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110話 伝説の古代魔法

 なんとか、からくり武者を捕らえることに成功した。

 ……だが。


「――マジウケルシッ!」


 こいつをどうやって大人しくさせればいいんだ。


「上家。からくり武者を解除したり出来ないのか?」

「敵に解除されねぇように、外からは解除出来なくしてあるんだ」


 また厄介な仕様にしやがって。


「それじゃあ、どうすればいいんだよ?」

「頭を吹き飛ばすしかねぇな。見て分かる通り、からくり武者は元の人間よりもデカくなる。頭の部分は空っぽだ。遠慮せず吹き飛ばせ」

「……それが出来ねぇから相談してんだろうが」


 ニコの『黒龍さんいらっしゃ~い』でも無傷だったんだ。

 あれ以上の攻撃なんて、そうそうないぞ。


「――マジウケルシッ!」


 自身を覆い尽くす紙とロープと『サンクチュアリ・ベール』の呪縛を振り払おうともがく。

 じたばたと暴れ続ける様は、なんとも不気味で背筋がうすら寒くなる。


「グレイス。お前の剣で……」


 こういうのはプロに頼もうと話を振るが……


「すまない、コーシ。からくり武者との戦いで、ワタシの剣はこの有り様だ」


 鞘から抜き放たれたグレイスの剣は、中ほどからポッキリと折れてしまっていた。

 ……どんな攻撃力だよ。


 さて、どうしたものか……


「――マジウケルシッ!」


 悩んでる間も、からくり武者は拘束を打ち破ろうともがき続ける。

 檻の中の猛獣を見ているようで、安全だと分かっていても迫力があるな。


 ――と、暴れるからくり武者の足元に、冒険者カードが落ちていた。

 からくり武者――ワッシーのものか?


「ちょっと見せてもらうぞ」


 暴れるからくり武者に踏みつけられないように気を付けつつ、冒険者カードを拾い上げる。

 画面をスクロールさせると…………



『 グレイス&ニコラコプールールーを退けた。カンスト級の経験値を得た。

  ワッシーはレベルがドン引きするくらい上がった  』



 …………

 …………

 ………………って。


「これが原因か!?」


 一人で、伝説級の二人を相手に戦っていたせいでレベルがすげぇ上がってしまったらしい。

 確かに――


 戦闘を任せる → 「下がれ二人とも!」 → 俺がしゃしゃり出る。


 こんなことをしていたら、「退けた」って、戦闘終了とみなされてもおかしくはないか……たまにあるもんな、ボスが倒れる前に逃げていくパターン。……ソレ扱いか。


「……そりゃ、ちょっとやそっとでは勝てないバケモノが誕生してもおかしくないわ」


 要するに、からくり武者は元々強かったが、落とし穴に落とす直前に手に負えないバケモノへとレベルアップしてしまったわけだ。


 ……どうしよう、この『新たに誕生した魔神』的な生き物。


「ねぇ、コーシ、思ったのだけれど……」


 徐々に明るくなり始めた空から差し込む淡い光を受けて、スティナが神々しい美しさを湛えている。もともと美人な上に、聖職者――巫女という職業が相まって神聖な雰囲気を身に纏っているスティナは、早朝の森の中のような、こういう空気感によく映える。


 思わず見惚れてしまいそうなほど、清らかな美しさをしたスティナが静かな声で言う。


「このまま放置して衰弱死させるという手もあるわね」

「発想が鬼だな、お前は!?」


 心の清らかさは、入れ物の美しさには無関係なようだ。


「からくり武者の防御を撃ち抜ける魔法となると……やはり古代魔法しかないやもしれんのぅ……」

「何か、心当たりはあるのか? こいつの頭を吹き飛ばせそうな魔法に」

「う~む……」


 腕組みをしてニコが首を傾げる。

 どうも、いまいちピンとこないようだ。


「威力の高い魔法は数あれど……黒龍をものともしなかったからくり武者を貫けるほどの威力となるとのぅ…………」


 やはり、先ほどの魔法はかなり攻撃力の高い魔法だったようだ。

 それを超える魔法は、ニコをもってしても容易には見つからない。


「伝説の古代魔法というものがあってのぅ……それならば、もしくは…………じゃが」


 俺らが食いつきそうな話をしつつも、俺らが食いつく前にその話を終わらせる。


「ワシもその魔法の呪文は知らんのじゃ。すまんのぅ」

「そうか……」

「ニコさんでも知らないことがあるんですね」

「ワシとて、万能ではないからのぅ」


 ニコの知らない、伝説の魔法。……か。興味はあるが、今使えないのであればしょうがない。

 からくり武者をこの状態のまま放置するわけにもいかないだろうし……それこそ、衰弱死しちまう。


「伝説と呼ばれるだけあって、その魔法を見た者は誰もおらんのじゃ。ただ、そういう魔法が存在したという記述があるだけでの……」

「出鱈目かもしれない、ということね」

「うむ。スティナの言う通りかも、知れぬ……と、今では思われておるのぅ」


 誰も知らない魔法。

 存在自体が胡散臭いが、自分の口で「ない」とは言いたくない。そんなところだろうか。


「名前だけなら分かっておるんじゃがの」

「あ、わたし聞きたいです! 伝説の魔法の名前!」


 エルセが挙手してニコに詰め寄る。


 伝説の魔法の名前か……俺も少し興味あるな。

 どんな名前なんだろうか。やっぱり、横文字のカッコいい感じなんだろうか。

 是非聞いてみたい。


「うむ。その魔法の名前はの……」


 少しだけ間をあけて、ニコが伝説の魔法の名を口にする。


「『バシュー』じゃ」

「「ダサいっ!」」



 俺とエルセの声が被った。

 擬音かよ!?

 んで、また大して強そうじゃねぇ音だな、『バシュー!』って!?


 そんなもん、今どきの子供だって口にしな………………と、そこまで言って、思考が止まる。


 俺の脳みそに、ある事柄が浮かび、全身の毛が逆立つ。

 …………まさか。え? いや、でも……


 視界の端で、エルセも似たように硬直していた。

 視線を向けると、エルセも同じタイミングでこちらを向いて、バッチリと目が合う。


 ……え? やっぱ、そうなのか?

 エルセも、同じことを考えているのか?


「コ、コーシさん…………あの、わたし……全身のムダ毛が逆立って……」


 うん。「ムダ」はいらなかったかな。「毛」だけでいいよ。

 つか、処理とか、しろな。


 その後、無言のエルセがジッと俺を見つめる。

 俺も、無言で…………そっと、冒険者カードを取り出した。


 ステータス画面を開いて、職業をクリックし……詳しい説明を表示させる。



『 魔法使い:もにゅもにゅもにゅ……バシュー! 』



 冒険者カードを覗き込んでいたエルセと、同時に息を吸い、そして同時に叫んだ。




「「呪文、見つけたっ!」」







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