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まあ、簡単に抜けるわけないよね。
でも負けない。
「くっ、んん……うおっ!」
踏ん張ると声が出てしまって、アレクさんに気付かれてしまった。
正確には他の人たちにも。
「リラさん、何をされてるのですか?」
「うっんっ、これっ、抜いてて……っ!」
「お前たち、手伝いを――」
アレクさんは他の人たち――護衛の人たちに声をかけてくれたけど、そのとき勢いよく抜けて、ひっくり返りそうになった私を支えてくれた。
ご迷惑をおかけしました。
「ありがとうございます」
「いえ、お怪我がなくてよかったです。それで何を?」
「これが食べられないかと思って……」
しまった。
正直に答えすぎちゃったよ。
私の返事にアレクさんは珍しく目を丸くして、傍にいた護衛の一人が「巫女様はお腹を空かせているのか」と呟いて走っていってしまった。
待って! 違うんです!
別にこれを今すぐ食べようとしたわけじゃないんです!
と心の中で呼びかけても伝わるわけないよね。
仕方ないので抜けた葉っぱを持ったまま笑ってみた。
これぞ、必殺! 誤魔化し笑い!
うん。伝わらないよね。
アレクさんも皆さんも日本人じゃないし、曖昧なのはダメだ。
素直に打ち明けよう。
だって、葉っぱの根っこにイモ(仮)がついてるもん。
「これ……この塊を私たちの世界ではイモと呼んでて、食べるんです」
「食べる……その泥の塊を?」
「泥じゃないです! ……たぶん」
里芋っぽいから勝手にイモだと思ったけど、実は違った?
ただでさえ地球の皆さんから苦情を受けそうな説明をしたのに、これでただの泥の塊だったら泣ける。
そう思って塊を握ったら固かった。
うん。何かの実っぽい。
葉っぱが生えてた場所はちょっと穴が開いてて、この感じはまだ他にもイモ(仮)がありそうな予感。
へへっと笑ってから地面を掘り出した私はかなりヤバかったと思う。
だけど必死だったんだよ。
ジャガイモ掘りの要領で地面を掘って、アレクさんたちに自慢げにイモ(仮)を見せたとき、自分が如何に奇怪な行動をしていたかに気付いた。
「えっと、これの皮をむいて味付けて煮ます。それから食べます」
あく抜きとか省いた大雑把な説明にみんなぽかんとした。
それなのにアレクさんだけ困惑しつつも微笑んでる。
イケメンはぽかんともしないのか。
そこでふと気付いた。
これは休憩なんだから、こんなところで時間を使ってたらダメだ。
というわけで、葉っぱと掘り出したイモ(仮)に保存魔法をかける。
「リラさん?」
「あの、今は時間がないのであとで調理しようと思って。うまくいったら、みんなで食べましょうね」
にっこり笑って危なくないよーって説明したけど、みんな顔面蒼白になってしまった。
いや、だからうまくいったらって言ってるし。
無理に毒を食べさせようとは思わないよ。
「……わかりました。それでは、それらを運ばせましょう」
「ありがとうございます」
アレクさんもにっこり笑ってくれて、協力を表明してくれた。
護衛さんたちは「マジで?」みたいな顔でアレクさんを見てる。
うんうん。普通はそうだよね。
改めてイモ(仮)を見て私もそう思う。
確かにただの泥の塊だもんね。
浄化魔法で綺麗にして皮をむいてもいいんだけど、魔力が弱い人のために手順はきちんと守ったほうがいいから。
とりあえず自分の手に浄化魔法をかけて綺麗にして、用意してくれた椅子に座る。
すごいよね。馬車での旅もピクニック気分だ。
でもそのためにみんな働いてくれてて、やっぱり恩返しをしなくちゃって思う。
あの泥イモが無理でも他に何か食べられないか探してみせるからね。
だからどうか、そんなに次から次へとおやつを運んでこないでください。
お腹が空いてるわけじゃないんです。
そう言いたいけど、アレクさんやみんながにこにこして勧めてくれるから。
断ることもできなくて、出されただけ食べました。げぷ。
うん。それで後悔するんだよね。
食べ過ぎたって。
馬車に乗ってからひしひしと後悔という荒波に襲われてるよ。
何で断らなかったんだ、私。
イモ掘りして気分転換になったから、すっかり忘れてたけど、馬車酔いしてたんだよ。
馬車酔いにお腹いっぱいとか、何の拷問。
自分の馬鹿さ加減に泣きたくなったけど、ここで泣いてはアレクさんとメイドさんに心配をかけてしまう。
それに目を閉じたいけど、アレクさんがいると恥ずかしいんだよね。
こういうときってヤモリのほうが便利だったなって思う。
たとえゲロってもヤモリだし。
お尻も痛くなってきたな。
それに比べてアレクさんは涼しい顔をしているよ。
って、ちょっと待てよ。
私ってば巫女っていうか、魔法が使えるんだよね。
ラルス様やアレクさんが言うには、この世界で一番魔力が強いとか。
それを今使わずしていつ使う?
「あの、アレクさん。治癒魔法ってどうやって使うんですか?」
「どうやってという説明はリラさんには難しいですね。リラさんは詠唱を必要とされませんから」
「あ、そうか……」
ということは、他の魔法のようにイメージが大事なんじゃないかな。
えっと、いつもアレクさんがおでこに手を当ててしてくれるように……。
気持ち悪くなくなれ~。気分よくなれ~。
お尻も痛みがなくなれ~。快適になれ~。
怪しい呪文を頭の中で唱えてみると、本当に気分がよくなってきた。
すごい、私。
しかもお尻も痛くない!
「ご気分でも悪かったのですか?」
「ちょっとだけ。でもお陰さまでよくなりました!」
「そうですか……。もう治癒魔法を覚えてしまわれるなんて、さすがリラさんですね」
わーい! アレクさんに褒められた。
やればできる子だからね。
気分もよくなって調子に乗ってると、アレクさんは急に悲しそうな顔になる。
「ですが、私の手を必要とされなくなるのは寂しいですね」
なんてイケメンな皇子様に言われたらころっとまいっちゃうよ!
ほらほら。スパイなメイドさんも顔を赤くしてる。
でも私はもう免疫ができたからね。
アレクさんは油断ならないスパイな皇子様だから。
「いえいえ。まだまだこれからたくさんお世話になります」
にっこり笑顔で答えたら、にっこり笑顔が返ってきた。
よし、この調子だ。頑張れ、私。




