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 今日はここに泊まります。って言われた場所はお城で。

 皇子様は旅の途中でもやっぱりお城に泊まるのかと思ったら、この土地の貴族さんのお家だった。

 そうか。ヨーロッパにもたくさんお城があったけど、あれ全部が王様のものじゃなかったしね。

 すごいな。自宅がお城。


 でもあんまり広すぎるのも不便だよね。

 リモコンとかティッシュとか、すぐ手の届く場所にほしいし。

 どっちもないけど。

 冬はこたつにミカンが最高だし。

 これもないけど。


「アレクさん、キッチンに行きたいんですけど、どこかわかりますか?」

「キッチン?」

「えっと、調理場?」

「ああ、調理場ですね。それはなぜ?」


 キッチンは通じなくて調理場は通じるとか、どう翻訳されてるのかな?

 とまあ、それは置いといて、アレクさんの「なぜ?」に答えないとダメだよね。

 でもアレクさんは笑顔なのに怖いんだもん。

 これから毒を精製しようとしている気分になるよ。

 あ、でも実際にそうなるかも。


「あのですね。これからイモを煮ます。それで私だけ食べます」


 って、何この欲張り発言!

 みんなに毒味はさせないよって言いたかったのに、ただの食いしん坊になってしまったよ。

 って、アレクさんが悲しそうな顔してる!


「リラさん、もしかしてこの世界の食料不足のためにとご無理をなさっていませんか?」

「い、いえいえ! 私、そこまでいい人じゃないです。ただの実験っていうか、やってみたいだけ! 食べてみたいだけなんです!」


 って、ああ……。

 これじゃ食い意地が張ってるみたいだよ。

 でも、引いちゃダメだ。

 私はイモを煮るんだ!


「お料理中の人たちのお邪魔してしまうのは申し訳ないんですけど、お願いです」


 だって明日出発で、下処理の時間を考えると今からしておきたいんだよね。

 隅っこでいいので調理場を貸してほしい。

 その気持ちで訴えたら、アレクさんは大きなため息を吐いた。


「……仕方ないですね。ですが私が傍にいてもいいですか?」

「え…っと、はい……」


 皇子様が調理場にいるとか、他の人のさらに迷惑になっちゃうんじゃ……。

 とは思ったけど、背に腹はかえられない。

 さっき部屋に運んでもらったイモを持つ。

 葉っぱは今は必要ないので置いておく。


「リラさん、私が持ちますよ」

「いえいえ! 大丈夫です!」


 アレクさんは親切に言ってくれたのに、ちょっと断り方が失礼だったかな。

 でも皇子様なアレクさんにイモを持たせたくなかったんだよ。

 保存魔法をかけて布で包んだイモをぎゅっと抱きしめて断った私はかなり怪しい。

 そんなにイモが大事なのかって。


「……それでは行きましょうか」

「はい、お願いします」


 意気込んでアレクさんの後ろについていったけど。

 アレクさんが調理場の場所を知っているわけがないんだよ。

 というわけで、アレクさんは従僕さんに場所を訊いてくれたんだけど驚くよね。

 皇子様が調理場の場所を訊いてくるとか。

 その後ろにイモ(外からはわからないけど)を抱えたメイド服な私がいるとか。

 うん。メイド服からまだ着替えてません。

 なので、このお城の家主さんには驚かれました。


 お城の中をちょっとしたパニックにしながら、アレクさんと私は調理場に向かった。

 もちろん調理場の人たちもパニックになるよね。

 なのでアレクさんにはお願いして、少し離れたところにある椅子に座って見てもらうことにした。

 手も貸してくれなくていいです。


「あの、これぐらいのお鍋かボウルはありますか?」

「ああ、ちょっと待っててくれ」


 アレクさんが離れてくれたからか、緊張していた料理人のおじさんはほっとして私に答えてくれた。

 メイド服がこんなところで役に立つとは。

 そして忙しいのにおじさんが親切なのはアレクさんがいるからだと思う。

 みんなに迷惑をかけてるんだから、そのぶん結果を出すぞ!


 ――というわけで、芋の子を洗うようにイモを洗います。

 用意してくれたボウルにイモ(仮)と水を入れてゴシゴシ。

 素手でするのは危険かなと思ったけど、私で人体実験しないとダメだからね。

 泥が落ちてきたけど、やっぱり手がなんとなくムズムズする。

 でもそれ以上にアレクさんの視線にムズムズするんですけど。


 でも、ほら。

 見ないでくださいって言えないよね。

 だって自意識過剰みたいだし。

 アレクさんは私に異変があったらすぐに助けられるように見守ってくれてるんだよ。


 そう自分に言い聞かせてちらりと見るとばっちり目が合った。

 とりあえずテヘヘと笑うと、にっこり笑顔が返ってくる。

 うん。いつものアレクさんだ。

 私がよいしょとボウルを持ち上げると、アレクさんは腰を浮かせた。


「リラさん、手伝いますよ」

「いえ、大丈夫です。これは私一人でやらないとダメなんです」


 もし毒だったら巻き込んでしまうかもしれないから。

 だから私が死んだら、『食い意地が張った巫女、ここに眠る』って墓碑を建ててください。


 と妄想しつつ、汚れた水を捨てて新しいのを入れる。

 そして包丁を借りて、もう一つボウルを借りて、皮むき始め!

 実は皮むきは得意なんだよね。

 昔、おばあちゃんの家で大量に作ってた干し柿で鍛えたこの皮むき技術、とくと見よ!

 って、手がすべる。

 やっぱりぬめぬめしてるよ。しかもさっきより痒い感じ。

 これはある意味、期待大!


 ここでふと気付いた。

 ひょっとしてこの世界では塩って高価なのかな?

 ぬめり取りに使ったらダメかな?


「あの、塩って高いですか?」

「ああ、もちろん。砂糖ほどじゃないけどな」

「わかりました。ありがとうございます」


 塩は諦めよう。

 ということで、どうしようかな。

 やっぱり下茹でするのが一番かな。

 って、ここでも塩が必要だよ。

 うーん。


「塩って海水から精製されるんですか?」

「よく知ってるな、お嬢さん。その通りだよ」

「海って広いんですよね?」

「そうらしいなあ。行ったことはないけどな」


 よし。塩はあるにはあるみたいだ。海水だけど。

 それならもっと流通できるように工夫するとして。

 下茹でに塩、使いまーす!




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