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お父さんがメタボ腹をどうにかする、今度こそダイエットをすると宣言して、お母さんがご飯を減らして、私たちの食事を見て、やっぱり食事制限ではなく運動で痩せると言って、私たちが呆れるの繰り返し。
お父さんのダイエット宣言も何回目だよ、もう。
呆れてため息を吐くと、「おい!」って怒った声がする。
あれ? お父さんって、こんな声だっけ?
そう考えて、自分が夢を見ているのだと気付いた。
夢? この日常が? どうせ夢ならもっと楽しいことがいいのに。
「おい、リラ! 出てこい!」
「――っ!」
ドスのきいた声に、驚いた私は跳び上がった。
そしてまたまた棚に頭をぶつける。
痛い。
その痛みが私を現実へと急速に覚醒させる。
今の声はドS王子だ。
自分の手を見れば、思った通りヤモリの足。
お父さん、お母さん、とても楽しい日常をありがとうございました。
毎日、生意気ばかり言ってごめんなさい。
りらは元気にヤモリになってます。
だからどうか、私がいなくても悲しまないでください。
「おい、呼んだらさっさと出てこい!」
「はい!」
「大声を出すなと言ってるだろ?」
「すみま――っ!」
勢いのままに返事をして、勢いのままに謝罪しかけて、デコピンならぬアゴピンされて、さらに棚に頭をぶつけた。
い、痛い……。
「隣の部屋にはアレクがいるんだ。女の声がしたらまた文句を言われるだろ」
「……独り言はいいんですか?」
できるだけ声を潜めて問いかければ、ラルス様は鼻で笑った。
「僕が一人で何か言っていても、アレクはいつものことだと気にしない」
それはすごく残念なことなのに、なぜこれほどに威張って言えるんだろう。
そう思っていたら、私の考えを読んだように、ラルス様は付け足した。
「呪文の練習など、よくしているからな。頭に入れたい書物の内容は音読してもいる」
なるほど。さすが根暗王子。
納得している私から、ラルス様の視線はガラスケースに移り、満足そうに頷いた。
「さすがアレクだな。仕事が早い。それに比べてリラは……」
「はい?」
「せっかくアレクが用意した食事を残すな。ちゃんと最後まで食べろ。足の一本くらいどうとでもなるだろ?」
どうとでもならないし、食べ残しでもありません。
反論しようとして、ラルス様は興味がないのか、私からさっさと離れてソファにどすんと座った。
「先ほど、処刑されたらしいぞ」
「え?」
「お前が処刑されたんだよ。災いの魔女として絞首刑になったらしい。本来なら火あぶりだが、目立つからな。おそらくどこか目立たない場所まで運んで、そこで死体は燃やされるんじゃないか?」
「……処刑」
「ほら、窓の外を見てみろよ。いくつか上がっている煙のどれかが、お前を焼いている煙かもな」
にやにやしながら言うラルス様は本当に意地悪で、私はやめればいいのに、ついぺたぺたと壁を伝って窓へと向かってしまった。
そして外を見れば、どうやらお城は小高い場所に立っているらしく、街並みが一望できる。
夕暮れ時だからか、街からはたくさんの煙が上がっていて、普通にご飯の支度をしているんだなってわかった。
あの中に、自分の死体を焼いている煙があるとは信じられない。
すると、背後からぷっと噴き出すラルス様の声が聞こえた。
「お前は本当に馬鹿だな。煙なんて上がるわけないだろ? 王宮魔術師たちが関わっているんだ。魔術で一瞬にして灰と化しているよ。その灰さえも、壺に入れられ封印されるだろうな」
くっくと笑うラルス様が嫌いだ。
平気で人を殺して灰にしてしまう魔術師たちが嫌いだ。
そんなことを王様が命じたのなら、本当に許せない。
こんな国、大嫌いだ。
例え本当は私じゃなくて、殺されてしまったのがヤモリでも、よかったなんて思えない。
ヤモリがかわいそう。私もかわいそう。
そして、明美は? 私が殺されたって知らないんだよね? 私のことが心配になったりしないのかな?
もう嫌。みんな、みんな大嫌いだ!
そう思った瞬間、ものすごい閃光が走った。
と、同時にお腹に響くほどの轟音がお城を揺らす。
驚いた私は窓から手を離してしまい、べたっと落ちた。
い、痛い。
「おいおい、そんなに怒るなよ」
「……はい?」
「確かに魔術師たちは馬鹿だが、城の者にも街の者にも罪はないんだから」
「……えっと?」
訳がわからないでいる私の傍にラルス様はやって来て、窓の外を眺めた。
先ほどの光と轟音は雷だったらしく、それをきっかけにしたようにあちらこちらで稲光が走り、轟音が響いている。
しかも雨まで降ってきた。
「今頃は、魔女の呪いだ、怒りだって、魔術師たちは鎮めの儀式のために大慌てだろうな」
「鎮めの儀式?」
「ああ。この突然の雷雨は災いの魔女の呪いだと思っているはずだ。それにしても、さすがだな。呪文の詠唱もなしに、これほどの雷を落とすことができるとはな。どうせなら田畑の上にでも雨を降らせてくれればよかったんだが、まあここも日照り続きだったし、いいか」
「……ひょっとして、この雷や豪雨は私のせいなんですか?」
「なんだ、気付いていなかったのか。お前、さっき自分が殺されたと知って、怒ったんだろ? その感情がそのまま表れたんだよ。あとは制御する力をつけることだな」
まだよく呑み込めないでいる私を無視して、ラルス様はぱっと部屋を明るくした。
え? 電気?
驚いてきょろきょろする私に気付いたのか、ラルス様がめんどくさそうに教えてくれた。
「光の魔術だよ」
「え? ですが、牢屋では蝋燭を……」
「あそこは、一切の魔術を遮断されるような仕組みになってんだ。魔術を使って囚人が逃げ出したら困るだろ?」
「そっか……」
「じゃあ、僕はあいつらの慌てぶりを見てくるから、リラはおとなしくしとけよ」
部屋が明るくなったお陰で、外の稲光の威力は少しだけ緩和されたけど、やっぱりすごい雷雨。
楽しそうにラルス様が出ていくと、私はぼんやり外を眺めた。
これが私の力? 私が怒ったから?
雷鳴が轟くたびに、お城のどこからか悲鳴が上がり、何となく申し訳ない気持ちになってくる。
雷が私のせいなら、どうかもう収まってください。
そう願いながら窓の外を見ていると、気のせいか雨足が弱くなり落雷の数が減っていく。
うそーん。偶然……じゃない?
なんて言うか、ゲリラ豪雨は始まった時と同じに、急に終わった。
えっと……この雷雨で被害が出てないといいな。
偶然だとは思うけど、このままだと本当に私が災いの魔女になっちゃうよ。




