第1話 運命の子
タイトルの鉄はテツではなく、クロガネとお読みください。
老人のポケットだと思われる場所に入れられた私は、暗い世界の中で我が身に降りかかった不幸を恨んでいた。
なぜ私を死なせてくれなかっのか・・・・・・?私は、何か使命を帯びて生き返ったのか?
そんな今冬無形な理由も無い、無駄な妄想でもしなければ自分が指輪になったなど信じられる訳がない。
そうこうしていると、老人の独り言が聞こえてきた。
「どうしてこんな物があんな場所にあったのかのぉ・・・あ奴は魔法の才が無かったようじゃし・・・少しでも才があったのなら、一瞬で異常な指輪ということが解るのにのぉ・・・・」
魔法?
この老人は確かに魔法と呟いた・・冗談だろ・・・・・?
そんな非科学的な物が存在する訳がない!
だが、魔法という概念があることを信じれば自分の状態を説明できる可能性が出てくる。
いやあり得ない、手から火や氷を出すなんて化学的じゃない・・第一、手から火を出そうものなら引火してしまうではないか!
老人のつぶやいた「魔法」という単語のせいで、さっきまで心の中を覆いつくしていた暗い感情が消えさってしまった。
そして新たに今の私には確認する事ができない疑問がくるくると頭の中を回り続け頭が痛くなってきた。
だが突然にその思考も終わる時が来た。
「なんて・・・なんて酷い状況じゃっ!旅の途中で魔獣に襲われたかのぉ・・・生きている物は、おらなそうじゃのぉ・・なんと、惨い。」
声から察するに、この老人はマジュウという生物に襲われて死んでいる旅の一団とであったとのだろうか?
にわかには信じ難い、人がそう簡単に死ぬなど。
だがこの世界は、魔法が存在しているかもしれないふざけた世界らしい。
これがもしかしたら普通なのか・・・?
「い、生きとる!!まだこの赤子は生きておる!!じゃが・・・傷が酷い・・・・どうすればいいんじゃ!!ワシは回復の苦手なんじゃ・・・ワシには見殺しにするしかないのか・・・?そ、そうじゃ!この指輪があれば、この指輪があれば何とかできるかもしれん!」
ひとしきり叫び終わったと思ったら、ポケットの中の私を急に取り出した。
「この指輪を触媒にすれば、この子の肉体を再生できるっ!じゃが・・・精神に傷がつくやもしれん・・・いや、見殺しにするよりも助ける方が大切じゃっ!!!!神よっ!!ワシに、ワシにっ!!!この、この赤子を助ける力を、力を授け給えっっっ!!!!!!!!!!!」
そして指輪をぶかぶかな左人差し指に指して何かを唱え始めた。
私は、急展開過ぎて頭がついてこない!!!
なぜ、私を赤ん坊の指にはめているのか?
だがその理由を探ろうとも、老人の方は眉間にしわを寄せて何かブツブツと呟くだけだった。
しかし、急に目を見開いたと思うと私に変化が起き始めた。
私の周りに光の輪漂い始めた。
それは、私を包み込みそして自分の形が変化していくのを感じ始めた、まるで赤ん坊の指にはまる様に小さくなっていくような・・・・・?
それから段々と心地良い眠気が私の襲った。
起きようとしても、どうしても目を覚ますことが出来なかった・・・・・・・
意識が途切れる寸前に聞こえた言葉は、すまない・・・こんな方法でしか救えんワシを許してくれぃ・・・・、という老人の自分のふがいなさを悔やむ声だった・・・・・・・・・
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ワシの心の中は今、後悔や自責の念であふれかえっていた。
当然だ、これからの未来をになっていく命を救うという名目で、救えるという理由だけでこの指輪を使ってしまったのだ。
この魔法道具は異常だ。
大抵の魔法道具は、自ら魔力を纏う事はめったにない。
それこそ百、いや千年そこらの年月をえてようやく魔法道具は自ら纏い始める。
しかし、これはまだ完成したばかりの物だと一目瞭然に分かるほど奇麗なものだ。
だから異常なのだ、異常すぎるのだ。
そんな物が魔力を纏うことは絶対に有り得ない、だが有り得てしまった。
だからこそ、この指輪を見たときは何処かに隠す事を考えた、考えたはずなのにこれを使えば小さい命を助けられることに気がついてしまった。
だが助けなかった方がこの子のためであった。
確実にこの子未来に平穏は訪れない、命を救うのに使ったこの指輪はもうこの子の体の一部になってしまった。
それが意味するものは、この力を求める奴が確実に現れることを意味する。
だからせめて、悪しきもの達に気づかれないように育てるしかない。
しかしワシの手元に置いて育てる事は出来ない、ワシはこの世界の事を知りすぎている。
いつか絶対にこの力を求めてしまう時が来てしまう。
それでは本末転倒だっ!!!
そこでワシは思い出す、子供を欲していた俗世を離れて暮らしていた夫婦がいたことを。
人は、昔宿が見当たらず困っていたワシを快く泊めてくれた者たちであった。
その二あのもの達なら信頼できる。
悪いとは思う、しかし自分の中ではこれ以上の答えが見つからない。
今のワシには彼らに託すしかない、どうかこの子を人目につかずその一生を終わらせてくれることを・・・・・
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ドアを叩く音が聞こえる。
何事かと思い扉を開く。
まあ、多分こんな森の奥にある家にくるものなど、泊まるところがないため泊めてほしいと言う人だと思いながら扉を開いた。
「どなたですかぁ、こんな夜更けに?」
「済まないのぉ、ワシは昔ここに泊めて貰ったものなんじゃが・・・・」
やっぱりだ、この爺さんは昔泊まったからまた泊めてほしいという人なだろう。
子供ができない俺たち夫婦は、たまに来るこんな人々の話を聞くのが大好きなのだ。
快く向かい入れてあげなければ。
「えぇ、どうぞお泊り下さって結構ですよ。」
「いや、違うんじゃ・・。」
違う?ではなぜこの爺さんはわざわざこんな森の奥まで来たのだろうか?
呆けた顔をしていると、向こうから話しかけてきた。
「じつはの、この子を育ててほしんじゃ・・お前さん達、子供が欲しいと言っておっただろう?」
「えっ!?」
そう言われて初めて、彼が赤ん坊を抱いている事に気がついた。
先程まで思っていた疑問ははじけ飛びまた新たな疑問が心を支配した。
もしかしたら、この子供は盗んだ子供なのかもしれない。
だが自分たちが子供が欲しいのは事実だ。
この機会を逃したら、もう二度と自分達の望みが叶わないという謎の確信がある。
どう言えば正解なのかが分からないと最後の一押しの言葉が聞こえてきた。
「この子は、実は・・・実はのぉ魔獣に襲われて死んでいたもの達の中で唯一救うことのできた赤子なんじゃ・・・」
「そ、そんな・・・!かわいそうに・・・・・。いいでしょう、この子の本当の親のつもりでそだてましょう!俺に、お任せください。」
「おぉ、引き受けてくれると信じておったぞ。あぁ、後この子を救うとき使った魔法道具の後遺症で指輪が外れなくなってしまってのぉ、それで右眼の色も変色してしまったようじゃ。じゃが安心せい、精神に異常はないぞ。それでは、ワシは急いでおるからのくれぐれもその子をまかせたぞ。」
「ちょ、ちょと最後に何てことを言っていなくなるんですか!ま、待って待ってくださいって!」
そう呼び止めるも、爺さんはサッサと何処かに行ってしまった。
「ねぇ、あなたどうしたの?泊めてほしいお方では無いの?」
妻がそう呼びかけてくる。
面倒な事になったと感じながら、なぜか俺の心の中は幸せに満ちていた。
驚くであろう妻も、きっと自分もどんな子供であろうと自分の本当の子供のように受け入れることができるだろうという確信と共に、俺は赤ん坊と一緒に部屋の中へと戻っていくのだった。