じ制服の人達を見つけた。
なんだか緊張してきちゃったなぁ……。知り合いは一人もいないし……。
中学からの知り合いであろう人と和気あいあいと歩いている人たちを横目に歩いていくと、私の入学する洲城高等学校が見えてきた。
校舎の周りをぐるりと囲むように桜の木が植えられている。入学式のこの日を待っていたかのように、満開に桜の花が開いていた。
桜の木を見上げながら歩いていると、ぶわっと大きな風が吹いた。桜の花びらが舞い上がり、世界が桜一色になる。思わず足を止めてしまった私は、桜吹雪の向こうに――
選択1⇒「儚げな背中を見つけた」
選択2⇒「く、首なし人間……!?」
●2ルート「く、首なし人間……!?」
桜吹雪の中に立つその人には首が無かったのだ!
まさか、朝から妖怪を見てしまうなんて、せっかくの入学式だというのに私は運がない。前日にお祓いでもしておくべきだったのだろうか。
その桜の妖怪は私が見ていることに気付いたのか、ぐるりと振り返ってきた。妖怪とは目を合わせていけないだろうか、いやそもそも、あの桜の妖怪には首が無い……と思っていると、なんと目が合ってしまった。
桜の首なし妖怪には、ちゃんと首があったのだ。桜の中にまぎれてしまうような透けるような白髪をしていたので、首が無いように見えただけだった。
なんだ、ただの人間だったのか……。
白髪の彼はこちらを見つめてくる、その輝く赤い瞳で。
美しい白髪に赤い瞳……。アルビノ、だろうか。
そして彼はまっすぐ私の方へと近づいてきた。
な、なんだろう。見つめすぎたから、怒られるのかな。
目の前にやってきた彼は、とても整った顔立ちをしていた。それはお店の前で飾られている人形のようで美しかったけれど、現実味の無い造りだった。まるで人じゃないみたい。
練絹八十
「初めまして。私は練絹八十です」
ボブ子
「――は、はじめまして」
彼の顔に気をとられすぎてて、思わず反応が遅れてしまった。
私の返事にうなずいて、彼は何かを待つようにじっとこちらを見下ろしてくる。
え、な、なんなんだろう。分かりづらいけど怒ってるのかな、やっぱり。
練絹八十
「……すみません。挨拶をして名前を名乗り合うのが一般的だと教わったのですが、私は何か間違っていましたか? もう一度やり直した方がいいでしょうか?」
ボブ子
「え、あ、名前ね……!」
ふざけているわけでもなく真面目な顔でそう尋ねてくる彼に、私が名乗るのを待っていたのだと気づいた。
ボブ子
「私は五津木ボブ子です。えっと、よろしくね」
練絹八十
「はい。よろしくお願いします」
彼は丁寧に一礼すると満足そうに頷き、校舎の正面玄関へと去っていった。
な、なんだったんだろう。変わった人だなぁ。もしかしたら、海外で暮らしていて日本の習慣が分かっていないとか? それにしては普通に日本語喋ってたけど。
首をかしげながら、私も正面玄関へと向かった。
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入学式は第一体育館で行われた。それにしても、まさかあの桜の木の下で会ったあの男の子が新入生代表の挨拶をしたときは驚いてしまった。
代表の挨拶をしたってことは、彼が入試で一番だったってことだよね。喋ったときはなんだかちょっと、抜けてるっていうか、不思議な人だったから、意外だったなぁ。
しかも、彼は私と同じクラスだったのだ。
女子A
「あの新入生代表の人、やっぱりかっこいいよね」
女子B
「同じクラスなんてラッキーだよね。……どうしよう、話しかける?」
同じクラスの女の子たちが、やっぱり練絹八十くんの噂をしていた。
それでも誰一人として話しかけられないのは、彼の雰囲気がなんとなく近寄りがたいからかな。こうして見ても、彼は人間離れした存在のように見える。
???
「みなさん、席についてください」
担任の先生がガラリと教室の扉を開いて入ってきた。それにみんなが慌てて自分の席に着く。
教卓の前に立った先生は、全員が席についたのを確認してたれ気味の目をうれしそうに細めてにこにこ笑った。そうすると、小さなお地蔵さまみたいな顔に見える。
伊藤忠良
「初めまして。このクラスの担任になった伊藤忠良です。これから一年間、できるだけ皆さんの力になっていきたいと思っています。気軽に話しかけてね。他に言うこと……考えてきたんだけど、忘れちゃったなぁ。なにかぼくに質問がある人はいますか?」
質問かぁ……どうしようかな?
選択1⇒「先生の担当教科は?」
選択2⇒「結婚してるんですか?」
●1ルート「先生の担当教科は?」
ボブ子
「先生の担当教科はなんですか?」
私が質問すると、伊藤先生はぽんと手を叩いた。
伊藤忠良
「そうだった! 担当教科を言ってなかったね! 質問ありがとう。先生の担当教科は社会科で、専門は地理です。いつか伊能忠敬みたいに、自分で歩いて自分だけの地図を作るのが夢なんです」
伊能忠敬って、江戸時代に日本地図をつくった人だよね……。
ふと先生がちょんまげ姿で日本全国をてくてく歩いて地図を作っている姿を想像してしまった。なんだかとっても似合ってるかも……。
伊藤忠良
「他に質問はありますか? ないなら、次はみんなに自己紹介をしてもらおうかな。それじゃあ出席番号順にお願いするね」
伊藤先生に当てられて、阿川くんが立ちあがって自己紹介をしはじめた。
私は五津木だから、三番目……なんだけど、なんて自己紹介しよう。ああ、もう順番が来ちゃう。
選択1⇒「五津木ボブ子です」
選択2⇒「わたし、ボブ子」
●1ルート「五津木ボブ子です」
ボブ子
「隣の県から引っ越してきました。よろしくお願いします」
結局ありきたりな自己紹介になっちゃった。もっと家で考えてくればよかったなぁ。
私の後も次々に自己紹介が進んでいって、後半。新入生代表をしていた練絹八十くんの順番が来た。
練絹八十
「はじめまして、練絹八十です。よろしくお願いします」
それだけ言って彼は席に座ってしまった。
近くの女の子がクールでかっこいいなんて呟いているけど……桜の木の下での会話を思い出すかぎり、彼はどちらかというと不思議系かな。
全員の自己紹介が終わって、伊藤先生から明日の予定について説明された。
伊藤忠良
「みんなも嫌だろうけど、明日は実力テストがあります。がんばってね。それじゃあ今日は解散です、また明日会いましょう」
先生の号令でみんなが一斉に帰り支度をしはじめる。
私は、今日はこのまま家族みんなで外食しに行く予定だ。お母さんに、ホームルームが終わったよって連絡しないと……。
携帯をとりだして電話をかけようとしたところで、廊下側が騒がしいことに気が付いた。
どうしたんだろうと思って廊下の人達の会話に耳を傾けてみる。
男子A
「おい見ろよ! 校門前に黒塗りのベンツが停まってんぞ」
男子B
「ほんとだ。どこの金持ちの車だ? ……そういえば、隣のクラスに大手企業社長の息子がいるって聞いたけど」
男子A
「じゃあ、そいつの家の車か……。あれ、あいつ入学式で代表挨拶してた奴じゃねぇか、あの白い頭?」
会話を聞いているうちに気になってしまって、私も廊下に出て窓から校門前を見る。
春の満開の桜の風景からやけに浮いている黒塗りの車と、桜に溶けてしまいそうな白髪の練絹八十くんが見えた。彼、お金持ちだったんだ……。だから、あんな風に世間離れしていたのかも。
桜の花びらを散らすようにして、練絹八十くんを乗せた車は走り去っていった。
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家族との外食から帰って、自分の部屋に戻ると急に眠くなってきてしまった。
ベッドに寝転がりながら今日一日のことを思い出す。
新しい町。新しい制服。新しい生活。
私はどんな高校生活をおくるんだろう……。
他選択だったら……
●練絹八十君と出会ったとき、「儚げな背中を見つけた」
桜吹雪の中に立つその人は、ちょっと目を離した隙に消えてしまいそうだった。
彼の見た目がそう思わせるのかもしれない。春の日差しを受けて透けるような白髪は、桜の中に溶けてしまいそうで、それが美しかった。
思わずじっとその背中を見つめていると、その視線に気づいたのかその人が体ごとこちらを振り向いた。
【ロマンチックになります】
●先生に質問するとき、「結婚してますか?」
私が質問すると、伊藤先生はぽぽぽっと顔を赤く染めて恥ずかしそうに頭をかいた。
伊藤忠良
「はい、結婚してますよ。お料理上手な自慢のお嫁さんです。職員室ではいつも奥さんのお弁当を自慢して、他の先生に笑われています……。でも、本当にぼくの奥さんはお料理上手なんだよ」
先生が結婚しているという発言に教室がざわつく。ふわふわして頼りなさそうな先生に、結婚しているというイメージが持てなかったからだ。よくよく見ると、左手の薬指にちゃんと指輪がある。
奥さんが大好きなんだなぁ……なんだかうらやましいかも。
【のろけられます】
●自己紹介するとき、「わたし、ボブ子」
ボブ子
「前の学校では鉄のハートのボブ子って呼ばれてたの。わたしのハートを溶鉱炉で溶かしてくれる人募集中です、きゃるるん」
やだ、みんなの視線を集めすぎちゃった!? 熱い視線を感じちゃう……けど、鉄のハートのボブ子だもの。このぐらいの視線の熱さじゃあ、もの足りないわ。
【主人公が狂います】