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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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48話 エルセの名案

 外はすっかり夜だった。


「これに懲りたのなら、コーシはもう少し賢く生きることね」


 隣を歩くスティナに言われる。

 反論の余地もない。

 今回は、みんなのおかげで助かった。金も戻ってきたし。

 とにかく、反省しなきゃな。


「そんなわけで、これからは私の介護に尽力なさい」

「ごめん。俺、これからはもう少し賢く生きる予定だから」


 全力のスネ齧りをさらりと無視する。


「……コーシのスネ(コンソメ味)」

「ねぇから、そんな味! 齧んじゃねぇぞ!」


 少しだけ、スティナから距離を取る。

 と、腕に「ぎゅっ!」っと抱きついてくる感触があった。ニコだ。


「もう気にしなくていいのじゃ。済んだことなのじゃ」


 俺を励まそうと、にこにこと可愛らしい笑顔を振り撒く。

『済んだこと』というより、『済んだことにしてもらったこと』って感じだけどな。

 こいつらがいなきゃ、泣き寝入りしていたところだ。


「さぁ、ウチに帰って夕飯なのじゃ! 今日は腕によりをかけて美味しい物を作るのじゃ☆」


 ニコ曰く、魔獣討伐の祝勝会らしい。

 そういや、今日の出来事だったっけな、もふら討伐。

 なんか、その後が濃過ぎて忘れかけてたよ。


 ニコの家に着き、各々が自分の部屋へと戻っていく。

 ニコの好意により、俺たちはそれぞれ個室をもらっているのだ。

「長く一人住まいじゃったから賑やかになって嬉しいのじゃ」と、ニコは言っていた。


 そういうことにしておいてくれているのか、それが本心なのかは分からないが、ありがたい話だ。


「けどまぁ……ホント、気を付けないとな」


 一人になると、途端に独り言が零れていった。


「何が大切で、何を優先させるべきか。……しっかり考えろよ、俺」


 壁にかけられた鏡に向かって言う。

 鏡の中では、頼りのないヘタレ顔をさらした俺が苦笑を漏らしている。

 ……ダメだな、こいつ。


「ふふ……変な顔」


 なんだかバカバカしい顔過ぎて笑えてしまった。

 ふと視線を感じてそちらへ目をやると……ドアの隙間からエルセが室内を覗き込んでいた。


「ぅおおぅ!? ビックリしたっ!?」

「コーシさん、自分で娯楽を生み出せていいですね。わたしも、何度見ても飽きの来ない面白い顔に生まれればよかったです」

「誰が飽きの来ない面白い顔か!?」

「自分で見て自分で笑えるなんて、お得ですよ。自家発電みたいなもんです」

「う、うっさいわ! 今のは、その……いろいろあった結果だよ」


 いつも自分の顔を見て笑ったりなんかするか。


「それで、何しに来たんだよ? 何か用か?」

「らぐなろフォンの充……コーシさんの様子が気になって」

「充電しに来たんだな? もういいから貸せよ」


 取り繕うの、下手だなぁ……


 けど、今日は迷惑をかけたし……充電くらいしてやるさ。いつもより多めにな。


「じゃあ乗っけますね」


 俺はベッドに腰かけ、背筋をピンと伸ばした。

 どうもらぐなろフォンの充電は頭頂部に乗っけるのがもっとも効率がいいらしいのだ。まぁ、エルセの所感だけどな。


「コーシさんって、頭にものを載せて動いても落とさないですよね」

「慣れだな」


 今ならたぶん、辞書とか載せてモデル歩きしても落とさないと思う。


「あ、でも。様子が気になったのも本当なんですよ」


 言いながら、エルセは俺の隣へと腰掛ける。…………近くね?

 ベッドに並んで座る。

 そして、俺の顔をジッと見つめてくる。


 えぇい、あんまり見るな。……照れる。


「コーシさんは、コーシさんのままでいてくださいね?」

「は?」


 不意にもたらされた言葉に戸惑ってしまう。

 俺は今回のことを反省して、今まさに変わらなければと思っていたところなのに。


「コーシさんって、いっつも誰かのために行動してるじゃないですか」

「ふ、振り回されてるだけだろう」

「いやいや。コーシさんは自分から首を突っ込んでますって」


 く……。それが嫌で自己嫌悪してんだって。


「凄いって思うんです。そういうの」


 それは、決してからかう風ではなく、もっと純粋に、どこまでも素直に、心の奥底から発せられた言葉のような気がして……妙にくすぐったかった。


「ほら、わたしって、……結構、自分勝手じゃないですか。なんていうか、自分さえよかったら割と他はどうでもいいや~……みたいな?」


 恥ずかしそうに、頬を染めて指をもじもじさせて……その苦笑いは反省の表れなのか?


「よく分かんなかったんですよね、誰かのために生きるっていうのが……人助けをするための職業に就いているのに……ピンと来ないというか、どこか他人事みたいな」


 異世界間を行き来して、困っている世界へ救世主を送り込む天界の派遣業者の営業。

 そんな身でありながら、エルセは相手の立場になって物を考えたことがなかった……と、今反省しているのかもしれない。


「まぁ、正直なところ。今でもあんまりよく分かんないんですけど……」


 えへへ、と頭をかく。

 その仕草はなんともエルセらしくて、少し笑ってしまった。


「だから、コーシさん凄いって思います。今のままでいてほしいなって、思ったんですよね、わたし」


 誰かのために生きている……エルセはそう言ってくれた。

 けれど、俺がやっているのはそんな高尚なことではない。もっと利己的な、例えばそれは『他人に嫌われたくない』だとか、『自分の中でモヤモヤするから』だとか、そういう卑しい感情から来るもので……決して褒められるものではない。はずだ。


 なのにそれを、エルセは『凄い』と言ってくれた。『今のままでいい』と、言ってくれた。

 それだけで、なんだか……救われた気がした。


「でも……それで苦労を背負い込むのが俺一人ならいいんだけど……今回みたいにお前たちにまで迷惑かけちまったら……」

「いいんですいいんです」


 あっけらかんと、俺がずっと抱え込んで、背負い込んで、溜め込んできた自分の劣等感を肯定してくれる。


「わたしきっと、これからも他人のために生きるとか出来そうもないんで。……そんなんじゃマイナスポイント、いつまでたっても返上出来ないんで……」


 自分の性格を反省し肩を落とす。

 けれど、またすぐに顔を上げ、表情を明るくする。


「だからわたし、これからはコーシさんのために生きます!」

「はぁっ!?」


 キラキラと、純粋な、穢れを知らない少女のような瞳で俺を見つめ、薄く染まった頬を持ち上げて微笑むエルセ。

 その表情から読み取れるのは、意気込みや決意。

 小学校入学を控えた子供が見せるような、期待と不安の入り混じった、楽しげな顔。


「コーシさんのために何かするのは、全然苦じゃないなって、今回思ったんです」

「あんなに、振り回されたのに……か?」

「はい! きっとみなさんも同じだと思いますよ。仕返しの計画練ってる時、凄くいい表情してましたもん」


 ……それはそれで、ちょっと怖いもんがあるんだけどな。


「だから、コーシさんは今のまま、誰から構わず親切にして苦労を背負い込んでください」

「いや、お前。それは……」

「そんな苦労を背負い込んだコーシさんを、わたしが助けてあげます」


 とてもいいことを思いついたとでも言いたげな、そんな顔でエルセは言う。


「そうすれば、わたしも他人のために努力してるってことになりますよね? マイナスポイントだって、すぐに返上出来ちゃいますよ、きっと!」


 これ以上もないほどの会心の笑みで。


 ……こいつは、やっぱりどこかズレている。

 けれど、そのズレが、なんともエルセらしくて、また、笑ってしまった。


「なんで笑うんですか? 名案ですよね? わたし、コーシさんのためなら結構なんでも出来そうな気がするんです。コーシさんにだけ優しくしていれば、ついでにいろんな人の助けになるんですよ? 名案じゃないですか?」


 そんなおかしな理論が、なんだか、……嬉しかった。


 俺は、お前が凄いと思うよ。

 お前ほど、自分を疑わない人間はそうそういない。

 なかなか出来ることじゃない。


 俺の方が、お前を少し見習わなきゃいけないかもな。


「それじゃ、これからもよろしく頼むな」

「はい。頼まれます!」


 そして、そうやって全力で笑えるところも、お前の長所だよ。


「……で、あの。出来たら充電しながらチマチマしたんですけど……コーシさんって、USB挿すところないですかね?」

「あるかっ!?」


 この自由過ぎる思考回路は、ちょっと考えもんだけどな!

 ……くそ。それでこんなに近くに座りやがったのか…………紛らわしいっ!

 勘違いしちゃったじゃねぇかよ、ふん!



 ……くっそ。顔が熱いわ、チキショウめ。






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