7月3週目
夏休みに入ります。
セミ子
「おはよう、お姉ちゃん! 今日からお休みだよ!」
ボブ子
「おはよう、セミ子」
気が抜けて、思わず寝すぎてしまった。
今日から夏休みかぁ。どうしようかな。
選択1⇒学校に行く
選択2⇒外出する
●選択2「外出する」
折角だし、どこかに出掛けようかな。
さて、どこに行こうかな? 悩んでいると、アイスキャンディーを片手に涼んでいたセミ子が首をかしげた。
セミ子
「どうしたの、お姉ちゃん?」
ボブ子
「どこか出掛けようかと思って。そうだ、セミ子はどこかおすすめある?」
セミ子
「うーん……あっ! そういえば、行きたいところがあったんだ! お姉ちゃん、一緒に行こう!」
ガリガリっと一息にアイスキャンディーを呑み込んだかと思うと、セミ子はぴょんぴょん飛び跳ねながら玄関へと向かった。あまちの勢いに驚いていると、玄関からセミ子が「早く!」という声。
ちょっぴり呆れながらも、今日はセミ子の案内に任せることにした。
連れていかれたのは、駅近くの一本道を外れた静かな場所。そこにひっそりと建つ風情あるお茶屋さんだった。
セミ子
「友だちがおすすめしてたんだよ、ここ。抹茶パフェとかクリームあんみつとか美味しいんだって!」
ボブ子
「さっきまでアイスキャンディー食べてたくせに」
セミ子
「それとこれとは別なの!」
セミ子に腕を引っ張られて店内に入ると、外観と同じように風情ある落ち着いた雰囲気だった。椅子の席と畳の席があって、どちらも空いている。
せっかくだし、店員さんに畳の席を案内してもらおうかな。
そう思って店員を探したところで、思いがけない姿を見つけたんだ。
ボブ子
「あれ、啓太先輩?」
桂木啓太
「いらっしゃいませ、ボブ子さん」
そこにいたのは紺の作務衣にえんじ色の前掛けをした啓太先輩がいた。
もしかしてここでバイトしてるのかな。
ボブ子
「びっくりしました。偶然ですね」
桂木啓太
「うん。僕のバイト先にボブ子さんがいるなんて、嬉しい偶然だね」
ボブ子
「ずっとここでバイトを?」
桂木啓太
「うん。和菓子が好きだから、こういうお店でバイトしたかったんだ。……あ、いけない。席に案内しないと。二人席だよね」
ボブ子
「はい。今日は妹とーーあれ? セミ子?」
セミ子の姿を探すと、なぜか私の背中に隠れるように立っていた。こちらに視線が向いたことに気づくと、慌てて私の腰に抱きついて顔を隠す。
どうしたんだろう。人見知りする子じゃないのに。
桂木啓太
「ボブ子さんの妹さんだよね。……ちょっと緊張したのかな」
ボブ子
「そう、みたいですね」
桂木啓太
「じゃあ、すぐに案内するね」
様子のおかしいセミ子を気にすることもなく、啓太先輩は席を案内してくれた。
でもそれからもセミ子の挙動はいつもと違っていた。黙ったまま固まっていたかと思うと、あんなに楽しみにしていたクリームあんみつを急いで食べ終えてすぐに帰りたがった。
様子が元に戻ったのは、家で出迎えてくれたお母さんに抱きついた時だった。
セミ子、どうしたんだろう……。
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夕方になって、やっと暑さが和らいできた。日中の厳しさにすっかり庭の植物は弱ってしまっている。植物の元気を回復するために水を撒いていると、同じく如雨露でプランターに水をやっているセミ子が声をかけてきた。
セミ子
「夏休みの予定はどんな感じなの、お姉ちゃん? そういえば面白い映画をやってるらしいよ。朝のニュースで、有名な舞台俳優がお勧めしてた。演劇人としても大変刺激になる新感覚の映画だって」
ボブ子
「映画かぁ。それもいいけど、学校の図書館に行こうかなとも思ってるの。夏期課題で必要な資料があるから」
セミ子
「夏休みに学校に行くのは、すごく真面目な人だけだと思ってた……。お姉ちゃん、真面目になったの? いつのまに?」
心底驚いた顔をわざとしてみせるセミ子に、少しだけムッとする。そこまで言うほどかな。
ボブ子
「馬鹿にしてるでしょ?」
セミ子
「え~……ちょっとだけ!」
ボブ子
「もうっ!」
仕返しにホースの水をセミ子に向けると、きゃあきゃあ言って逃げ回った。
しばらくホースを持って追いかけっこをしていると、様子に気づいたお母さんに叱られてしまった……。
他選択だったら……
●「学校に行く」ことにすると、
選択1「図書館に行く」
選択2「職員室に行く」
●1「図書館に行く」
図書館にでも行こうかな。図書館に行くと、冷房が利いていてとても涼しかった。
どんな本を読もうかと本棚を見て回っていると、窓際に立って本を読む人の姿。すらりとした姿勢の良いシルエットは、まるで一つの絵画のようだった。こちらに気付いた赤い瞳が、きらりと瞬いて私を映した。
練絹八十
「こんにちは、五津木さん。夏休みに会うとは思っていませんでした」
ボブ子
「こんにちは、八十君。何の本を読んでいるの?」
練絹八十
「今日はラプンツェルです。長い髪の女の人と王子様のお話です。最後には盲目になった王子様を、ラプンツェルの涙が治すんですけど……」
そこで言葉を切った八十君は、納得いかなさそうに首をかしげた。
練絹八十
「なぜ盲目が治ったんですか? 彼女の涙には不思議な力があったんですか?」
ボブ子
「うーん、そういうことじゃないと思うな。ほら、童話によくある愛の力で治すみたいな感じじゃないのかな」
練絹八十
「愛の力、ですか」
私の言葉を八十君がオウム返しに言う。ううん、そうやって繰り返されると結構恥ずかしいんだけどな。しかも「愛の力」なんていう言葉。しかし八十君は真面目な顔で何度もそれを、口の中で吟味するように呟く。
練絹八十
「愛とはなんですか? 涙が愛なんですか? それとも涙に含まれる成分ですか?」
ボブ子
「え、どうだろう。涙に含まれてはいるかもしれないけど、でも成分でもないような……」
練絹八十
「現代の科学技術にはrまだ難しいので、愛の成分は見つからないのかもしれません。いつかの未来、愛は目に見えるようになるといいのですが。僕も見てみたいです」
科学技術が発達しても、愛は見えないと思うけどなぁ。でも、無表情ながら瞳を輝かせている八十君にそんなことはいえない。でももし見えるようになったのなら、私も見てみたいかも。
【ラプンツェルの涙なのか、女の子の涙なのか】