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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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98話 単純で純真な転移者

「新鮮組、秘奥義っ! 【マグロの中落ち】っ!」

「あまいっ!」


 マグロ人のマグが放ちかけた秘奥義とやらを、グレイスが弾き返す。

 グレイスのブロードソードとマグのからくりソードが激突して甲高い音を鳴らす。


 くそ……ちょっと見たかったな、秘奥義。【マグロの中落ち】って、どんな技なんだよ?


「ふむ。厄介だな」


 マグと刀を合わせたグレイスの表情が曇る。


「まるで生きているようだ、あの刀……」


 からくりソードと呼ばれる、新鮮組の持つ刀。

 やはりただの刀ではないようだ。


「おい、上家! あのからくりソードっての、一体どんな代物なんだ?」

「敵に教えるわけねぇだろうが!」

「お前、まだそんなことを……」


 エルセの命が危ない(俺の虚言)とかいう時は結構協力的だったのに。


「ジョーカー! 待ってろ、今すぐ助けてやるからな!」

「ウセロさん! やっぱり頼りになるぜ、リーダーは!」

「がっはっはっ! やめろよボス! 照れんじゃねぇか!」

「ぃよっ! リーダー!」

「なんのなんの、ボスッ!」

「お前ら、どっちが上なんだよ……」


 ウセロは上家を騙すために、「自分がチームのリーダーだ」と名乗り、また同時に、部下や世間を騙すために「ジョーカーがボスだ」と言っているのだろう。

 勘だけど、まぁ、おそらくそんなところだ。


「それから、新鮮組の組長、チーフ、オーナー、班長、番長、頭取、プロデューサーも、来てくれてありがとうな!」

「役職大好きなだけか!?」


 新鮮組のプロデューサーってなんだ!? 頭取とかもおかしいよね!?


「コーシさん。なんとなく、雰囲気的にわたしたちが悪者で、正義のウセロさんが囚われた上家さんを助けに来た、みたいな構図になってますよね?」

「不本意ながら、そう見えるだろうな」

「けれど、顔は明らかに向こうの方が悪人だと思うのだけれど?」

「なんだと、女!? フレンチブルドッグ、可愛いやろがぃっ!」


 フレンチブルドッグなの、あいつ……「可愛いやろがぃ」って……


「いいか、犬好きに悪人はいないんだぞ? なら、犬に悪人がいるわけねぇだろうが!」


 あぁ……これが騙されまくる人の思考回路なのか。

 なんだその理論……


「『煉獄の紅』なのじゃっ!」


 部屋の隅で火柱が上がる。というか、津波のように炎が生み出され壁や天井を焼いていく。

 何かしらの結界が張られているらしいこの部屋は、どんな魔法を使用しても壁や天井が焼け焦げることはない。だが、人間があんなものをまともに食らえばひとたまりもないだろう。


「……むぅ。ダメなのじゃ」


 床を蹴り後方へと飛び退くニコ。

 うねるような炎の中から、エビとチョーが、平然とした顔で現れる。

 ノーダメージ。

 なんなんだ、あいつら……


「どうなってるんでしょうか、コーシさん……」

「おそらく、上家の渡したアイテムの力なんだろうな」

「凄いですね…………かたくりソード」

「切った物にとろみ付きそうだな、その剣!?」


 からくりだ、からくり!


「くっ! なんともやり難い!」


 グレイスが険しい表情を浮かべる。


「うむ……どうにもちぐはぐしておるのじゃ」


 同じく、ニコも魔法を放ちながら眉根を寄せる。


 現在、グレイスがマグ、イソ、ボンを、ニコがゲソ、チョー、エビを相手に戦っている。

 少し離れた場所に立つウセロの傍らにはワッシーが控えている。護衛なのだろう。


 三対一とはいえ、グレイスやニコが手こずるなんて……


「ウセロの部下にしては手強過ぎる気がするわね」

「あぁ……おそらく、ほとんどがからくりソードの力なんだろうが……」


 決して押されてはいない。

 むしろ、グレイスとニコの方が優勢だと言える。

 新鮮組は、その場に足止めされグレイスやニコに攻撃を仕掛けることは出来ておらず防戦一方だ。

 だが、グレイスもニコも、決定打を打てずにいる様子だった。


 くそ……からくりソードの性能さえ分かれば、手の打ちようがあるかもしれないのに。


 部屋の中央ではグレイスとニコが新鮮組と戦っている。

 部屋の向こうにウセロとワッシーがいて、俺たちはウセロたちから対角線上の部屋の隅に固まって立っている。上家を囲むようにして。

 上家をウセロに渡してはいけない。引き渡せば、上家はまた騙されて厄介なアイテムを生み出してしまうだろう。


 もし、そのアイテムが盗賊稼業に利用され、人々を苦しめる一助をしていると知ったら……こいつは自分を責めるかもしれない。

 もう、上家に危険なアイテムは作らせてはいけない。


 そのためにも、新鮮組とウセロを倒さなければ……


 トン……と、俺の腕にスティナがヒジを当てる。

 見ると、スティナは視線だけをこちらに向けていた。


 その目は、「力を貸せ」と言っているように見えた。

 何を仕掛けるつもりだ?


「けれど、ラッキーだったわね」


 唐突に発せられたスティナの明るい声にエルセと上家の意識がそちらに向く。

 それに気付かないフリをしてスティナは続ける。


「グレイスもニコも、戦いに頭を使い過ぎるから、あのからくりソードの性能が分からないのは好都合だわ」


 前もって合図をもらった俺だけが気付けた、スティナの演技。

 聞かれていることに気付かずに味方の内情を「うっかり」口にしてしまった風の会話に、俺もさり気なく参加する。ワザとらしくならないように気を付けつつ……


「そうだな。性能をバラされていたら、それの対策って方にばかり思考が向いて、戦闘に集中出来なかったろうな」

「無心で戦えば無敵だもの、あの二人は」

「この勝負、もらったな」


 そこで、俺とスティナはバレないように上家の表情を窺う。

 …………あぁ、悩んでる悩んでる。「あれ? もしかして性能をバラした方が有利になるんじゃないか?」とか、真剣に考えちゃってるな。


 よし、ここでもうひと押しだ。


「まぁ、そういうわけだから、上家……」


 振り返り、俺とスティナは息の合ったコンビネーションでこう言った。


「言うなよ?」

「絶対に言ってはダメよ?」

「誰がテメェらの言うことなんか聞くかよっ!」


 かかったぁ!?


 なんつう単純な……いや、純真というべきか…………


「……コーシ」


 もう一度、俺の腕にヒジを当て、他のヤツに聞こえない声量でスティナが俺に言う。


「エルセの見込んだ転移者って、お人好しというよりか……ただのバカばかりなんじゃないかしら?」

「その転移者の中に俺も含まれるから、絶対認めない」



 だが、強く否定も出来ないのが悔しい……







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