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ありえない! 何これ、何これ!?
パニック状態になった私は瓶の中を行ったり来たりしたものの、すぐに行き止まり。
要するに瓶の中をくるくる回っていただけ。
その間に、美少年は私をローブの中に仕舞い、歩き始めた。
し、振動がちょっと……酔いそう。
すぐに息切れした私は、瓶の中にへたり込んだんだけど、今度は瓶の揺れで気分悪い。
ローブの中は暗かったけど、それでもだんだん明るくなってくるのがわかる。
この明かりは太陽かな? 地上に出たのかな?
なんて考えているうちに話し声が聞こえて、いきなりローブの中から引っ張り出され、私はあまりの眩しさにくらくらしていた。
「殿下、失礼いたします」
「うん、かまわないよ。君たちの仕事だからね」
「ご理解いただき、恐縮です!」
どうやら、美少年は牢屋の出入口を守る兵たちに、身体検査をされているらしい。
私の瓶詰めは木製のテーブルに置かれ、美少年はローブを脱いで、上着まで脱いで、兵たちにペタペタと触られている。
それを見ながら私は陽の光の下でもやっぱり美少年だなとぼんやり思う。
それに、ローブの下に着ていた服がとても豪華なものだということに意識がいって、今さらさっきの「殿下」という言葉に気付いた。
うん? 殿下?
殿下って王子様のことだよね?
ああ、そういえば確かに王子様みたいだ。
さらさらの髪は一見して黒色だけど、ちょっとだけ青みがかっているのが太陽の光でわかる。
その綺麗な髪に天使の輪が輝いていて、西洋人らしい白い肌にはコバルトブルーの大きな瞳がひときわ目立っている。
美少年はやっぱり美しくて、彼自身が眩しいよ。
そうだな。彼に不釣り合いなのは魔法使いのようなローブと……私だよ! いや、ヤモリだよ!
兵士さんたちは王子様が瓶詰のヤモリを持っていてもおかしいと思わないの? スルーなの?
結局、身体検査はOKだったらしく、王子様は再びローブを着て私を内側にあるポケットに入れて歩き出した。
ローブからぼんやり入る光は、蝋燭の薄明りよりも安心する。
やっぱり太陽って偉大だ。
なんて、考えてる場合じゃなくて!
これから私、どうなるの?
それにあのヤモリは?
気分が悪いながらも色々必死に考えていたら、ようやく瓶詰の私はローブから出された。
どうやら、どこかの部屋のテーブルの上らしい。
「さて、すっかり自己紹介が遅くなったけど、僕はこの国――ポセンア国の第二王子ラルス・ポセンア。まあ、長ったらしい名前は省略ね。で、災いの魔女さん、君の名は?」
「……りらです。守宮りら」
「リラね……可愛い名前だね? それなのに、こんな姿にしてごめんね。でも、君を元の姿には戻せないんだ?」
「どうして!?」
「それは僕が未熟だから」
「……は?」
「僕、変化の術は使えても、戻しの術は使えないんだよね」
そう言う王子様はとても楽しそうな笑顔を浮かべ、ぽわんと私の頬が赤くなるのを感じ……るわけもなく。
ヤモリって爬虫類だよね? イモリは両生類?
えっと爬虫類は変温動物だから気温変化に弱くて……。
「って、なんじゃそりゃー!!」
わたしが絶叫したのも仕方ないと思う。
現実逃避を始めた自分を引き戻した途端、この美形王子様がとんでもないことを言ったと理解したんだから。
ただ、悲しいかな。私は瓶詰で、声が瓶の中でぐわんぐわん反響して頭が痛い。
いや、この頭痛はそれだけじゃないはずだ。
「まあまあ、そう興奮しないで。頑張って、戻りの術を使えるようにするからさ」
「そ、それじゃ、他の魔法使いさんにお願いできないんですか? もっとベテランの?」
「魔法使い? 魔術師のこと? だとしたら、無理だよ。僕よりランクの高い魔術師はみんな、あの召喚の儀に参加しているんだから。要するに、君を殺すべきだって主張しているってこと」
「そんな……」
「まあ、心配しなくてもいいよ。僕はすぐにあいつらを超えてみせるから。そもそも地位に胡坐をかいて研究を怠り、向上心を失くして耄碌したんじゃないかな? だって、君こそが国守の巫女だというのに」
「……え?」
おいおいと心の中で泣いていたら、ガラス越しに信じられない言葉が聞こえた。
ガラスにペタリと前足をつけて、王子様を――ラルスを見上げる。
やだ、前足が吸盤のようにガラスに吸い付いてるよ。
これ、ガラスを登れるな……って、そうじゃなくて。
「正確に言うなら、彼女――アケミっていう子を見て、違うなって感じたんだ。あの場には魔術師長をはじめ、王宮魔術師が七人もいて、父上と兄上までいて、何を見てたんだろうね? 召喚に成功したことに興奮しすぎてたのかな?」
「あの……ラルスはどうしてわかったの?」
「え? 呼び捨て? 僕は王子だよ?」
「ご、ごめんなさい。ラルス様はなぜわかったんですか?」
「うん。なぜなら僕がこの国で一番魔力が強いから。まあ、まだ経験不足ってやつで、魔術師長には技術で負けてしまうけど、時間の問題だから」
王子様は――ラルスは優しいようで、尊大な人だった。
王族ってこんな感じなのかな?
それに魔術師長にさえ、ライバル意識が強くて、すごい自信。
それなら早く、戻しの術とやらを習得してくださいよ。
「あの、そう思うならなぜ王様に言ってくれないんですか? 私は災いの魔女じゃないって」
「君、馬鹿なの?」
「え?」
「僕にはそれほどの権限がないって言っただろ?」
「はい、すみませんでした」
この王子様、笑顔なのに目が笑ってないよ。
第二王子ってことだし、ひょっとして色々複雑な環境なのかな? それでコンプレックスとかあるのかも。
そういえば、あの場にいたローブをかぶった人以外――恰幅のいいおじさんも茶色の髪で、よくよく思い出せば、隣にいた美形青年も茶髪だったな。
まさかの王様と第一王子だったり?
黒髪もどきのラルスはこう……家族の中で疎外感を抱いていて、それで立派な魔術師になって、みんなに認められたいとか?
「まあ、そのうちあの女の化けの皮も剥がれるだろうから、その時のあいつらの慌てふためく様が楽しみだな」
あ、ただ単に歪んだ性格だった。
そうか。ひねくれて育っちゃった系か。




