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113話 激痛の理由

 盗賊団『闇の組織』のアジトに潜入し、あれやこれやあって事件が無事解決した翌日。


「は~い、コーシさん。ごはんですよ~」


 俺は、介護されていた。


「す……すまないな……俺が、こんな体な……ばっかりに…………」

「それは言わない約束ですよ、おとっつぁん」

「誰が……おとっつぁんだ……っ!」


 全身激しい筋肉痛で、ツッコミ入れるのもしんどいんだから、余計なボケを挟み込むな。


「大丈夫でしか? なんだか、コーシさんだけが死にそうになっているでしけど……?」

「うむ。おそらく魔力痛じゃろうのぅ。なにせ、コーしゃまは昨日初めて古代魔法を使ったかと思いきや、いきなり伝説の古代魔法を復活させてしまったんじゃからのぅ」


 カチヤが心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでいる。

 ついでに、床の頑丈さをちょいちょい確認して「ほ~ぅ」と息を漏らしている。……またスッカスカになってねぇだろうな、お前ん家?


 ウセロがグレイスに連行されていったことをカチヤに伝えたに行ったエルセが、なぜかカチヤを連れて帰ってきたのだ。

 お見舞いらしい。


 お見舞いと言えばもう一人……


「大丈夫だぉ。マゥルが魔法痛にもよく効く痛み止めのお薬持ってきてあげたぉ。これ飲んで二秒で寝るぉ」

「わざわざ薬を作ってきてくれたのね。ありがとうね、ギルド長」

「ギ、ギルド長じゃないぉ! マゥル、ギルド長だったことなんてないぉ!? ホントだぉ!」


 からかってやるなよ、スティナ。バレてないつもりなんだから、本人だけは。


「マゥ、ル……悪いが……薬をくれるか?」

「うんだぉ! 『マゥルはギルド長じゃないって思い込む薬』だぉ!」


 うん、それはいらん。

 つか、『思い込む』って言っちゃってる時点でアウトじゃねぇか。


「お薬飲めば、痛みは和らぐぉ」

「しかし、不思議じゃのぅ……いくら魔力痛といえど、動けなくなるほどの激痛は伴わないはずなんじゃがのぅ……」

「コーシはひ弱だからね、きっと」


 好き勝手なことを……

 しかし、マジで痛い。冗談抜きで、指一本動かすのもつらいのだ。

 寝て起きてからずっとこうだから、腰とか背中もズキズキしている。

 寝過ぎも体に負荷がかかるんだよなぁ……


「は~い、お薬ですよぉ~、おとっつぁん」

「……エルセ。お前、なんでそんなに嬉しそうなんだ?」

「えへへ。実はわたし、時代劇大好きなんです」


 こいつはホント、どんだけ日本に馴染んでんだよ。


「『遠い山金さん』とか」

「切るとこおかしいな!? 『遠山の金さん』だよ!」

「『DV将軍』とか」

「『暴れん坊将軍』な!? 暴れる場所と相手変わっちゃってるから、それ!」

「あと、『茨城のお尻』!」

「『水戸黄門』! お前は一回怒られろ! 日本の、なんか、そういう機関に! こっぴどく!」


 ぐぁぁあ…………全身が引きちぎられるように痛い…………っ!

 なんでこんな苦労してまで俺が、ツッコミを入れなきゃいけないのか……っ!


 俺の苦痛などには見向きもせず、エルセは瞳をキラッキラ輝かせて力説する。


「それらすべてに共通して出てきたのが……そう、町娘なんです!」

「……お前、時代劇を見るポイントおかしくない?」

「それからというもの、わたしはずっと町娘に憧れていて…………なので、介護、しますよっ!」

「ありがとう、エルセ。私はあなたが大好きよ」


 お前じゃねぇよ、スティナ!

 介護されるのは俺!

 …………誰が介護されるか!? 看病な!


「はいぉ。お薬飲んでぉ」


 エルセがもたもたしているから、マゥルがさっさと俺に薬を投与した。

 ……うむ。クッソ苦い……。


「二秒で寝ればすぐ治るぉ」

「無茶言うな」

「あぁ……時間切れぉ…………さ、もう一回」

「もういらんわ!」


 なんで眠くなるまで薬をエンドレスだ!?

 わんこか!? わんこ薬か!? 確実に体おかしくなるわ!


「むぅ……でも二秒で寝ないと、完治まで一分もかかるぉ?」

「そんなすぐ良くなるの!? うっわ、ホントだ、良くなってきた!?」


 怖い! 効き過ぎて逆になんか怖い!


「マゥルは天才薬剤師じゃからの。本当によく効く薬を作ってくれるのじゃ」

「あぁ……助かった。これで動けるよ。ありがとうな、マゥル」

「どういたしましてぉ。お姉ちゃんを助けてくれたお礼ぉ」


 グレイスと共に冒険者ギルドへ戻った時、マゥルはまだギルド長代理をやっていて、そこで事情を聞いていたのだ。

 ……この娘は、秘密を隠そうという気はあっても隠しきれない性格なんだろうな。


「あぁ……わたしの町娘タイムが終了してしまいました……」

「大丈夫だぉ。念のために、酷い魔力痛になる薬も作っておいたぉ。こっそり飲ませればいいぉ」

「その薬没収!」


 飲まされて堪るか、そんな劇物!


「あ、修理といえば。カチヤさん」

「はいでし!」


 エルセの隣で、カチヤが荷物を広げる。

 ……なんだ?


「みなさんの風のタリスマンが壊れたと聞いて、新しく作り直してきたでし」

「壊れたのはエルセの風のブラジャーだけなんじゃないのか?」

「はぅっ!? コ、コーシさんが堂々とセクハラ発言してるでし……っ!」

「男の人がブラジャーとか言うと、恥ずかしいぉ……」


 しまった!? 

 普段穢れきったヤツと一緒にいるせいで、一般的な感性を失いかけていた!?


「まったく、コーシは……」

「今のは俺の失言だけれど、原因の八割はお前だからな!?」


 スティナといるせいですっかりマヒしてしまっていた。

 うん。やっぱりスティナとは少し距離を取ろう。心が穢れてしまう。


「見てください、コーシさん! わたしのニューブラジャー!」

「……その発言もどうなんだろうな……」

「へ?」


 本人が全然気にしてないようなんで、深くは突っ込まんけども……

 手を繋ぐより、「ブラジャー見てください!」って胸を突き出す方がよっぽど恥ずかしいだろうに……


「従来品は、空気の入る音もうるさく、段階的に『ぼん!』『ぼん!』と膨らんでいましたが…………新製品は、風の音もせず、膨らみ方もスムーズで目立たないようになったんですっ! これで…………バレませんっ!」


 いや、うん……

 だからって、騙されたりはしないと思うけどな。

 一瞬目を離した隙に大きくなってて、「こいつ、成長期か!?」とか、絶対思わないしね。


「風のタリスマンは、素になる風の原石から大量の魔力が放出されるでしから、器というか、風の原石を覆う加工物を著しく傷付けてしまうんでし。なので、風の原石の魔力が亡くなる前に、大抵破損してしまうんでし」


 ニコとスティナに見せてもらったところ、風の指輪と風のアンクレットは、確かにどちらも装備不可能なほどボロボロになっていた。

 なるほど。こんなことになるのか……………………って、待てよ?


「じゃあ、風の栄養ドリンクを飲んだ俺の場合は?」

「体がズタボロになるでし!」

「それのせいなんじゃねぇの、必要以上に体が痛かったの!?」

「あぁ! あり得るでし!」

「なに、とんでもないもの寄越してくれてんだ!?」

「ごめんなさいでし! ごめんなさいでし! 新しい風の栄養ドリンク作ってきたでしから、これで何卒でし!」

「二の轍踏ませる気満々か!?」


 まぁ、折角だからもらうけども。

 アイテムを使わずに使用出来る風の魔法ってのは、結構重宝したしな。


「ということは……わたし、また町娘になれますねっ!」

「ってことは、また俺に激痛で苦しめと?」

「はい! 頑張ってください!」


 素敵な笑顔で最低なこと言われてるな、俺。

 はは……あとで、アイアンクローしてやる。



 とはいえ、こうやってくだらない話をしているとつくづく思う。

 あぁ、終わったんだなぁ……って。


「コーしゃまが元気になってよかったのじゃ」


 ぽんぽんと、スカートの裾をはたき、ニコが立ち上がる。


「昼過ぎに、冒険者ギルドへ来るようにとグレイスに言われておるのじゃ。お昼を食べたらみんなで行くのじゃ」



 それから数時間くらいまったりと過ごし、俺たちはグレイスの呼び出しに応じ冒険者ギルドへと向かった。







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