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国守の巫女の座を奪われて、家守になりました。  作者: もり
第一章

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「ねえ、れん君。れん君は、あたしとりらちゃん、どっちが好き?」

「え? ……どっちも好きだよ?」

「どっちもはだめ。どっちか、えらんで?」

「ええ? ……じゃあ、りらちゃん?」


 この瞬間、りらこと私――守宮もりみやりらは頭を抱えたくなった。

 ああ、主よ。どうして貴方は男子たる者、女子の間に漂う微妙な空気を読めないようにお創りになったのですか?

 そう天を仰ぎ、眩しすぎる太陽から目を逸らしたことを今でも覚えている。

 もちろん、少々記憶を脚色してるけどね。

 幼稚園児が「神よ……」とか祈ってたら怖いし。

 ちなみに私は無信仰です。


 とまあ、これは十年以上前の思い出。

 どう考えても、この質問を口にしている人物――栗林くりばやし明美あけみは、自分を選んでくれと言っているのに、なぜわからない、れんたろうよ!

 しかも「じゃあ」と仕方なく選ばれたがために、私はこの日以来、明美に恐ろしいほどの対抗心を抱かせてしまったのだ。

 いや、対抗心があったからこその「どっちが好き?」っていう質問だったか。


 小学校に上がる直前の私と明美に深い溝を残したまま、れんたろう(漢字は覚えていない)はお受験とやらで名門小学校へと入学し、通学に便利な地域へと引っ越して行ってしまった。

 明美は自らこんな質問をするくらいに勝気な性格で、顔も美少女系だったので、自分に自信があったのだ。

 そして敗北した。

 それなのに往生際悪く、明美はれんたろうに食い下がっていた。


「どうして、りらちゃんなの?」

「だって……りらちゃんのほうが、おとなしくてかわいいから」


 ああ、やっちまった。

 この「かわいい」は顔かたちではない。私のほうがれんたろうより背が低かったからだ。

 明美はちょっとだけ高かった。子供の頃の男女の身長なんてそんなものなのに。

 そして「おとなしい」とは、言いたいことをずばずば言う明美に対して、私はただ黙って従っていたほうが平和だったからだ。

 この屈辱を、明美はずっと忘れていない。


 小学校に入学した明美は、持ち前の性格で女子のリーダー格になった。

 私はたまたま近所だったというだけで、明美とれんたろうと三人で遊んでいたので、小学校でクラスが分かれてしまえばそれまで。――と思っていたのに。

 当たり前だが、クラス替えがあるのだから、六年間もあればいつかは同じクラスになる。

 残念ながら、三年生で明美と同じクラスになった私はいじめを受けた。

 女子全員から無視されるようになったのだ。

 しかし、私は元々一人でも平気という性格で、幼い頃に明美たちと遊んでいたのも、家で本ばかり読んでいた私を心配して母親に無理に外へと追い出されていたから。

 子供は外で遊ぶものという風潮はいかがなものか。


 というわけで、私は気にせず朝読書の時間以外にも休み時間は常に本を読んでいた。

 誰にも邪魔をされず本を読めるなんて、天国だよね。

 ただ人間というものは調子に乗る生き物であり、そのうち明美が率先して私の物を隠したり、机を汚したりなど始めた。

 これははっきり言って迷惑千万。

 はじめのうちは、こちらが反応をしなければそのうち飽きるかと思っていたのに、やはりというかエスカレートしてきた。


 そして私は世間で言う「おとなしい」人種ではあるが、別に「気弱」なわけではない。

 要するに、ただやられるだけの我慢などはしない。

 必殺「先生に言いつける」を繰り出したのだ。

 明美はリーダーシップはあるが、逆に言うと生意気なところもある。

 この時の担任の先生は三十歳を過ぎた女性で、幸いと言っていいのか、明美とは合わなかったみたい。

 今まではできる限り公平に生徒たちに接していたけれど、教師といえど所詮は人間。

 好き嫌いがある。


 活発で何でもハキハキと物怖じせずに言う明美と、おとなしく大人の言うことをちゃんと聞く私とでは、先生の軍配は私に上がった。

 学級会が開かれて私は晒し者になりはしたけど、見返りは上々。

 もちろん男子や親に知られることは恥ずかしかったけど、私は歯を食いしばって毅然としていたのだ。

 ここでいじめられっ子というレッテルを貼られては負けになる。

 そのため、私はいじめっ子に負けない、むしろ相手にしないというスタンスを貫き、それ以来いじめを受けることはなかった。


 これは小学三年生という大人や先生がまだ絶対という年齢だったから通用したのだと思う。

 もう少し大きくなっていれば、みんなもっと陰湿に、大人にばれないようにもっと酷い目に遭ったかもしれない。

 ただ、明美はお母さんと一緒にうちに謝罪に来たけど、あの時の悔しそうな、それでいて覚えていろよという顔は忘れられない。


 その後は、進学した公立中学校でも明美と同じクラスになることはなかった。

 これはきっと学校側の配慮だと思う。

 そして私の周囲にはおとなしい子たちが集まってきた。

 スクールカーストで言うなら、私たちのグループは一見底辺だったけれど、個性とやらが尊重される風潮の中で、みんな私を盾に好きにしていた。


 明美はもちろんカーストのトップ。

 華やかな美人で成績も運動神経もいいんだから、必然とそうなる。

 たまに私たちを見下したように、勝ち誇ったように笑っていた。

 もういい加減に忘れればいいのに。

 私は可もなく不可もなくな顔で、れんたろうの言葉は本当にたまたまだったんだから。

 今、彼がいれば間違いなく明美を選ぶに決まってるよ。


 そうして私は県内でトップクラスの進学校に入学したわけだけど、残念なことに明美も一緒だった。

 明美を避けてランクを落とすべきかと悩みながらも、やっぱりそれはそれで悔しいから。

 高校に入学してすぐに、当然というべきか明美はカーストのトップグループに所属した。

 たまに私のほうを見て彼らがくすくすげらげら笑っているのは、きっとネタにされているんだと思う。

 中学までは部活必須だったので、私は吹奏楽部に所属していたけれど、高校では帰宅部。

 明美はサッカー部のマネージャーをやることになったらしい。うん、似合ってる。

 運動神経がいいので、他の運動部からは惜しまれてはいたけれど所詮は進学校。

 そこまでみんな部活に情熱をかけていないので(一部の文化部は違うみたいだけど)、結局は諦めたらしい。


 ところで、どうして私は一人で痛い自分語りをしているかというと。

 たった今、牢屋にいるから。

 別に犯罪を起こして留置所にいるわけじゃないよ。

 今朝、普通に家を出て学校に向かっていたまでは、いつもの日常だったのに。

 それが、近道に神社の境内を通り抜けている時に事件は起こった。


 いきなり私の足元が光り始め、何かと下を見れば直径二メートルくらいの円陣が浮かび上がっていた。

 これはいわゆる魔法陣ってやつ? なんて呑気に思ったのは、小説を読みすぎていたせいだ。

 逃げろよ、私。

 その時、同じように近道をして登校しようとしていた明美が、私を見て駆け寄ってきた。

 助けてくれるんだ! と思った私はおめでたいやつだよね。


「りらだけにいい思いはさせないから!」


 そう言って、彼女は私の腕を掴み、一緒に魔法陣らしき円陣の中に吸い込まれたのだった。




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