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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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35話 女子力アップの秘訣

「クエストの前に、この毒袋の魔力を取り込みたいのじゃ」


 報酬が決まったところで、ニコがそんなことを言い出した。

 この毒袋があればニコの魔力が枯渇する速度が緩和される。……その結果、俺たちはもふらの食費を捻出するために至急クエストにかからなければいけなくなったわけだが……そのためにはニコの魔力が枯渇しにくくなるのはありがたい。


 というわけで、サクッと取り込んでもらおう。


「どうやって取り込むんだ?」

「食べるのじゃ」


 そういえば、魔獣の肝に醤油を一差しして食べるとか言ってたっけな。


「グレイスよ、醤油はあるかのぅ?」


 と、俺をチラチラ見ながらニコが言う。

 いや、だから、その醤油一差し分の羞恥心ってなんなの?


「ギルド長室に醤油などあるわけがないだろう」

「そうじゃよなぁ……チラ」


 いやいや。いいから早く取り込んでくれって。

 つか、それ本当に食えるのか?

 毒の塊だよな? っていうか、毒なんだよな?


「なぁ、ニコ。それって食べて問題ないのか?」

「食べると言っても、本当に食べるのではなくて魔力に変換して口から取り込むだけじゃから、毒でも、あり得ないくらい巨大な物でも問題ないのじゃ」


 なるほど。

 ……って、ことは。


「醤油も必要ないんじゃないのか?」

「そ、それはそうなんじゃけど……生のまま食べるのはワイルド過ぎて、女子的に恥ずかしいのじゃっ。もう、コーしゃま、ちょっとデリカシーなさ過ぎるのじゃ!」


 ニコが赤い顔をしてぽかぽかと俺を叩く。

 ……毒入りの袋を丸のみする以上にワイルドなこともそうそうないだろうに。醤油一差しでそれが可愛らしくなるものか。


「じゃけど、ないものはしょうがないのじゃ……ふ、不本意ながら、このまま取り込むのじゃ。いつもはもっとちゃんとお料理して可愛らしく盛り付けて食べるのじゃ! 今日だけ、たまたまじゃ!」


 分かった分かった。

 ニコは可愛いから。だからさっさと食っちゃいなさい。


「では、いただくのじゃ……あ~ん」

「待ちなさい、ニコ!」


 毒袋を食べようとしたニコを、スティナが止める。


「あなた、本当にそれでいいの?」

「け、けど……仕方ないのじゃ……」

「ならあなたは、おケツの穴が辛抱ならないほど痒かったら『仕方ない』の一言で女子力をかなぐり捨てて全力で掻くの!?」


 最低の例えだな、スティナ!?


「か、掻かないのじゃっ! 痒くないのじゃ!」

「それと一緒よ!」


 いいや、絶対違う。


「女子ならば、些細なところも妥協などせず、いつでも完璧に『可愛い自分』を演出し続けなさい!」


 ――と、ソファにぐでぇ~っと横になった女子力が2程度しかないスティナが熱弁を振るう。

 この部屋、鏡とかないかなぁ? なるべく大きいヤツ。全身見られるように。


「か、可愛い自分…………ワシ、コーしゃまの前では常に可愛くいたいのじゃ!」

「だったら、今その毒袋を取り込んではダメよ!」

「うんっ! ワシ、可愛い自分でいるために頑張るのじゃ!」


 ――と、時間経過によってしわしわになり始めたニコが力説している。……急げ急げ! 可愛いままでいたいなら!


「じゃが、ここには醤油はないそうじゃし……」

「ねぇ、ギルド長さん?」

「なんだ?」


 エジプトの王妃かと言わんばかりの気だるげな寝姿のままスティナがグレイスに言う。

 ……よくつまみ出されないな、お前。


「ポン酢はあるかしら?」

「あるわけねぇだろ!?」


 醤油がなくて、なんでポン酢があるんだよ!?」


「それならばあるぞ」

「あるのかよ!?」

「ポン酢派なのだ、ワタシは」

「どこと争ってるんだ、その派閥!?」


 グレイスが壁の棚から小瓶を持ってくる。うわぁ……本当にあったよ、ポン酢。


「出来れば、柚子などがあればいいのだけれど」

「だから、冒険者ギルドのギルド長室に柚子なんか……」

「あるぞ」

「なんでもありか!?」

「ワタシは柚子派として、すだち派と争っている最中なのだ!」

「引き分けでいいだろ、そんなもん!」


 どっちも料理の味を引き立てるし、適材適所で頑張れよ!


「それで、ポン酢と柚子をどうするつもりなのだ?」

「ふん……愚問ね。混ぜるのよっ!」


 お前は、どうしても柚子ぽんが食べてみたかったのか?


「なっ……そ、そなたは、て、天才かっ!?」


 だから、そういう現代知識チートとかいらないから!


「さぁ、ニコ! これが、女子力の源、柚子ぽんよ!」


 俺の知ってる柚子ぽんには女子力の欠片もないはずなのだが。


「こ、これを使って、魔獣の毒袋を食べれば……女子力が、上がるのじゃ?」

「上がるわ! 間違いなく! だって、柚子ぽんだもの!」


 どこから来るんだ、その自信。


「コーしゃまも、そういう女子がす……好き、なのじゃ? …………きゃっ」


 しわしわの手でしわしわの顔を隠す。

 頬が赤く染まって、火のついた薪みたいに見える。早く食っちゃえよ。


『俺、柚子ぽんで魔獣の毒袋食べる女の子が好きなんだ!』……ってヤツがいたら、まぁ、病院を勧めるよな、俺は。

 しかし、今は一秒でも早くニコに魔力を取り込んでもらいたい。

 なので、俺は……修羅の道を行く!


「俺、柚子ぽんで魔獣の毒袋食べる女の子が好きなんだ!」

「コーしゃまっ!?(きゅん!)」

「私の言った通りでしょ!(ドヤァ!)」

「う~っわ……ないっすわぁ……(ドン引き)」


 うん。エルセ。たぶんお前の反応が一番まともなんだけどな……ムカつくなぁ、お前。


「それじゃ、食べるのじゃっ!」


 完成した柚子ぽんを、魔獣の毒袋に一差しして、ニコがそれを一口で飲み込む。



「ぞるんっ!」



 正直……女子力云々なんて次元じゃなかった。……ちょっと、怖かった。あの光景。




 とにかく、これでニコの魔力が枯渇しにくくなったらしいので、俺たちは改めてクエストを受けることにした。






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