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国守の巫女の座を奪われて、家守になりました。  作者: もり
第一章

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「い、いつから知っていたんですか? 私がしゃべれるっって」

「リラ、アレクはお前が話せるだけでなく、あの召喚で呼ばれた人間の娘だってこともわかっているはずだぞ」

「え?」

「すみません、リラさん。最初からおかしいとは思っていたんです。殿下が災いの魔女が捕らえられている牢屋に出向かれて、戻っていらした時から。ただ確信を持ったのは災いの魔女が処刑された日です」

「そんな……」


 アレクさんに騙されていたのはすごいショック。

 それに、ずっとヤモリのふりをしてたのに、人間だってばれてたのも恥ずかしすぎるんですけど!

 いや、問題はそこじゃないか。

 でも、アレクさんはいつも優しくて、いっぱい癒してくれたから。

 それに最近、ごめんねって謝ってくれていたのも、そういうことだったんだ。


「じゃあ、本当ならアレクさんとたくさんおしゃべりできたのに……」

「は? 問題視するのはそこ?」

「だって、ずっとずっと、おしゃべりの相手はドSなラルス様しかいなかったんですよ? それがどれだけ寂しかったか!」

「……ドエスって何だ?」

「殿下、そこも問題ではありません。私は――私たちはリラさんを騙していたんです。それを謝罪しなければ。リラさん、今まで知らないふりをしていて、申し訳ありませんでした。それに寂しい思いもさせてしまっていたようで、すみません」

「う、ううん。アレクさんはいいよ。いつも美味しいものたくさんくれたし、優しくしてくれたから」

「おい、リラ。僕は?」

「ラルス様には謝ってもらってないです」

「お前――」

「殿下、あなたはリラさんにひれ伏してでも謝罪するべきです。ただ今は、謁見の間で騒ぎが起きているようですね?」

「ああ、そうだ。やはりお前の耳は早いな。リラ、ひとまずその姿で僕についてきてくれ。面白いものが見物できるぞ」

「……瓶詰は嫌です」

「わかったよ。それじゃ……ローブの中にでも隠れていろよ。ほら、ここに内ポケットがあるから」

「……わかりました」


 ラルス様とアレクさんの会話は正直怪しすぎて、不安でいっぱいだよ。

 だけど、拒否しても仕方ないと思う。

 たぶん明美に関することなのじゃないかな。

 そう思ってラルス様が広げたローブの中に潜り込む。

 以前はここに瓶詰のまま入れられていたんだよね。


「アレク、お前も来るんだろ?」

「当然です。これから起こるだろう愁嘆場はぜひ見学させていただきたいですからね」

「悪趣味だな」

「殿下ほどではありません」

「そろそろお前の正体を明かせよ」

「それは後ほど、必要になれば」

「相変わらず性格悪いな」

「殿下こそ、私が密偵だとご存じでしたのに、ずっと見て見ぬふりをなさってましたよね。お互い様です」


 うーん。前から思ってたけど、この二人は仲がいいのか悪いのか。

 しかもアレクさんって密偵……要するにスパイだったってことだよね?

 衝撃の事実だよ。

 ところで、どこの国のスパイなんだろう? やっぱり今戦争しているナントカ帝国?


 二人は口ゲンカめいたことをしながら、急ぎ足で目的地――謁見の間とやらに向かってる。

 私はといえば、前回に比べてましではあるけど、やっぱりちょっと乗り物酔い。

 うっぷ。新鮮な空気がほしい。

 そう思っているうちに、ラルス様は一度立ち止まった。


「通してくれ」


 声を発したのはアレクさん。

 すぐにラルス様はまた動き始めた。


「お前たちは、衛兵にまで密偵を送り込んでいるのか?」

「それほどにこの国の監視機能が低下しているということですね」

「反論できないな」


 二人はこそこそ話していたけど、それ以上の大声で怒鳴っている人がいた。

 気配を探れば、ここには多くの人、しかも魔力の高い人たちばかりいるのがわかる。

 ラルス様がまた立ち止まり、壁にもたれたような動作をしたので、目的地に到着したみたい。

 そこで私は新鮮な空気を求めて、ちょっとだけローブから顔を出した。


「おい、リラ。あまり出るなよ」

「根暗王子の殿下が、今さらヤモリを連れていても、誰も何も思いませんよ」

「アレク。お前、遠慮がなくなったな」

「そうですか? リラさん、もし不埒な輩がいたら、攻撃してかまいませんからね」


 二人の会話は囁き声っていうのもあるけど、誰もが中央で繰り広げられている劇のようなものに気を取られていて、私たちには気付いていない。

 それなのにアレクさんは優しく物騒なことを言う。

 私が魔術を扱えることもお見通しだったんだ。

 アレクさんに頷いて応えると、私も中央へと意識を向けた。


 あ、明美だ。

 それに、あの召喚の儀式の時にいた茶髪の美青年――たぶん王太子様と王様、それに魔術師長と他にもローブを着た魔力の高い人たちが何人かいる。

 さらには、もう一人――とても綺麗なドレスを着た若い女性。

 あの人は顔を覆って泣いているみたいだから、ひょっとしなくても王太子様の婚約者?

 おお、これはいわゆる修羅場。


 明美はいつもならあり得ない、か弱そうな風情で王太子様に肩を抱かれている。

 こっちはヤモリだっていうのに、明美はお姫様ドレスを着ているよ。

 あと、魔術師長が怒鳴っていたみたいだけど、こめかみに青筋が浮いていて心配になる。

 誰か宥めないと、血管が切れちゃうよ。


「王太子殿下! これでは話が違うではありませんか! 何度も申しておりますが、我々が世界の掟を破ってまで召喚の儀を行い、国守の巫女を喚び寄せたのは、シェプラード帝国との戦に勝利するためですぞ! ここで巫女の力を使わずしてどうするのです! 今の戦況をご理解なさっているのですか!? いいえ、きっとわかっておられませんな。でなければ、わざわざ我がひ孫のレイラを呼び出し、このような場で婚約破棄を言い渡すなど、正気の沙汰ではありえませんぞ!」


 魔術師長の言葉で、若い女性――レイラさんというのかな? 彼女はついにわっと声を出して泣きだした。

 慌てて年配の女性が駆け寄る。

 雰囲気からしてお母さんかな?

 婚約破棄されるのは気の毒だけど、お母さんが傍にいてくれるだけで幸せじゃないかと思うのは、私もちょっと病んできているのかも。


「ケーネルこそ、何を言う! アケミは――国守の巫女は我が国を守るために存在するんだ。それを戦場へと連れ出して戦えなどと、それこそ神への冒涜だ! 巫女はこの国にポセンア王国に在る。この王宮でポセンア王の隣に座してこそ、この国を守り導いてくれるのだ!」

「馬鹿な! 陛下の隣にいらっしゃるべきは、王妃陛下のみ! 未だ力も制御できぬ小娘の場所ではない!」

「なんと無礼な! 国守の巫女を小娘と言ったか! そなたに魔術師長の資格などない! 今すぐその職を辞すのだ!」


 王太子様の宣告に、ざわついていた広間が一瞬にして静まり返った。

 数段高い位置にいる王様は顔面蒼白になっていて、口をぱくぱくさせている。

 大変だ。ケーネルという名前らしい魔術師長もご高齢で心配だけど、王様も肥満で心配だ。


「……ほう。私を――私どもを殿下はもう必要ないとおっしゃるか」

「い、いや、待て、ケーネル。息子は、カルロスは頭に血が上っておるので思ってもいないことを口走っただけだ。の、のう、カルロス? 今のは失言だったと、ケーネルに謝罪するのだ」

「父上、王太子である私が臣下に謝罪しろとおっしゃるのですか? 皆の前で?」

「カルロス!」

「やめてください! 私が! 私の力が及ばないのが全て悪いんです……。だからどうか、殿下を責めないでください……」

「アケミ……」


 茶番だ。素敵な茶番が始まったよ。

 さあ、次の展開やいかに!? 


 って、アホちゃうか。




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