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「まず、王様は退位してください」
「何を――」
「もちろん王太子様はその地位を下りて、どうぞ明美と愛に生きてください」
「はあ? りらってば、何言ってるの!?」
「やはりあいつは魔女だ!」
「魔術師長も耄碌なさってるそうなので、引退してくださいね」
「小娘風情がラルス殿下の後ろ盾を得て、強くなったつもりか!」
それぞれ私の要求を伝えると、みんな予想通りの反応だった。
だけどまさか、魔術師長がいきなり魔術砲を撃ってくるとは思っていなかった。
気付いた時には防御術を作動させるには遅くて、思わず目を瞑って身構える。
あれ? まだ?
恐る恐る目を開ければ、どうやら誰かが――アレクさんが防御術で私を守ってくれていた。
私に防御術を教えてくれたラルス様は、腕を組んで楽しそうに見ているだけ。
「あ、ありがとうございます、アレクさん」
「いえ、お怪我がなくて何よりです」
「なるほど。アレク、お前かなり力を隠していたな? その髪色も嘘だろう?」
「殿下、私の力を測るためにリラさんを危険にさらさないでください」
「僕はちゃんとリラに防御術を教えたぞ。実践できなかったリラが悪い」
「最低ですね、殿下」
まったくだよ。
やっぱりラルス様は性格も根性も悪い。
今に見てろよ、このドS王子め。
「どこが本物だ! たったこれだけの攻撃を自分で防ぐこともできぬ者が巫女などと、名乗るのもおこがましい!」
「……ラルス様。私、ちゃんと力の加減ができるようになったんですよ」
「ふうん?」
か弱い乙女にいきなり攻撃してきたうえに、防げなかったことでこんなふうに言われるなんて超腹が立つ。
なので、ラルス様にデコピンされながら覚えた力加減を見せてやる!
私はびしっと魔術師長を指さした。
一瞬後、魔術師長は何かに吹き飛ばされたように体をくの字に曲げて後ろの壁へと衝突。
もちろん何かっていうのは、私の威力を抑えた魔術砲だけどね。
今のは派手に見えるけど、体全体を魔術で投げただけでお腹を一発殴られたくらいの痛みのはず。……たぶん。
魔術師長が苦しそうに呻いているのは、軟弱者――いや、お年寄りだから? やり過ぎたかな……。
壁際にいた騎士さんたちも、受け止めてあげればいいのに、みんな避けるなんてひどくない?
「えっと、たったこれだけの攻撃を自分で防ぐこともできないなんて、魔術師長を名乗るのはおこがましいんじゃない? やっぱり辞職すべきね!」
「なかなかやるじゃないか、リラ」
「リラさんは本当にすごいですね」
意地の悪いセリフを返すと、ラルス様がにやりと笑って褒めてくれた。
おお、珍しい。
アレクさんにも褒められちゃったよ。
嬉しくて笑顔のまま、壇上に据えられた椅子に座る王様を見上げたら、「ひいっ!」ってのけぞった。
そんな化物を見るような顔をしなくてもいいのに。
素直に償ってくれたら、何もしないよ。
「王様、ずいぶんお待たせしているようですけど、この後で帝国の使者の人と会うんですよね? その時は全面降伏するべきじゃないですか? あまり詳しくない私が口を出すのは間違っていますけど、戦争を仕掛けたのはこちら側なんですよね? でも負けそうなんですよね? それなのに戦いを続けて、無駄な死を増やすことはやめてください。何年かかるかわからないですけど、賠償を分割払いにしてもらって、みんなで頑張ればいいじゃないですか。ここにいる人たちは十分豊かそうに見えます。みんなが我慢して、国民に食料が行き渡るようにして、協力してもらって頑張りましょう? 私も微力ながら手伝います」
ちょっと長々言いすぎたけど、戦争がとても悲惨なことは平和な時代に育った私でもわかる。
ひいおばあちゃんの話を聞いていると、いつも思う。
今のあの世界だって戦争はたくさんあって、泣くのはいつも弱い立場の人たちだから。
でも、私の意見はここにいる人たちにはあまり受け入れられなかったみたい。
ざわめく中から聞こえてくるのは、自分たちの利権を守るための愚痴めいた言葉。
それに触発されたのか、明美を腕に抱きながら、王太子様が私を指さした。
一瞬、攻撃かと思って今度こそ防御してみせると構えた私はちょっと恥ずかしい。
王太子様は本当にただ私を指さしただけみたい。
そして偉そうに言う。
「お前が本物の国守の巫女だと申すのなら、この国を守るべきじゃないのか? それがなぜ帝国に降伏せよと申すのだ。まさか帝国の間者ではあるまいな? ラルス、お前が引き入れたのか!?」
「兄上、この娘がそこの娘と同時に現れたのは、兄上もご覧になっていらしたのでは? 召喚の儀に立ち合われたのでしょう? それに、文献をお読みになればおわかりになるかと思いますが、過去に二度、この国に出現した国守の巫女は災害から民を守ってくれはしておりますが、こちらに非がある戦から守ってくれたなどとはどこにも記されておりませんよ」
「う、うるさい! ならば守らせればよいだけであろう! そこの娘、今すぐ戦場に赴いて、先ほどのような魔術で敵兵を蹴散らすのだ!」
「……確かに、ラルス様は私のことを国守の巫女だと言ってます。私にはその真偽はわかりませんが、自分がかなりの魔力を持っていて、怒りに呼応して雷を落とすことができるとは知っています」
さっきの明美の時には、巫女は王都にいるべきだって、戦場にはやれないとか言ってたよね?
もう馬鹿すぎて怒る気力もないけれど、邪魔くさいので、王太子様が立つ近くの窓のすぐ外を指さして、雷が落ちるように念じた。
途端に閃光が走り、同時に轟音が鳴り響く。
よかった。ちゃんとできたよ。
王太子様と明美は絵に描いたように、飛び上がって驚いた。
うん、雷って近くに落ちるとすごく怖いよね。
だから本当は嫌なんだけど、二人の怯えようにちょっと胸がすっとした。
そして、ものすごい雷鳴の反響が聞こえなくなると、広間はすっかり静まり返っていた。
王太子様はもう顔色が青を通り越して、白い。
そんな王太子様を見て、その腕を肩から外してそっと離れていく明美はさすがだと思う。
「あ、あなた様は本物だ。本物の国守の巫女である!」
呆然自失の王太子様を放って、王様がそう声を上げた。
王様はさっきラルス様を褒めて、その後で私の要求に怒っていたよね?
明美並みの変わり身の早さだ。
何となくこの国の体制がわかった気がする。
王様よりも魔力の強い魔術師たちがいるお城。
こういうの何て言うんだっけ……。ああ、傀儡政権ってやつだ。
そうか。もう疲れたよ、ラルス様。
はあっとため息を吐くと、アレクさんが励ますように軽く肩を叩いてくれた。
これはヤモリの時によく頭を撫でてくれた感覚と一緒だ。
よし、もう少しだけ頑張ろう。
「――では、先ほど私が言った償いを受け入れてくれますね?」
「い、いや、それは……。その、そなたが国を守ってくれるなら、このポセンア王国はこれから栄えるであろう。よって――」
「そんなに皆さんが言うなら、私は国守の巫女かもしれないです。でも、この国を守るつもりはありません」
「は?」
「え?」
「そんな……」
私がきっぱり宣言すると、王様を筆頭にみんな間抜けな声を出した。
ラルス様は噴き出したけど。
だって、微力で手伝うとは言っても、守るとは言ってないよね。
ただ、国民に革命の意志もないのにいきなり王様がいなくなったら、困るのは私でもわかる。
というわけで、最後の要求。これが私の仕返し。
どんな反応が返ってくるかな?
「ラルス様も私を騙していたことで、怒ってもいいし、殺してもいいって言いましたよね?」
「ああ、言ったな」
「では、償ってください」
「死ねばいいのか?」
「まさか! そんな怖いこと言いませんよ。ラルス様はこの国の王様になってください」
「へえ?」
「あと、魔術師長にも」
「おい――」
「だって、この国で一番魔力が強いのはラルス様ですよね? それに、王様と王太子様が退位されると、継承順位的にラルス様ですよね? 頑張ってくださいね?」
「お前なあ……」
ラルス様は呆れたようだったけど、ちゃんと知ってるんだから。
魔術の勉強だけで、あんなに図書室に籠る必要はないって。
お城の人たちの中に、ラルス様の味方もけっこういるって。
「父上! やはり私の申した通りではございませんか! ラルスは己が王になりたいがために、この娘を巫女に仕立て上げたのです! お前たち、今すぐ剣を抜け! そして、この裏切者を――ラルスを捕えよ!」
王太子様ってば、まだやる気なの?
広間にはたくさんの貴族っぽい人たちと同じくらい、騎士たちがいた。
その騎士たちが王太子様の命令に剣を抜く。
きゃあっと悲鳴を上げるのはわずかにいた女性たち。
もちろん、他の貴族だか要人だかの人たちも隅へと逃げる。
たぶん、こういう場所で剣を抜くなんてこと、普通はないんだろうな。
ただ王太子様の許可が――というより、命令されたからなのか、剣を抜いたものの騎士たちはためらっている。
それなら楽にしてあげないと。
「えいっ!」
人間の姿でやるのは初めてだけど、さっきの魔術砲も雷もできたから。
そう思って、両手を騎士たちに向け、気合を入れて万歳!
すると、騎士たちが握っていた剣がすぽっと手の中から抜けて、そのまま勢いよく天井に刺さった。
そうか。剣だからこうなるのか……。
後で片付けるのが大変そうだなと天井を見上げていると、後ろで盛大なため息が聞こえた。
「リラ……新しい魔術を覚えたんだな」
うん。内緒にしてたけどね。
私の世界では念動力って言うんです。




