14話 大魔法使いニコラコプールールー
「こうやってひっついていることで、コーしゃまの魔力を分けてもらえるのじゃ」
シワシワだった頃とは打って変わって、スタッカートで跳ねるように話すニコことニコラコプールールー。
親戚の子供をヒザに抱いている気分だ。
「コーしゃまとの出会いは、まさに運命なのじゃっ☆」
そんな弾むような声で言われても……こっちは何ひとつ運命を感じてないんだが?
「ワシは超天才故に、魔法を極め過ぎてしもぅた。求め過ぎた者の末路は悲惨なものじゃ……」
ニコは常時大量の魔力を消費し続け、夕方には移動も困難な体になってしまう。
「この体質を改善するには、魔神の肝でも食べるほかないのじゃが……こんな体では、魔神どころかしびれスライムにも後れを取ってしまうじゃろう……」
ニコの沈んだ顔は、もう自分の人生を諦めてしまっていた――そんな感じのする表情だ。
だがその表情は、俺に向くと同時にパッと晴れやかになる。
「でも、コーしゃまがいれば、魔神とて敵ではないのじゃっ☆」
つまりこいつは、俺の魔力を利用して自分の面白体質を直したいと、そういうつもりらしい。
なんとも、軽んじられたもんだな、俺も。
「コーしゃま、ワシをパーティに入れてほしいのじゃっ! そして、魔力が無くなったら充魔させてほしいのじゃっ」
充魔って……そんな、充電みたいに。
俺を充電器扱いする気かよ。
「そんなにほいほい魔力を持っていかれて堪るかよ」
ただでさえ、俺のMPは『論外』なのだ。
他人に分け与えてやる余裕などない。
視線を外し、拒否の意を明確に示す。
「でも……昨日一晩中、エルセの『すまふぉ』を充魔してたのじゃ……」
「は?」
「……ズルいのじゃ」
「うん……ちょっと待ってくれな、ニコ。もう一回、詳しく聞かせてくれないか?」
引き攣った表情で席を立とうとするエルセの腕を掴み、逃がさないようにして、俺はその時の状況をニコに問い質す。
「コーしゃまが寝入った後、エルセが寝所に侵入して、コーしゃまのおでこに『すまふぉ』を載せていたのじゃ」
「へ~、お前そんなことしてたんだぁ」
……エルセ、ギルティ!
「ちちち、違うんです! やむにやまれない理由があったんです!」
ほっほ~ぅ。話してもらおうか?
「い、今、『チマチマ』のキャンペーンやってるんです!」
「ちまちま?」
「天界で大流行しているパズルゲームアプリで、可愛いキャラクターをちまちま消していくとポイントがもらえて、高得点を出すと期間限定のレアマスコットがもらぇぇええいいやぁぁあっ!?」
もらい泣きみたいな悲鳴を上げてエルセが悶絶する。
これぞ俺の新必殺技、アイアンクロー『極み』だ!
「違うんです、違うんですっ! この『チマチマ』は、天界のアイドル的大天使『聖・タミティル』様もやっているアプリで、ここで繋がっておけば幸運に恵まれるって噂されてぇぇええいいやぁぁあっ!?」
繋がっていたにもかかわらずマイナスポイント喰らって異世界に閉じ込められてんじゃねぇかっ! 眉唾もんだろ、そんなもん!
「せっ、『聖・タミティル』様ですよ!? 知りません? 知らなくても、なんだか素敵だなぁ、憧れるなぁって気品を感じません?」
なんも感じねぇな。
『聖・タミティル』に対する感想なんか「周富徳に名前の語感似てんなぁ」くらいのもんだよっ!
「すみません、もう黙って充電しません! ちゃんと許可取るようにします!」
涙ながらに謝罪するエルセ。
……まぁ、らぐなろフォンが使えた方が俺たちの旅は有利になるが…………えぇい、くそ。
「そんな、頻繁には勘弁してくれよ」
「は、はいっ!」
目尻に涙を溜めて嬉しそうに笑いやがる。
「それで、その…………『チマチマ』をやり過ぎまして……充電をお願いしてぇぇええいいやぁぁあっ!?」
「ご利用は、計画的に……な?」
「は、はい! 以後っ! 以後気を付けますのでっ!」
そんなアホの娘のしつけを、ニコはジッと見つめていた。
さぞ呆れ返っていることだろう……と、思ったのだが。
「やっぱり、コーしゃまは優しいのじゃ」
そんな、見当違いな感想を漏らす。
そして、今度はすがるような、必死な表情で俺に訴えかけてくる。
「お願いじゃ、コーしゃま! ワシをパーティに入れてなのじゃ! 迷惑はかけん! むしろ役に立つ! 炊事洗濯添い寝までなんだってするのじゃ!」
「うん、添い寝はいらん」
俺にはシワ萌えもロリ萌えも、そういった属性は付与されていないのだ。
「この通りなのじゃっ!」
と、ニコが再び俺の胸にしがみつき、『ダイナマイツッ!』な二つの膨らみをぎゅんむりと押しつけてくる。
お、おぉう!
「この通り」のやり方は違う気がするが、……これはこれで。
やばい。俺にはシワ萌えもロリ萌えも備わっていないが…………おっぱいは好きだぁ!
「……後生じゃ。ワシも、本当は……普通の女の子として人生を送りたいのじゃ……」
魔力の枯渇で、一度は人生を諦めたニコ。
魔法屋で隠居生活さながらの人生を送る覚悟をした少女も、本心では普通の女の子のように笑って走り回って、恋の一つでもしたいのだろう……
『困ってる女の子はみんな助けてやれ』
親父の言葉が、また脳裏に浮かぶ。
……分かったよ。
俺に出来ることなんかたかが知れてるだろうが……俺に出来ることなら、なんだってやってやろうじゃねぇか。
「分かったよ、ニコ。魔神はどうか分からんが、一緒にその体質を直す方法を探そう」
「コーしゃまっ! 嬉しいのじゃっ! ありがとなのじゃっ! やっぱり優しいのじゃっ☆」
ニコが大きな目に涙を溜めて破顔する。
大はしゃぎで俺にしがみつき、ぴょんぴょんと跳ねる。
こうしてみると、妹みたいで可愛いな。
「あぁ……コーシさんがおっぱいに陥落しました……」
「そうじゃねぇよ!?」
そういう一面もなくはなかったけども!?
大部分は親切心っつうか、俺の心情っつうか、そういうのだから!
ともあれ、俺たちのパーティに大魔法使いのニコラコプールールー――ニコが正式に加わった。