74話 いざ!
盗賊団『闇の組織』は、西門を出て墓地を超えた先にアジトを構えているらしい。
「詳しい場所までは特定出来ていないのだが……」
苦々しい表情でグレイスが言う。
ちなみに、ドレスは脱がせた。
今は、普段の軽装だ。
「しかし、ギルド長自らが動くような案件なんだな」
「うむ。盗賊団のボスが、少々厄介な男でな」
「ジョーカー……ってヤツだな」
「あぁ。何者なのかは不明なのだが、とにかく厄介な力を持っているのだ」
厄介な力……
グレイスがそう言うのだから、それはきっと相当に厄介なものなのだろう。
「ジョーカーは、特殊な能力で奇妙なアイテムを数々生み出しているのだ」
「生産系のスキルってことか?」
カチヤと同じような能力だろうか。
しかし、奇妙なアイテムとは…………あっ。
思い当たる節がある。
ウセロが持っていたデカい箱。
あれの中には何体もの魔獣が入っていた。明らかに体積を超えた物量を収納していた。
いや、というよりも、あの箱を通して別の場所から召喚していた――という方が正解な気がする。
エルセがあの箱を打ち抜いた時、中から魔獣が溢れてくることはなかった。もしあの中に魔獣がいたのなら、穴があいたら出てきてしまったはずだ。
つまりアレは、どこでもドア的な、空間と空間を繋ぐアイテムだったのだ。……と、考えることが出来る。
「コーシさん……」
こそっと、エルセが耳打ちをしてくる。
「なんだか、そのジョーカーって人……キテレツ君みたいですね」
俺の想像していたキャラと微妙に近しい別人を挙げてきたな。世代が違うのかな? まぁ、アイテムを作るって言えばそっちか。
「とにかく謎の多い男でな。いつ生まれたのか、どこで育ったのか、どうやってそんな力を得たのか……すべてが謎なのだ」
謎に包まれた男……
「唯一分かっていることといえば……タマゴサンドが大好きということくらい!」
「そこ、謎のままでよかったわ、別に!」
なんでその情報だけ漏れた?
手下がうっかり口でも滑らしたのか?
「話を聞く限り、ジョーカーの職業は『魔技師』ということで間違いなさそうね」
「それが、そうとも断言出来ないのだ」
「何か、腑に落ちんことでもあるのじゃ?」
煮え切らないような表情で、グレイスが唸り声を上げる。
「ワタシたちも、最初は魔技師だと思い込んでいたのだが……」
グレイスの話によれば、過去に一度、ジョーカー討伐隊を派遣したことがあるのだという。
アジトを包囲し、突撃しようとしたところ……
「ジョーカーは、人間業とは思えない動きで反撃をしてきたのだ。奇妙な技を幾重にも重ねて……魔技師だと思い込んでいた討伐隊はあっけなく返り討ちに遭い、撤退を余儀なくされた」
冒険者ギルドの精鋭たちが、一人の人間に敗北を喫した。
それはギルドやこの街に大きな衝撃を与え、以来、『闇の組織』はアンタッチャブルな存在とされてきたらしい。
「アジトを変えられて、それを探すのにまた時間がかかってしまった。最近になってようやく見つけ出せたのだ」
それで、今度はグレイス自らが乗り込んでやろうとしているのだそうだ。
……ギルドの精鋭で結成された討伐隊より、グレイス一人の方が強いって認識でいいのかな、この場合?
「人数が多いと、不測の事態に対応しきれないことがあるからな。ワタシ一人の方が安全である場合もあるのだ」
凄い自信だ。
けれど、人数が多いといざという時に統率をとったりするのは確かに困難だろう。
その士気の乱れに付け込まれ全滅……なんてこともないとは言えない。
相手が得体の知れない強者なら尚のこと。
しかし、そんなヤツのアジトに一人で乗り込むなんて無謀にもほどがある。
アジトにいるのはジョーカーだけではないのだ。手下もわんさかいる。
ウセロ程度のヤツが数人なら、グレイス一人で対処出来るだろうが、ケルベロスが数十匹とかになると話は変わるだろう。
数のアドバンテージというのは、そうやすやすとは覆せないものなのだ。
一騎当千とは、なかなかいかない。
「俺たちも一緒に行くよ」
大人数で行かないまでも、仲間はいた方が、きっといい。
俺たちなら、少しくらいは役に立てるかもしれない。
「気持ちは嬉しいがな、コーシよ」
しかし、グレイスは浮かない表情だ。
「『闇の組織』は危険な連中なのだ。ニコラコプールールークラスの魔法使いならともかく、そなたたちには危険過ぎる」
ハッキリと、「足手まといだ」と言われてしまった。
それはそうなのかもしれない。俺やエルセは、先日冒険者になったばかりだし、スティナはイスメーネ学院を卒業したばかりの見習い巫女だ。
だが。
「諦めるのね、グレイス」
俺が反論するよりも早く、スティナが呆れ顔でグレイスに話しかける。
「コーシは、困っている女の子を放ってはおけないのよ。相手が自分よりはるかに強かろうが、敵がどれほど危険だろうが……ね、そうなのでしょう?」
呆れ交じりの笑みが、俺の方へ向けられる。
……あぁ。まったく、困った性分なんだが。
「その通りだ」
「ですよねぇ。わたしも分かってましたよ」
「まぁ、コーしゃまじゃからの」
エルセもニコも、そんな俺の性分を理解してくれているようだ。
「女の子…………って、ワタシがか?」
「あら? 男の子だったかしら?」
「グレイスさん、美人さんですから、上級の女の子ですよ」
「コーしゃまにかかれば、そうなるんじゃよ」
いや、まぁ……ただ単なる自己満足以外の何物でもないんだが……そうなんだよな、実際。
「手伝わせてくれねぇか?」
「コーシ……」
本当は「守らせてくれねぇか」と言えれば格好いいのだが。
そこまで強くないからな、俺は。
けど、そばにいるくらいなら。それで変わることだってきっとあるはずだ。
……足手まといになる可能性も十二分にあるけどな。
「ふふ……初めてだよ、ワタシにそんなことを言ったヤツは……」
グレイスが肩を震わせくつくつと笑う。
「一層、婿に欲しくなったぞ、コーシ! いや、嫁に行きたくなった!」
その違いがよく分からんが、グレイスの中では何か大きな違いがあるのだろう。
「では、そなたらに依頼する!」
グレイスが俺たち全員に向かって明朗な声で言う。
「盗賊団『闇の組織』の壊滅作戦に協力してくれ!」
「「「「おぉー!」」」」




