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 イモ(仮)の下茹でをして、それから問題は味付けだ。

 でもさ、別に一流シェフを目指してるわけじゃなくて、目標は食べられればOKなわけで。

 適当でいいよね。

 何かイモ(仮)にあいそうな調味料プリーズ。


「おじさん、何度もごめんなさい。あの、もしこれを味付けるとしたら、どんな調味料を使いますか? あ、試食はなしで答えてください」

「これを……?」

「はい。柔らかくて煮込めば味がしみると思って」


 どうやらおじさんはこの調理場で一番偉い人らしく、手を動かすより口を動かしてるからちょっと訊いてみた。

 しかも試食はなしでって無茶ぶりなのに、おじさんは真剣に考えてくれる。


「そうだなあ。煮込み料理なら伝統的な味付けでいくのもいいかなあ」

「じゃあ、それでお願いします!」


 伝統的な味付けってことは、たぶんそんなに高価な調味料を使ってないよね?

 下茹でに使ったお湯を捨てて、おじさんにちょっと任せてみると、やっぱり手際がいい。

 きゃー! 職人さん素敵―!

 と心の中で声援を送っている間に、おじさんはお鍋に蓋をした。


「これであとは弱火で……そうだなあ。どれくらい煮込めばいいかなあ」

「じゃあ、それは私が見てます。ありがとうございました」

「いや。かまわないが、不思議な食材だな」

「食材になればいいんですけどね……」

「うん? 何だって?」

「いえ、何でもないです」


 おじさんは不思議そうな顔をしながらも他の人たちの監督に戻った。

 さてと、火力の調節くらいは面倒だから魔法でいいよね?

 お鍋はことことと小さな音を立ててるから、もう少ししたら蓋を開けて確認しよう。

 その間に味付け前のイモを二つ取っておいたのを食べようっと。

 味付けなくても食べられるなら尚よしと口の中に放り込む。


「リラさん!」

「ふぁい!?」


 アレクさんの大きな声に驚いてイモが飛び出るところだったよ。

 そう思いつつごくりの飲み込んだら、駆けつけたアレクさんが私の両頬に手を当てて顔を覗き込んだ。

 いやいや、近い。近いよ!


「リラさん、大丈夫ですか! 苦しくないですか!?」

「だ、大丈夫です。……今のところ」


 そんなにじっくり目を見ないでー!

 ううん、やっぱり目だけを見てー!

 おでこにニキビができてるんです! それに鼻の頭にそばかすらしきものだってあるんです!

 つるつるたまご肌のアレクさんの目の前にさらせるような代物じゃないんです!

 何なの!? 皇子様ってみんな毎日とびきりのフェイスパックでもしてるの!?

 ラルス様だって綺麗なお顔にお肌だったし!

 きぃ――っ!


 って、嫉妬してる場合じゃなくて。

 アレクさんは心配してくれてるんだから、ちゃんと答えないと。

 でもその前に少し離れます。バックします。

 アレクさんの両手を握ってほっぺたから放し、つつつっと後ろに下がってにっこり笑う。


「お腹も痛くなりませんし、喉が焼けるような感じもありません。味は正直……もそもそしてますけど、お腹はふくれそうです」

「ですから、リラさんがそのように試される必要はないのです。言ってくだされば、私が食したのに……」

「いえ、それはさすがに……」


 皇子様に毒見なんてさせられるわけがないんだってば。

 前はもっとアレクさんは冷静な人だと思ってたけど、違うのかな?

 スパイしてた緊張感から解放された?

 なんて思ってたけど、すごく視線を感じて周囲を見回した。


 おう! なんてこった!

 注目の的だよ!

 そりゃ、メイドさんな私と皇子様がこんなに近くにいたら驚くよね。

 しかも敬語とか無理だし。


 この空気をどうしたらいいのかわからなかったけど、お鍋の蓋がかたかた鳴りだしたので、気付かなかったことにする。

 うん。名案。

 何事もなかったようにお鍋の蓋を開けてみると、水分はもうほとんど残っていなかった。

 こんなものでいいかな?


 火を消してもう一度蓋をする。

 あとは余熱で味がしみ込んでくれたらいいなあ。

 煮崩れもしていなかったし、これで食べられるとなったらいいよね。

 まあ、このイモ(仮)がどれだけ分布しているかわからないし、栄養価はまったくわからないけど。


「リラさん……やはりそれも食べるつもりですか?」

「はい。さっきの味なしは食べられないことはないですけど、味気なくて……って当たり前だ。あ、このお皿借りていいですか?」

「え? ああ、どうぞ」


 本当はもう少しおいておきたいけど、これ以上ここにいるとみんなに迷惑だし、さっさと食べてしまったほうがいいよね。

 というわけで、おじさんにお皿を借りて、木でできたおたまっぽいのでイモ煮(仮)をお皿に盛った。


「リラさん……」

「今のところ大丈夫ですけど、何かあったら助けてくださいね」


 心配するアレクさんに治癒魔法をお願いしてから、フォークを手に持った。

 さあ、実食!


「いただきます!」


 茶色のイモは煮っころがしみたい。

 フォークで刺して一つを口に運んで……あ、やばい。

 普通においしい。

 でもここで「おいしい!」って言うと、そのあとも独り占めする食い意地の張った私が誕生するので無言でもぐもぐ。

 誰にもあげないよ的に全部口にいれてもぐもぐ。


 うう。心配そうに見守ってくれるアレクさんがまるで一口ほしかったって感じに見える。

 笑っちゃダメ。

 って、みんな見てるし! ちょっと焦げ臭いですよ!

 というか、みんな「え? 一人で食うの?」的な顔じゃない?

 違うんです。これは毒見なんです。

 いたたまれなくなりつつ、完食しました。


「あの、それではお邪魔しました。色々とありがとうございました」

「いや……その、どんな味だった?」

「……とてもおいしかったです。失礼します」


 ああ、これでおいしいものを独り占めした食いしん坊の認定を受けたよね。

 明日になればこの不名誉を挽回できるといいな。

 これで食あたりとかになったら、食い意地が張ってるからとか思われるんだ。


「アレクさん、付き合ってくれてありがとうございました」

「いいえ。これくらいしかできない自分が不甲斐ないくらいです。ですからどうか気にしないでください」

「ありがとうございます」


 どうかどうか、このイモ煮が食べられますように。

 私は大丈夫でも、この世界の人たちは無理でしたとかもなしでお願いします。


 そう祈りながら部屋に戻った私は、そのあとすぐにアレクさんと晩御飯を食べた。

 うん。とてもおいしくて全部食べました。

 そうです。イモ煮を食べたうえでの完食です。

 甘んじて食いしん坊の称号をいただきます。


「あの、アレクさん……?」

「何ですか?」

「えっと、その、そろそろ寝ようと思うんですが」

「明るいと眠れませんか?」

「いえ、そうではなくて……」


 お風呂と着替えるときは席を外してくれたけど、それ以外ずっとアレクさんは傍にいる。

 気が付けばベッドも三つ並べられてるし。


「ここで寝るんですか?」

「ええ、もちろん。でないと、もしリラさんに何かあったときにすぐに助けられませんよね?」

「ああ、なるほど!」

「リラさんの名誉のために、彼女も一緒ですから安心してくださいね」

「――ありがとうございます」


 名誉なんてどうでもよくて、アレクさんと一緒っていうのが緊張するんだけど仕方ない。

 メイドさんにも悪いことしたな。

 馬車でもずっと一緒だったのに、寝るときまでなんて気が抜けないよね。

 一番いいベッドを使わせてもらうのも悪いし、罪悪感で眠れないかもしれないよ。




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