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119話 今日も、明日も、明後日も

 事情を聞いたニコとスティナは、なんとも対照的な反応を示した。


「コーしゃまにとって、一番幸せな選択をするべきなのじゃ。たとえ……そこにワシの……居場所がっ……なかっ……なかったと、しても……ワシは…………耐えるのじゃ……っ!」


 両目に涙を浮かべ、ぷるぷると震える手で俺の服をギュッと掴みながら、ニコは声を絞り出し、懸命に笑みを浮かべようとしている。

 ……全然耐えられてないが。

 それでもニコは俺の幸せを第一に考えてくれていたようだ。


「大丈夫だよ、ニコ。なんだかんだで、ここが俺の居場所みたいになっちまってるから。ニコに黙っていなくなったりはしねぇよ」

「コーしゃまっ!」


 腹に飛びつき、細い腕でむぎゅ~っとしがみついて、俺の腹にぐりぐり顔を押しつけてくる。

 なんて可愛らしい生き物なのだろう。……こうしている間も、ちょっとずつ魔力を吸い取られているっていうのが、ちょっと感動に水を差すけどな。

 俺の魔力、放出しっぱなしなんだな、相変わらず。


 一方のスティナは。


「言語道断ね。コーシがいなくなるなんて、考えたくもないわ」


 面と向かって、真っ向からのデレ宣言?


「コーシがいなくなったら、誰が私の食費を稼ぐというの!?」

「お前だよっ!」


 自分で稼げ、自分の食いぶちくらい!


 スティナに限ってデレるなんてことはないんだろうが……それでも。


「……もし、ある日突然コーシが私の前から姿を消したら……追いかけるわよ、私は、どこまでも。いつまでもね」


 そう言ったスティナの瞳は、珍しく真剣そのもので。


「覚悟することね」


 その後で見せた笑顔は、「あぁ、スティナはこうでなきゃな」と思わせるような、ほっとするような表情だった。

 スティナを見て安堵するなんて、いよいよ俺も末期かな。世話焼き王になんか、なりたくもないんだがな。


「大丈夫です!」


 一頻り会話が終わった後で、エルセが誇らしげに胸を張り、大きな声をで言う。


「コーシさんが日本に帰る時は、わたしの力が復活した時ですから、そうしたらみなさんも一緒に日本に連れて行ってあげますよ。観光に行きましょう!」

「うむ。それはいいのぅ! コーしゃまの故郷か……興味あるのじゃ」

「私は留守番しておくわ。家の外に出るのも億劫なのに、この世界の外だなんて……」

「でもですね、スティナさん。日本の池袋という場所には……ひそひそひそ……」

「行くわ! 必ず連れて行って頂戴!」

「お前、何吹き込んだ!?」

「乙女の秘密であり、乙女の嗜みです!」

「やっぱり乙女ロード関連の話かっ!?」


 エルセはちょいちょいそういう素質を垣間見せていたからな!

 やっぱり通ってやがったか!?


「諸事情により、日本に帰ってもわたしの部屋へは一歩も入れられませんけどもね!」

「怖くて入れねぇよ……」


 女の子の部屋には幻想を抱いていたんだよ、男ってのは……ぶち壊さないでくれよ、頼むから。


「それはそうと、エルセ」

「はい、なんですか?」


 太陽に向かって吠える警部みたいなポーズで立つスティナの、検察官もかくやという鋭い視線がエルセを射抜く。


「コーシと、何かあったのかしら」

「どきぃ!?」

「ごふっ!」


 突然の踏み込んだ問いに、エルセと俺は揃って噴き出した。

 な、なぜ、それを!?


「え、えぇえ、えぇええっと、いや、べべべべべ、別に、なにもももも、ありまりまりまり……まりせんですことよ!?」

「とにかく落ち着けエルセ! なんか知らんが自分で置いた地雷を自ら踏みに行くような行為はよすんだ!」


 口を開く度に自爆していくな、こいつは。


「なんじゃ? 何かあったのかの、コーしゃま?」

「いや、何かってほどのことではないんだが……」

「ウソね」


 ニコとスティナの視線が容赦なく俺に突き刺さる。

 俺、取調室で黙秘とか出来る気がしない。


 確固たる自信を滲ませるスティナは、確信を持ってエルセの胸元を指差す。


「さっきから、エルセが地味に新・風のブラジャーで偽乳を膨らませているもの! コーシの前で女子力を上げようなんて、今までのエルセならあり得なかったことだわ!」

「本当なのじゃ!? Fカップくらいに膨らんでおるのじゃ!?」

「な、なんでバラすんですか!?」


 見ると、本当に胸が膨らんでいた。

 ……お前、欲張り過ぎだろう。


「全然気付かなかった……」

「ワシもじゃ。新・風のブラジャー……侮りがたいのじゃ」

「私は、常に他人のおっぱいしか見ていないから、すぐ気が付いたわ」

「凄いけど、とりあえずこいつ、縛り上げといた方がいいんじゃないか?」


 家の中にSランクの危険人物がいる。


「誤魔化されないわよ、コーシ」


 スティナとニコが、俺の退路を断つように詰め寄ってくる。


「何があったのか、聞かせてもらうわ」

「聞かせてもらうのじゃ」


 壁際に追い詰められ、双方向から問い詰められる。

 というか、エルセ……お前だけなんで安全圏に避難してんだよ。


「だから、そんな大層なことじゃなくて……」


 とりあえず、言い逃れは出来ないだろうから、正直に話すことにする。


「お前らを残して一人で帰るなんて出来ないって話をしたら、喜んでくれたんだよ」


 まぁ、それ以上の感情に関しては、今は言葉を濁しておく。

 ……なんか、命の危険を感じるもので。


「そ、そうなんです! コーシさんともっと一緒にいられて嬉しいな~! って、それだけなんですよ!」


 追及の手を緩めない二人の間に立ち、エルセが緩衝材になってくれる。


「別に『えっ、それってわたしのこと好きだってことですよね、明らかに!』みたいなこと、言われてませんから!」


 あ、こいつ緩衝材じゃなくて、起爆剤だ。


「ほほぅ……」

「興味深い話なのじゃ」

「あれっ!? 心なしか、さっきよりも悪化した予感が!?」


 なぁエルセ。

 なんでお前はそう自爆行為が好きなんだ?

 口を開く度に……まったく。


「コーしゃま! 恋は正々堂々なのじゃ!」

「そうね。生涯の伴侶(介護要員)を手に入れるのは誰なのか、これからはっきりさせましょう」

「とりあえずスティナ、お前は脱落で」

「ふふん! 脱落してからが、しがみつきの本番よ!」

「しがみつく気満々だ!?」


 まぁ、こうまで明らかな好意を向けられるのは正直悪い気はしない……しないが……


「ほどほどに、お願いします」


 敬語で頭を下げた。

 なんつうか、俺にはもったいない環境過ぎて恐縮する。


「完全に納得出来たわけではないけれど……まぁいいわ。今は保留にしておいてあげる」

「そうじゃの。今は、それよりも深刻な問題があるからのぅ」


 なんとか収まってくれたようだが……深刻な問題?


「何かあったのか?」


 俺が上家のところへ行っている間に、何か問題でも起こったのだろうか?

 ニコとスティナは顔を見合わせ、そして深いため息を吐いた。


「驚かないで聞いてちょうだい、コーシ」

「実はの……」


 ごくり……と、喉が鳴る。


「……お金がないのじゃ」


 ん?


「明日の食事に困るレベルで、金欠なのよ」

「いやいや。10万Mbももらっただろう、各々にさ」

「それなんじゃが……エルセよ」

「は、はい?」


 ニコが一枚の紙を取り出し、俺たちに見せる。


「お主、もふらの小屋のリフォームを依頼したじゃろ?」

「はい! もふらがすぐに逃げ出すので、どどーんと10万Mbを注ぎこんで、小屋をグレードアップさせようと思ったんです!」

「えっ!?」


 思わず声が出た。


 そして、そんな俺の反応を予想していたかのように、ニコが苦笑を浮かべ、スティナが達観したような表情を浮かべる。


 え……ちょっと待て。

 もしかして……


「ニコ、スティナ……お前らも?」

「えっ、『も』って……まさか、みなさん…………」


 どうやらエルセも気が付いたらしい。


 あぁ、そういえば、もふらの脱走、みんな目撃してたもんなぁ……


「注ぎこんだのじゃ、もふらの小屋のリフォームに」

「大工から、軽40万Mbのリフォームを受諾した旨の書類が届いたわ。これは、相当豪華な小屋になりそうね」

「全員、全財産注ぎ込んじまったのかよ……」


 考えることはみんな同じだったってわけか。

 ……ははっ。なんというか、俺たちらしい。


「も~ぅ! みなさんどうして同じことしちゃうんですか!? わたしがお願いしたんですから、そこは空気を読んで、むしろ察してほしかったです!」

「エルセ……これを見てちょうだい」


 スティナが差し出した紙には、依頼主の名前が記されていて……


「あなたが一番最後に依頼したのよ」

「一番空気を察せられてないのじゃ」

「はぅっ!? あ、あの……み、みなさん、気が早いですよ!」


 見事な意見の横滑りだな、おい。


「あの……これって、キャンセル出来ないんでしょうか?」

「にこにこ顔で準備しておったからのぅ。まぁ、無理じゃろうな」

「諦めるしかないわね」

「うぅ……今回、一切活躍してないもふらが、一番贅沢してるなんて……」


 まぁ、そこは、自業自得というか、気を回し過ぎたというか……


「相談せずに勝手に決めた、全員に責任があるな」


 高い買い物なのだから、一言相談するべきだったのだ。

 もっとも、相談すれば全員がお金を出すと言い出してしまうだろうことは想像出来たし、俺はそういう「嫌でも断れない空気」みたいなのを醸しだしたくなかったんだよな。


 まぁ、「嫌でも」も何も、こいつらは全員、自分が全負担することを厭わないようなお人好し連中だったわけだけれども。


「うむ。全員に責任があるのじゃ」

「私の保護者はコーシだから、コーシは二倍の責任があるわね」

「誰が保護者だコノヤロウ」

「な、なら、その……コーしゃまはワシの伴侶(予定)じゃから……、その半分はワシの責任じゃ……きゃっ☆」

「ニコ。コーシは私の伴侶(永久介護者)よ」

「かっこの中身がおかしいだろ、おい」


 まったくこいつらは、いつもいつもアホなことばっかり言って……

 そんな「いつものこと」が、これから先もずっと続けばいいと思ってるあたり、俺も相当重症だ。


 こういう何気ない風景を見て確信する。


 やっぱ、俺の居場所はここなんだなって。

 こいつらと一緒にいるのが、俺の日常になっていたんだ。いつの間にか、すっかりと。


「みなさんお気楽過ぎますよ……お金がないとご飯も食べられないんですよ? どーするんですか、ぷんぷん!」

「見事な棚上げじゃのぅ、エルセ」

「さすがは、『もうバレたから元に戻しますよ』みたいな顔をしてさり気なくBカップをキープさせている女ね。図々しいわ」

「ちょーっと!? なんでバラすんですか!? コーシさん、気付いてなかったのに!」


 いや、気付いてたけどな。


 まぁ、こいつらが買い物下手なのは今に始まったことじゃないし。

 この問題の解決方法は、単純明快なアレしかないだろうし。


 俺は、きゃあきゃあと姦しい三人娘に向かって声をかける。



「んじゃあ、クエストでも片付けに行くか」


 三人の顔がこちらを向いて、一斉に晴れやかになる。


「うむ! 行くのじゃ!」

「引きこもるためには……しょうがないわね」


 そして。


「はい! いきましょう、コーシさん! みんなで一緒に!」



 結局、さほど休むこともなく、俺たちはニコの家を後にした。

 冒険者ギルドへ向かって。

 新しい冒険を求めるために。


「んじゃ、行くか! とりあえずは、明日の食費を稼ぐために!」

「はい! あ、らぐなろフォン充電してもらっていいですか? さっきちまちまやってたらバッテリーが……」

「アイアンクローッ!」

「ぅにゃぁぁああっ!?」



 いつもの風景を引き連れて――







ご高覧ありがとうございました。


論外魔力の魔法使い、完結です、

魔王とか全然出て来てもいませんでしたが、なんとなくキリがいいので、

とりあえずここで一区切りとさせていただきます。


『異世界詐欺師~』の二幕を始めましたので、そちらに注力させていただきます。


よくある(と言われている)、

冒険者ギルド

クエスト、

ステータス、

冒険者ランク、

その辺りを使えたので、嬉しかったです。


まぁ、テンプレ通りとはいきませんでしたけれども!



今作の目標は二つ!


・1500~2000文字以内で1話をまとめる。


・他の作品で「おっぱい」言い過ぎなのでおっぱいネタは出さない!



結果、

どちらも達成出来ず!


ちょいちょい2000文字オーバーで、

今回と前回は4000文字ですしね。


おっぱいの方も、

途中まで頑張ってたんですけど、スティナ登場からはもう、チラチラと垣間見えて……


おっぱいチラ見えでしたね! 


あとがきから本編におっぱいが感染していくのかと思っていたんですが、

あとがきがなくてもおっぱいは出ちゃうもんなんですね。


まぁ、『小説家になろう』様に投稿されている方の八割が

「そうそう! 出ちゃうよね、おっぱい!」と共感してくださるだろうと思います。


おっぱいは、出ちゃうんです!

(もう……あとがき書いたらすぐこれだ……)



とにかく楽しかったです。

お付き合いくださりありがとうございました!


またどこかでお会い出来ますことを切に願って――

宮地拓海

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