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王子様のロマン(シナリオ版)  作者: 運転手
1年 1学期
11/28

6月1週目

隠しキャラ登場しました。

ボブ子

「いってきまーす」

セミ子

「いってきまーす」


 家を出ると、セミ子がくるりと私を振り返った。


セミ子

「お姉ちゃん、今日は邪魔が無いみたい。屋上に行ってみるのがいいかも。一生に一回きりの出会いができるかもね」


 手を振って学校へ向かうセミ子を見送った。セミ子はたまに不思議なことを言う。

 自転車にまたがって私も学校に向かった。それにしても、先週の体育祭のせいか足の筋肉が痛いな……。





 [・・・ロードします・・・]





 お昼休みだ。どうしようかな


選択1⇒教室

選択2⇒職員室

選択3⇒屋上



●屋上

 今日もサルシス君は屋上にいるのかな? 啓太先輩は行っちゃ駄目だって言ってたけど、ちょっとぐらいなら覗いてもいいよね。

 屋上までの階段は、日差しが入ってこないからかひんやりしている。夏なら涼しくて良さそうだけど、今はちょっと肌寒いくらいだ。

 扉の前まで来て手を伸ばしかけたその向こう側。誰かの声が聞こえた。


???

「屋上は立ち入り禁止のはずだよ! どうして君がここにいるんだい?」


 扉の向こうから怒鳴り声が響いてきた。あれ、この声……?

 おそるおそる扉を少しだけ開く。するとそこには、サルシス君と担任の伊藤先生がいて驚いた。さっき怒鳴ったのって、やっぱり伊藤先生だよね。あんまり怒る人に見えないのに……。


本田サルシス

「申し訳ありません、先生! しかしボクも屋上に生徒が立ち入り禁止だなんて知らなかったのですよ!」

伊藤忠良

「……確かにそうだね。学校側もきちんと教えているわけじゃないから新入生の君は知らなかったかもしれない。でもそもそも、屋上は鍵でしっかりと施錠されているはずだから生徒は入れない。鍵はどうしたの?」

本田サルシス

「職員室から鍵を拝借させてもらいました。屋上にいけばボクの新しいインスピレーションが――」

伊藤忠良

「鍵……? 誰にも言わずに持ってきたの?」

本田サルシス

「以前屋上の鍵を貸して欲しいと言ったら断られたので! 断られまいと何も言わずに持ってきてしまったのですよ!」

伊藤忠良

「どうしてそういうことをするんだい! なにも嫌がらせで禁止しているんじゃない! フェンスも脆くなってきてるし、危ないから禁止されているんだ、もう二度とこんなことをするんじゃない!」


 いつもの温和な顔を厳しくしかめて伊藤先生はサルシス君に向かって手の平を向けた。


伊藤忠良

「鍵を渡しなさい。今後は僕がきちんと管理させてもらうからね」

本田サルシス

「そうですか。とても残念です……」


 サルシス君はあっさりと伊藤先生の手の平に屋上の鍵を置いた。受け取った伊藤先生はホッと一瞬だけ顔を緩ませたけれど、またキリリっと眉を吊り上げた。


伊藤忠良

「もうすぐ昼休みも終わります。屋上から出なさい」

本田サルシス

「はい」


 あ、二人が屋上から出てくる。えっと、私は隠れた方がいいのかな。

 私は掃除用具ロッカーの中に慌てて隠れた。長い間放置されていたみたいで埃っぽい……。思わず咳き込みそうになったけど、扉から二人が出てくるのが見えて必死に息を止める。


伊藤忠良

「それじゃあ、もう二度と屋上に来たらだめだよ。わかったね」

本田サルシス

「はい」


 伊藤先生は思いつめたような顔でサルシス君に念を押すと、屋上の扉がしっかりと施錠されているのを確認して慌ただしく階段を降りていった。なんだか今日の伊藤先生、いつもと違ったみたい。どこか追い詰められているかのような……。

 先生がいなくなって気が抜けてしまったのか、私はホコリっぽい空気を思いっきり吸い込んでしまった。激しく咳き込んでいると、私が隠れていた掃除用具ロッカーの扉が開いた。顔を上げると、そこには不思議そうな顔をしたサルシス君が立っていた。


本田サルシス

「そんなところでどうしたんだい? こんなところに隠れるだなんて、ロマンを感じるよ!」

ボブ子

「えっと、二人が出てくるのがわかったから隠れようと思って」

本田サルシス

「ああ、見てたのかい? ボクとしたことが、伊藤先生を怒らせてしまったよ!」


 ハハハと笑ったかと思うと、サルシス君はポケットから何かを取り出して私の目の前にかざした。


本田サルシス

「まぁ、スペア作ってるから、あの鍵を盗られても構わないのさ! 今度は怒られないように、隠密行動を心がけることにするよ! キミも気になるようだったら、隠密に屋上においでよ!」


 怒られてもまだ屋上に来るつもりなんだ。いつのまにスペアなんて作ってたんだろう……。





 [・・・ロードします・・・]





 帰りのホームルームの時間になった。


伊藤忠良

「今日も一日お疲れさまでした。明日また会いましょう、さようなら」


 さて放課後になった……。

 ……あれ、ハンカチが無い。ポケットに入れていたはずなのに、どこにいったんだろう。もしかしたら屋上であの掃除用具ロッカーに隠れた時に落としちゃったのかも……。大したものじゃないけど、気になるし探しに行ってみよう。

 屋上の扉のすぐ横に設置されている掃除用具ロッカー。随分と古くなっているその中を調べると、思った通り私のハンカチが落ちていた。

 よかった。よし……伊藤先生に見つかる前に早く帰ろう。怒られちゃうもんね。

 帰ろうとしたところで、屋上の扉の向こうからガシャンとフェンスが揺れたような音が聞こえてきた。もしかして、サルシスくんがまた屋上に忍び込んでいるのかな。今日のお昼に伊藤先生に怒られたばっかりなのに。

 様子を見ようと思って、屋上の扉に手をかける。あっさりと開いた扉の向こうには、サルシス君でもない知らない人がいた。

 先輩、なのかな……? 屋上のフェンスに背中を預けてアスファルトの上に座り込んだ人は、こちらに気付いた様子もなく空を眺めている。その横顔についどきりとしてしまう。その人の顔立ちはクラスメートの練絹くんのような人形っぽい繊細さはないけれど、しなやかで艶のある美しい生き物を見ている気分にさせられる。こんな人が、この学校にいたんだ。


???

「今日は最悪なほど、天気がいいな」

ボブ子

「え?」


 その人のぽつりともらした独り言に、思わず私は反応してしまった。空ばかりを見つめていたその人の視線が私に向けられる。

 まっすぐ射抜くようにこちらに向けられる瞳にドキリとしていると、だるそうに彼は首をかしげた。


???

「なんだ、お前」

ボブ子

「な、なんだって言われても……」


 戸惑っていると彼はハッと素っ気ないため息をついた。

 な、なんかちょっと、近寄りがたいっていうか、感じの悪い人かも。


???

「お前、一年か」

ボブ子

「え、そ、そうですけど」

???

「やっぱりそうか。ガキっぽい」

ボブ子

「ガ、ガキって、先輩だがなんだか知らないですけど、たった一つや二つしか違わないじゃないですか」

???

「ふーん。先輩にそんな口の利き方するんだ」


 先輩はフェンスからもたれていた背中を離して、こちらの顔をのぞきこんでいる。その顔には、悪さを企んでいるような薄い笑みが張り付けられている。


???

「お前、名前は?」

ボブ子

「え」

???

「ほら、早く。とろくさいな」

ボブ子

「五津木ボブ子、ですけど……」


 急かされて名乗ってしまったけど、わざわざ聞いたわりには先輩の反応は薄い。ふーんっていう感じ。


ヒヨリ

「俺はヒヨリ。ヒヨリ先輩ってかわいく呼ぶんなら返事してやるよ、後輩」


 目の前の弱者を弄ぶ気まぐれな猫のように、ヒヨリ先輩は目を細めた。まさに傍若無人。


ヒヨリ

「そういや、後輩はどうしてここにいんの? 屋上は立ち入り禁止だけど」

ボブ子

「えっと、落とし物をとりに。ヒヨリ先輩こそどうやって立ち入り禁止の屋上に?」

ヒヨリ

「なんだ。後輩には、俺が大人しく規則に従う素直な先輩に見えるのか。それは目が悪い、眼科に行け」

ボブ子

「べつに先輩が素直に見えたわけじゃありません!」


 むしろ、とても悪い先輩なんじゃないのかな。もしかしたら先輩みたいな人がいるから伊藤先生も、あんなに怒るのかもしれない。


ボブ子

「……落とし物も見つかったので、私はこれで失礼します。ヒヨリ先輩もいつまでも屋上にいたら駄目ですよ、伊藤先生に怒られますからね」


 そう言った瞬間、ヒヨリ先輩の顔から笑みが消えた。何の表情もない仮面のような顔つきでこちらを見てくる姿は、ゾッとしてしまうほど美しい。


ヒヨリ

「まぁ、そうだな。そうだったよな」


 何事かぶつぶつ言ったかと思うと、にっこりと誰をも魅了する笑みをヒヨリ先輩は浮かべた。そして人差し指を曲げてちょいちょいと私を招くような仕草をする。



選択1⇒「近づかない」

選択2⇒「近づいてあげる」



●選択2「近づいてあげる」

 私は先輩に招かれるがまま近づいて、地面に座り込んだ先輩と視線を合わすようにしゃがむ。素直に近づいた私にヒヨリ先輩が手を近づけてくるので――


ボブ子

「わん!」

ヒヨリ

「は?」


 ヒヨリ先輩の手のひらに右手を乗せると、ぽかんとした顔をされた。

 あれ? 違ったのかな?


ボブ子

「先輩がまるで犬を呼ぶように招くので、お手をしてほしかったのかと……。あ、猫でしたか? じゃあ、にゃん!」

ヒヨリ

「……ぷっ! あははははっ!」


 ずっとぽっかり口を開いたままだったヒヨリ先輩が急に体を震わせ、大爆笑をしはじめた。どうしたんだろう、この人? 壊れちゃったのかな? とりあえず先輩の手の平にのせていた右手を下ろしておく。


ヒヨリ

「あー。俺は、どっちかっていうと鳥派だな」


 笑いが収まってきたヒヨリ先輩が笑い涙を拭いながら、何かを期待するようにこちらを見てそう言う。


ボブ子

「鳥ですか。鳥……くるっぽー」

ヒヨリ

「鳩はだめだな。あいつらは集団で人様に集ってくるから」

ボブ子

「注文が厳しいですよ、ヒヨリ先輩」


 鳩じゃないとしたら、ニワトリかな? コケコッコー?

 何がいいかと悩んで、それからふと自分の腕時計が目に入った。あれ、もうこんなに時間が過ぎてるの?


ボブ子

「あ、もう帰らないと」


 立ちあがろうとした私の手首に、ひやりと冷たいものが絡まった。思いがけないことにびっくりしてしまったけど、それはヒヨリ先輩の手だった。


ヒヨリ

「またおいで」


 至近距離で見つめるヒヨリ先輩の顔はやっぱり見惚れてしまいそうなほど美しい。先輩は大型の猫科動物に似ている。チーターとかヒョウとかトラとかそういう感じ。


ボブ子

「今度とびっきりの鳥の鳴き声を披露するので、上手くできた先輩はガウガウ言ってください」

ヒヨリ

「は?」


 そう言い捨てて、私は屋上を立ち去った。私はどんな鳥の真似をしようかな。





 [・・・ロードします・・・]





セミ子

「あ、お姉ちゃん。おかえり」

セミ子

「ただいま。おやつにしよう」

セミ子

「うん。ところでお姉ちゃん、今日の学校はどうだった?」

ボブ子

「今日? ……不思議な人に会ったかなぁ」

セミ子

「不思議な人? どういう?」

ボブ子

「屋上で会った先輩なんだけど……。いや、思い出したら、全然不思議じゃない気がしてきた。ただただ失礼なだけの人だわ」

セミ子

「なるほどなるほど。つまり、小さな争いから始まる恋ってことだねお姉ちゃん!」


 ……最近、セミ子はなんでもかんでも恋愛と話しを結びつけようとするなぁ。小学校で、なにか少女漫画でも流行ってるのかなぁ?

 とりあえず、目の前の妹の鼻先を人差し指で突いておいた。




他選択だったら……



●ヒヨリ先輩に手招きされたとき、「近づかない」のなら、

 絶対、なにか良くないこと考えてる。会って一時間も立っていない関係だけど、絶対そうだ!


ボブ子

「その手には乗りませんからね、ヒヨリ先輩!」

ヒヨリ

「は?」

ボブ子

「先輩が思っているほど、女の子は簡単じゃないんですから。誘うならもっと試行錯誤してください。私はこれで失礼します」


 背中を向けると、後ろでヒヨリ先輩がけらけら笑う声が聞こえてきた。


ヒヨリ

「またおいで」


 けっして大きくないはずのヒヨリ先輩の声が頭の中で何度もこだまする。

 耳が、熱い。


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