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いったい誰だ、私は。
ってくらい、慣れない関西弁で突っ込んだのも許してほしいよ。
だって、修羅場とも言えない、ただの茶番が始まってしまったんだから。
それは私だけでなく、ラルス様もアレクさんも同様に思っているみたいで、白けた空気が伝わってくる。
でも逆に、広間内の野次馬――じゃなかった、要人の方々はこの成り行きがどうなるのか、手に汗握って観戦? 観覧? とにかく見守っているみたい。
「巫女殿、あなたが原因とわかっているなら、なぜもっと魔術を学ばない? なぜそうやって殿下の腕の中にいる?」
「そ、それは……人を簡単に殺せてしまう魔術が怖くて……」
ああ、それはわかる。すごくわかる。
うんうんと同意していると、魔術師長がふんと鼻を鳴らした。
「ですから何度も申しておるではないですか。きちんと魔術を学べば、そのようなことをせずとも敵兵を蹴散らすことはできます。それを『できない、できない』と、何度も魔術訓練を抜け出したのは、巫女殿でしょう」
ああ、それはダメだ。すごくダメだ。
私はラルス様の厳しい特訓に耐えたよ。結局、まだ帰る方法は見つかってないけど。
だけど力の加減方法も覚えたし、偶然だけど魔力の気配を感じることもできるようになったし、念動力だって使えるようになったんだから。
あれ? そういえば、変化の術とか戻しの術とか、自分で覚えればよかったんじゃない?
しまったあああっ!
ベッド代わりにしていたあの本のどれかに、その方法とか書いてあったかもしれないのに!
うん? でも、私は魔術に呪文は必要なくて、イメージすればたいていできるわけで……。
待て待て、私。今はイメージしてはダメだ。
うん。この茶番が終わったら試してみよう。
「だったら……だったら、りらを連れてくればいいじゃない! あの子だって黒髪だもの。魔力が強いはずよ!」
おや? 余計なことを考えているうちに、話題が変わってる?
何だか私の名前が聞こえた気がしたけど。
明美を見れば、先ほどまでのか弱さが嘘みたいに魔術師長を睨みつけている。
本性が出てるよ、明美。
ほら、王太子様もびっくりして顔色が悪くなって……王様も魔術師長も顔色が悪いね。
そうか。私は殺されたから。
じんわり悲しくなってきたけど、明美は知らなかったらしいとわかってほっとしてる部分もある。
すると今度は意地悪な気持ちがむくむく湧いてきて、魔術師長たちが何て答えるのか楽しみになった。
私は性格が悪いからね。ここで助け舟を出したりなんてしないんだから。
さあ、どうぞ。
ちらりと見上げれば、ラルス様はそれはもう満面の笑みを浮かべていた。
うん。私よりも上手がいたよ。
ああ、アレクさん。そんなに心配そうな顔をして私を見ないで。逆に私の良心が痛むから。
「あ、あの娘は……巫女殿が牢に入れろと申したのではないか」
「そうよ。でも後で、街へと出したんでしょう? りらは私の邪魔をできるくらいだもの。魔力だってしっかりあるに決まってるわ。りらに魔術を教えて戦場に行かせればいいんじゃない」
ええ? それはひどいよ。
自分が嫌だからって、人に押しつけようだなんて、明美は私より性格悪いね。知ってたけど。
「い、今はあの娘がどうしているかは知らぬ。それを捜し出して、また一から魔術を教えるなどと悠長なことをしておったら、この国は帝国に負けてしまう。あなたは国守の巫女として、この国を守る義務があるのだ!」
「何を勝手なことを言ってるの!? 私を無理やり喚び出したのは、あなたたちじゃない! 私は私の世界で幸せに暮らしてたのに! 私に不満があるなら、私を元の世界に帰しなさいよ!」
そうだ、そうだ!
って、明美を応援してる場合じゃない。というか、明美はついて来たんじゃないか。
でも、今はそれは置いといて、何か帰れるヒントでも言わないかな?
「我々は陛下に命じられ、この国を思い、禁じられた儀式を行ったのだ。なぜ召喚の儀が禁じられたか? それは、召喚したものを戻すことができぬからだ。人ならまだいい。儀式に失敗して化物を召喚してしまった悲劇が過去に何度かあり、召喚の儀は禁じられたのだ。よって、巫女殿を還すことはできぬ!」
ええ? 何言ってんの? あのお爺さん。
さも立派なことをやり遂げたように言ってるけど、要するに世界的な掟を自国の利益のために破ったってことだよね?
失敗するかもしれないのに?
勝手に私を家族や友達と引き離して、帰せないのに?
どうしよう。苛々する。苛立ちが怒りに変わっていく。
我慢するべき? 怒るべき?
ああ、でもぐちゃぐちゃな気持ちで、制御できそうにない!
「リラ!」
「リラさん!」
ラルス様とアレクさんの焦った声が聞こえる。
だけど、もう、無理。感情が抑えられない。
そう思った瞬間、突然の落雷とともに激しい雨が降り始めた。




