11話 魔法、さらに習得!
「まぁ、ガチャ初心者はそこで見てるといいですよ。プロの技を見せてあげますから」
非常に鼻につく言い方で、エルセが触れるだけで呪われそうな『お楽しみBOX』のレバーを握る。……そのまま呪われろ。手が離れなくなっちまえ。
そもそも、レバーを下げるだけの行為にプロの技も何もないだろうが。
「こういうのは気合いが大切なんです! はぁぁあ! 充電魔法、来いっ!」
「おぉいっ!」
攻撃魔法だよ、欲しいのは!
お前は、自分の欲望にしか興味ないのか!?
ガシャコンッ! ――と、音がして、取り出し口から一冊の魔導書が出てくる。
「おぉ! これは凄いのが出たのぅ!?」
「ですよね、おシワさん!」
「誰がおシワじゃ!?」
敬ってんのか貶してんのか分からん名称は、当然ババアの名前ではなく、エルセがババアに割と強めのパンチをもらっている。……あいつ、なんで余計なことしかしないんだろう?
エルセが引き当てた魔導書には『サンクチュアリー・ベール』と記されていた。
「で、これはどんな魔法なんだ?」
「こいつは、大切な物を守る魔法じゃ」
防御系か……だが、使えるかもしれんな。
「買ったばかりの本にこの魔法をかけておけば、汚れや日焼けからしっかりと守ってくれるのじゃ!」
「本!?」
なんだその、新刊の折れとか曲がりを気にする神経質なオタク向けな魔法!?
俺は新刊でもカバーいらないって断るタイプの人間だぞ?
こいつもまたハズレか……と、エルセを見ると。
「それは重宝しますねっ!?」
物凄く食いついてた。
……エルセってさぁ、課金ゲーム廃人だったり、コスプレーヤーだったり…………割とアキバ系の人だよね?
あぁ……それでヴァルハバラに行きたいのか?
えぇ……聖地なの、そこ?
「ちなみに、春画にでも魔法をかけておけば……どこでどんなプレイをしても、いつまでも綺麗なままじゃぞぃ!」
「うわぁ……コーシさん、変態」
「なんで俺だ!?」
「……引くわぁ…………」
一切発言していないのに、物凄く引かれてしまった。
つか、春画って…………
「え、なんですか? 『サンクチュアリー』の『ベール』に包まれて賢者タイム突入って? やかましいですよ」
「言ってないよね、そんなこと、一言も!?」
一方的に悪評が垂れ流されている。
「うわっ、なんかばっちぃ、この魔導書。あげます」
「いや、もらうけど! すっげぇ不愉快だからな、今!」
何が『ばっちぃ』だ!?
って! ばっちぃもん持つみたいな手つきで摘まむな!
「まったくぅ。コーシさんは本当にしょうがないですね。もう、これが最後ですよ?」
言いながら、エルセは冒険者カードをババアの持つ会計用石板に押し当てた。
シャリーン! ――と、支払い完了の音が鳴る。
「エルセ、お前……」
「コーシさんの魔法がないと、わたしも困りますからね」
そんなことを言って、優しい笑みをこちらに向ける。
……何も、言えなかった。
「なんですか、変な顔して。もう、やめてくださいよ。いいんですよ、感謝なんて。だって、その…………仲間じゃないですか。……あは、あはは! なんか恥ずかしいですね! あぁ、もう! 引いちゃいますよ、ラストガチャ! アタリが出ますよ~に!」
そして、勢いに任せてレバーを押し下げる。
ガシャコンッ! ――と、音がして、取り出し口から一冊の魔導書が出てくる。
あぁ…………エルセ。お前ってヤツは…………
「はいっ、コーシさん! プレゼントですっ!」
もともと可愛らしいつくりの顔に、にっこりと笑顔を浮かべるエルセ。
神が向ける慈悲の微笑よりも身近に感じられるそのあどけなさは純粋に可愛らしく、俺が今みたいな状況に置かれてさえいなければ、もしかしたら恋に落ちていたかもしれない……なんて思ってしまうくらいに輝いていた。
俺にジッと見つめられて少しはにかむエルセ。なんだ、照れているのか。
まったく、エルセは……
俺はエルセにゆっくりと近付いて、エルセの頭に手を伸ばし、そっと触れ…………力任せにアイアンクローをお見舞いする。
「ひぃたたたたたたたたたたたたっ!? なんでっ!? なんでですかっ!?」
「全財産使い切って、今日の宿どうすんだよ、お前はぁ!?」
エルセ、お前ってやっぱり……バカなんだな。アホの娘は揺るぎないんだな!?
もう忘れたの、この店に入る前に言ってたこと!?
この世界でフラグを立てると、必ず回収される。
そんなことを学んだ、とある日の夕暮れだった――