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国守の巫女の座を奪われて、家守になりました。  作者: もり
第一章

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2/27

 

 いい思い? 光瞬く中で私の頭の中はハテナマークでいっぱいだった。

 この時、気付けばよかった。

 小中学校と必ずあった、朝読書の時間。

 漫画は禁止されていたけれど、ライトノベルやケータイ小説などはOKで、明美たちはそういう本ばかり読んでいたって。

 いや、私も好きだったけど。


 やがて光の点滅が終わり、私たちはよくわからない場所で、それこそ騎士だの魔法使いだのの姿をした西洋風ファンタジーな人たちに取り囲まれていた。

 石床に石壁を目にして、四つん這いになっていた私がちょっと感動していたのは内緒だ。


「ふ、二人? 国守の巫女はどちらだ?」


 ローブを頭から被った白髭の、これぞ魔法使い! っていう老人が驚いたように呟いた。

 見た目は西洋人なのに、言葉が通じるとかやっぱりファンタジーか。それともただの夢か。

 なんてぼんやり考えていた私は鈍く、明美の反応は早かった。

 私と違って、綺麗な姿勢で立ったままの明美は顎をつんと上げて言ったのだ。


「あたしを喚んだのは、あなたなの? こちらの都合を訊くこともなく、いきなりとは失礼ね。でもまあ、用件くらいは聞いてあげてもいいわよ?」

「へ?」


 私の口から間抜けな声が出たのも仕方ないだろう。

 何なんだ、この適応能力の高さは。なんて私が思っているうちに、明美は自分こそが巫女だとその態度と言葉で周囲に認めさせたのだから。

 美しく威厳ある巫女と、その傍で四つん這いになっている私。

 これはもう決定したも同然。


「あ、明美……?」


 もう少し、ことは慎重に運んだほうがいいよ?

 万が一にも生贄として召喚されたんだったらどうするの? などといった言葉が私の口から出ることはなかった。

 明美は私を指さしてきっぱりと言い切ったのだ。


「この子は、あなた方が私を喚ぶのを邪魔しようとしたのよ? いつも私の邪魔ばかり。きっとこれからも邪魔をするでしょうから、牢屋にでも閉じ込めておいたほうがいいんじゃない?」

「……え?」

「なんと! それは恐ろしい娘だ! お前たち、この者を今すぐ捕えて牢屋に入れるのだ!」


 魔法使いの後ろにいたらしい、恰幅のいい上等な服を着たおじさんがそう声を張り上げた。

 途端に、部屋の隅で控えていたらしい剣を持った騎士のような人たちに私は拘束され、連行されてしまった。

 どうやらあそこは、お城の地下にある儀式用の部屋だったらしく、私は廊下を行き交う昔の西洋風の人たちの注目を浴びながら、別棟にある地下牢へと入れられ、今に至るわけだ。

 まさかとは思うけど、私を殺そうとまでは明美も思っていないよね?


 毛布も何もない湿った牢屋で膝を抱えて座る。

 たぶん私が牢屋に入れられてから丸一日は経っていると思う。

 固いパンと薄いスープのご飯が今までに三回でてきたから。

 あれから明美はどうなったんだろう?

 大丈夫かな? 


 って、何を心配してるんだ、私は。

 もし困ったことになっていても、自業自得だよ。

 そう考えつつ、間違いなく困ったことになっているのは自分だと思い、大きくため息を吐いた。


 そこに、足音が聞こえてくる。

 ご飯はさっきもらったから違うはずだし、明美かな?

 投獄はやり過ぎだって、やっと気付いてくれた?

 薄暗い牢屋の中で、近づいてくる人物に目をこらしていたら、蝋燭の明かりが映したのは、少し年下の男の子だった。


「やあ、君が災いの魔女?」

「え?」

「今、城では国守の巫女の召喚が成功したって、大喜びだよ。ただし、一緒に災いの魔女まで喚んでしまったから、その処遇をどうするかで悩んでもいる」

「ちょっ、ちょっと待ってください! 災いの魔女って、まさか私のことですか?」

「君以外に誰がいるの? まず国守の巫女の召喚を邪魔しようとしたことからも十分に災いだよね?」

「そんなことしてません! そもそも私はこんな所に来たくなかったんです! それなのにいきなり足元が光って……。邪魔なんてしませんから、とにかく私を帰してください! 学校だってあるし、親だってすごく心配するはずだから!」

「ふーん。なるほどね。でも残念ながら、僕たちは召喚はできても、還すことはできないんだ。だから、この召喚に関わった者たちのほとんどが君を殺すべきだって意見だよ」

「え……?」

「そもそも、召喚の儀式だなんて古代魔法でね。今では禁忌の魔法なんだ。それはこの国だけでなく、世界の掟でもある。証拠はできるだけ残さず消すべきだからね」


 近づけば、薄暗い蝋燭の炎でも、この男の子が美少年だとわかる。

 それなのに口から出てくるのはとても恐ろしい言葉。

 勝手に喚ばれて、邪魔だからって殺されるなんて冗談じゃない。


「で、でも、それじゃあ、明美はどうなるんですか? 彼女だって召喚の証拠じゃないですか!」


 やっぱり生贄とかにされるんじゃないの?

 自業自得とはいえ、心配になった私に美少年はにっこり笑った。


「彼らは彼女が必要で喚んだんだからね。どうとでも誤魔化すだろ? ただ、災いの魔女である君はいらないってわけ」

「そんな……」

「だから、僕がもらおうと思って」

「……?」


 今聞かされたことにショックを受ける私に、美少年は訳のわからないことをさらに言った。

 もらうとかどうとかって、意味がわからない。


「だって、君だって好きで喚びだされたわけじゃないのに、いきなり殺されるんじゃ気の毒でしょ? だから助けてあげるよ」

「本当ですか!?」

「うん。ただし、このまま君を引き取るほどの権限は、残念ながら僕にはないんだ。だから君には変化の術をかける。そして、君の身代わりも仕立てる」


 変化の術? 身代わり?

 現代日本の日常で使われる言葉じゃないけど、今度は意味もわかる。

 ただ私の中の常識がこの場においても拒否しているだけ。

 そんな私をよそに、美少年は着ていたローブの懐を探り、コルク栓で蓋をした瓶を出した。

 中には爬虫類が――たぶんヤモリが入っている。


 いや、まあ、神社の裏手に家があった私は虫とかヤモリとかイモリとかは見慣れていて平気ではあるけど、好きなわけではない。

 どうするつもりなのかと見ていると、美少年はコルク栓を開けて、ヤモリを牢屋の中へ放した。

 途端にヤモリはペタペタと勢いよく這っていき、牢屋の奥の壁に張り付く。

 え? 同居人?

 なんて私が現実逃避をしている間に、美少年は何事かぶつぶつ呟いていた。

 怖いよ、美少年。


 そして美少年は指先を壁に張り付いたヤモリに向けた。

 ――瞬間、美少年の指先から光のようなものが放たれて、ヤモリを撃ち抜く。

 ええ? 嘘でしょ?

 薄々気付いていたけど、というより気付かざるを得なかったけど、魔法だよね。これ。

 その考えは、すぐに肯定されることになった。


 だって、壁に張り付いていたヤモリがドタンと音を立てて、壁から落ちたんだから。――人間の姿になって。

 呆気に取られて見ていると、のそのそと起き上がった人間の姿になった元ヤモリと目が合った。

 それは蝋燭の薄暗い中でもわかる。

 というか、錯覚しそうになる。――私、鏡を見ているのかって。


「さあ、これで身代わりはできた。次は君の番だよ」

「……え?」


 と、思った時には遅かった。

 再びぶつぶつ呟いた美少年の指先は私へと向けられ、光に撃ち抜かれる。

 いたっ! と思ったのは気のせいかもしれない。

 一瞬後には、私はビタンと石床に叩きつけられ、本当の痛みに痺れている間に、格子になった太い木枠の向こうから伸びてきた美少年の巨大な手に捕まえられてしまったのだ。

 そして、ひょいと持ち上げられ、状況が理解できないうちに、私は瓶へと詰められ蓋をされてしまった。

 あれ? どういうこと?

 頭の中がまたハテナマークでいっぱいのうちに、うっすらと瓶に映った姿に愕然とする。


 私、ヤモリになってるー!!!?




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