芍薬甘草湯と娘と護衛2人
「昨晩マオウとやり合ったんだって?お前って普段はまとめ役なのに、意外と沸点低いよな。」
「誰から聞いたんですか?別にやり合ってません。風紀を乱す糞野郎を注意しただけです。」
「サフランから。お前って口も悪いよな。女みてぇな顔してんのに。」
「・・顔と口調は関係ないと思いますよ。」
庭園の中の二人の会話は木枯しが立てた葉擦れにかき消された。
眠そうな顔で欠伸を噛み殺している男がシャクヤク、真面目そうな顔で眼鏡をかけた男がカンゾウである。
時刻は午前5時。
今回シャクヤクとカンゾウの二人のみの任務は雇い主の娘の移動中の護衛だ。本来なら組員1人でこなすはずの低予算任務。しかし、その護衛対象は心臓が弱く移動中に護衛対象に死なれては困るという事で、痛みを鎮静させる術が得意なシャクヤクも同行していた。
「すみません、お待たせいたしました。」
玄関扉のベルを鳴らして数十秒後に出てきたのは、仕立ての良い黒のタキシードに身を包んだ執事らしき壮年の男だった。
「本日のお嬢様を護衛されるカンゾウ殿とシャクヤク殿でございますね。伺っております。出発までまだ時間がありますので待合室でお待ち下さい。どうぞ、ご案内致します。」
「失礼します。あ、必要ないと思いますが一応規則なんで依頼書と組合員証明書の確認お願いします。」
先導しようとする執事に見せるように二枚の紙切れを持上げるシャクヤク。眠そうな彼の持つ「証明書」を通り越して執事の視線が向かった先は、シャクヤクの「髪」だった。