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国守の巫女の座を奪われて、家守になりました。  作者: もり
第二章

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22/27

 

 ガタガタと揺れる馬車から外の景色を眺めていたけど、珍しくてわくわくしたのは最初だけだった。

 街を出ればあとは田舎の道だなあって感じ。

 ただ残念なことに前は畑だったのかな?って感じの場所に作物があまり見当たらないんだよね。

 これが数年前の世界的不作の影響なら、本当はこんなふうに呑気に旅していたらダメなんじゃないかな。

 だけど私には何ができるのかよくわからない。

 もう種籾さえないんだよね?

 分身の術みたいなご飯が増やせる魔法があればいいのに。

 いや、あったりして?


「アレクさん、ものを増やせる魔法ってありますか?」

「ものを増やす? たとえばどのようなものですか?」

「食料とか種籾です」

「ああ、なるほど。食糧難のことを考えてくださったのですね。ありがとうございます」


 アレクさんに質問したら、優しい笑顔でお礼を言われてしまった。

 でもそこまで私はみんなのことを考えていたわけじゃないので、ちょっと居心地悪い。

 戦争は嫌だし、飢饉も嫌だけど、私の一番の目的は元の世界に帰ることだもん。

 もし今すぐ帰ることができたら、全部ほったらかして帰るよ。

 だからメイドさんも「さすが巫女様!」的な賞賛の視線を送ってくるのはやめてほしい。


「残念ながら、幻覚を見せることはできても、実際に増やすことはできません。私たちが使う水魔法なども、この世界に存在するものを形を変えて出現させているだけなので、ないものを出現させるのは……別の世界から召喚するしかありませんね」

「別の世界から……」


 それは私と明美もだよね。

 アレクさんは気を使ってくれてるけど、それはもう今さら怒っても仕方ないので気にしない。

 それよりも水魔法や火魔法は要するに瞬間移動みたいなものってことだ。

 だとすれば、私自身も瞬間移動できる?

 って、それは怖いから実験するのはやめとこう。


「あのあたりに生えている植物は食べられないんですよね?」

「そうですね。下手をすれば腹痛や呼吸困難を引き起こし、最悪の場合は死に至ります」

「死……で、では、根っこは?」

「根っこ?」

「はい。イモ類って、そういえばこの三日間でお料理に出てきませんでしたが、たまたまなんですかね?」

「イモ?」


 よくわからないけど、飢饉のことを考えたらなぜか浮かんできたジャガイモ。

 アレクさんとご飯を一緒に食べているときにはあまり気にしていなかったけど、人間に戻って出されたご飯にはイモ類がなかったんだよね。

 それはシチューが出てきたときに気付いた。

 だって、私はイモ類が嫌いだから。あ、でもポテチは好き。

 それから、そういえばイモ類が出てきたことないなあって思ってたんだよね。


 でも確か、イモ類は毒があったりして取り扱い注意なんだよ。

 ジャガイモの芽とかコンニャク芋とか、あと葉っぱ部分に毒があるイモもあったはず。

 それでイモ類は食べられないって判断されたのかも。

 アレクさんの反応を見てるとそう思えるよ。


「すみませんが、リラさんのおっしゃるイモというのが何かわかりません」

「いえ、別に謝ってくれなくてもいいんです。イモは地面の下にあるものでして、地下茎っていうか……葉っぱの根がこれくらいの塊になってたりとかするものなんです」


 手でジャガイモくらいの大きさを示してみたけど、アレクさんはわからなかったみたい。

 たとえこの世界にイモが存在してても、皇子様なアレクさんが地面を掘るのはちょっとあり得ないし当たり前か。

 そう思ってたら、一緒に乗ってたメイドさん(私の名誉のためなんだって)がすごーく遠慮がちに発言した。


「あの、私はリラ様のおっしゃるイモらしきものを見たことがあります。土地を開墾するときに大きく葉を広げた植物の根にそのような塊がありまして、割るとねばっとしたものが出てきて触れると痒くなるのです」

「ああ、とろろご飯!」

「はい?」

「い、いいえ。何でもないです。それを食べたりはしないんですか?

「食すなどそんな! 皆、毒だと避けております。葉も口に入れると痺れなどを引き起こしますので」

「そうなんですね……。教えてくれてありがとうございます」

「恐縮でございます」


 そういえばおばあちゃんが家庭菜園で里芋を育ててるときに、葉っぱはエグくて食べられないって言ってたような?

 私は里芋も好きじゃないけど、おばあちゃんをがっかりさせたくなくて頑張って食べてたんだよね。

 って、とにかくそれは地球での話でこの世界では本当に毒かもしれない。


 うーん。

 でもほら、カニとかタコとかナマコとか、どう考えても普通は食べないよねってものもあって、この世界でもそういうのがあるんじゃないかな?

 ただ地球の人みたいにチャレンジ精神があまりないだけで。


「アレクさん、毒かどうかを判別する魔法ってありますか?」

「いえ、聞いたことがありませんね」

「そうですか……。では、治癒魔法で解毒できますか?」

「……魔力の強い者で治癒魔法が得意な者ならば」

「アレクさんは得意ですか?」

「それはまあ……」


 私の質問にアレクさんはどんどん疑わしげになっていく。

 でも気にしない。だって決めたから。

 私が毒見をしよう。

 イモ類だけじゃなくて、魚介類も。……グロいのはパスするけど。

 ただ魚介類は中ると怖いから気を付けないとだけど、何とかなりそう。

 それに最悪の結果になったら、それはそれ。

 どうぞ後世に名前が残るくらい称えてください。『ここに食い意地の張った巫女が眠る』ってね。

 魔法があるんだから神様だっているかもしれない。

 だとしたら、この世界の人たちのために頑張って死んだら、ご褒美に元の世界に――家族のもとに返してくれるかもしれないしね。


 お母さん、お父さん、りらは元気で頑張っています。

 だからどうか、あまり心配しないでください。

 と、ちょっと浸ってたら、気持ち悪くなってきた。

 どうやら車酔いみたい。

 これはやばいかも? でもアレクさんの前でゲロっちゃうのはやだ。

 耐えろ、耐えるんだ、私。

 そう暗示をかけていると馬車が止まった。

 私の念動力か何かかな?


「リラさん、どうやら休憩のようですよ」

「ああ……」


 そういうことか。

 馬車から降りて新鮮な空気を吸うと、一気に気分はよくなった。

 あー、よかった。

 ほっとしつつ、ちょっとだけ周囲を散策。

 何か食べられそうな草がないかなあ……。なんて、そう簡単には――。

 世の中、そんなに甘くないと思ってたけど、目の前にはおばあちゃん家で見た里芋そっくりの植物。

 しかもいっぱい生えてるし。

 ……うん。ひとまず抜いてみよう。

 実際は何の植物かわからないので、かぶれ対策にハンカチを手に当てる。

 さて、よっこいしょ!




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