10話 魔法習得!
で、結局。
お楽しみBOXから二冊、魔導書を買うことにした。
まずは魔法を覚えて、魔法使いって職業に慣れようと思う。
「んじゃ、レバーを引くぞ!」
無駄に禍々しい作りのレバーを握り押し下げる。
ガシャコンッ! ――と、音がして、取り出し口から一冊の魔導書が出てくる。
北欧の古書みたいな、しっかりとした装丁の本だ。
「ほぅ。珍しい物を引き当てたのぅ」
ババアの声が半音高くなる。
なんだ? レアものか?
「こいつは『魔力あげるんです』じゃ」
「おい、名称!? 魔法ってそんなんばっかりか!?」
「そんなことないのじゃ。『ジャスティス・ダークソウル』とかもあるのじゃ」
「ダッサッ!? こじらせた中学生が真っ先に思い浮かべそうな名前だな!?」
正義なのか悪なのか分かんねぇよ、もう。
「それで、この魔法はどんな効果があるんだ?」
「自分の魔力を、他の魔法使いや魔力を帯びた道具へ分け与えるのじゃ」
「まぁ、そのまんまだな」
使えなくも、……ない、か?
「ぷふぅーっ! ただでさえMPが『論外』なのに、他人に分け与えるって……もらった方も『しょぼっ!?』ってなりますってっ! くすくすくすっ!」
「よぉし、よく見てみろエルセ。この魔導書、鈍器として使用出来そうじゃないか? 角のとことか?」
「あ、危ないですっ! 魔導書は振りかざす物ではないですよっ!?」
……ったく。
人が前向きに頑張ろうとしてるってのに……
「それで、どうやれば使えるようになるんだ?」
「魔導書を開いてみるのじゃ」
ババアに言われた通り、魔導書を開いてみる。
と――
「うぉっ!?」
眩い光が溢れ出し、俺の全身を包み込んだ。
頭の中に言葉が浮かぶ……全身に文字が刻みつけられていくような感覚に陥る。
数秒で光は収まり、魔導書は灰のように朽ち果ててしまった。
………………ファンタジー。
ここまで散々ふざけといて、いきなり真面目にファンタジーすんなよ。ちょっと驚くだろうが。
「これで、使えるようになったはずじゃ」
ババアの言う通り。俺の脳にはこの魔法の使い方がはっきりと刻み込まれていた。
確信出来る。俺はこの魔法を使える。
……が、現状、魔力を分け与えるべき相手がいないので試すことは出来ない。
なんかモヤモヤすんな。
やっぱRPGとか、よく出来てるわ。
試し打ちとかしたいもんよ、普通。……それが出来ないこのフラストレーションよ。
「もう一回引かせてもらおうかな」
なんとしても試し打ちがしたい。敵ならここに二人いる。
俺は「攻撃魔法来い!」と願いながらレバーを押し下げた。
ガシャコンッ! ――と、音がして、取り出し口から一冊の魔導書が出てくる。
「ほぉ! 今度は攻撃魔法じゃな」
「マジでか!?」
願いが通じたか! 神様っているのかな!?
……あぁ、いるんだっけね、確か。ヴァルハバラにオーデン様。
「これは『イビル・クレバス』じゃ」
「なんか、凄く強そうな名前ですね、コーシさん!」
「おぉ! ちょっと暗黒魔法っぽいけど、しかしまぁ、良さげだな!」
有り金をはたいて手に入れた魔法だ。大切に使おう!
「こいつは、魔犬をも黙らせたと言われる魔法じゃ」
「これはアタリですよ、コーシさん!」
「おぉ! で、どんな魔法なんだ!?」
「敵の口の中に、エッグイ口内炎を生み出す魔法じゃ」
………………は?
「……口、内炎?」
「想像しただけでも痛いのぅ……こ~んな大きな口内炎じゃぞ? 二週間くらいずっとこ~んな感じになるぞぃ」
「こ~んな」と言いながらどんよりと落ち込んだような仕草を見せるババア。
……お前に使ってやろうか?
「3万Mb払って、敵に口内炎作る魔法って、そりゃねぇだろ!?」
戦闘に使えねぇじゃねぇかよ!
魔犬を黙らせた?
痛かったんだろうな!? で、黙っただけでたぶん倒せてはないよな!?
都合いいとこだけ切り取って大袈裟に広報してんじゃねぇよ!
「コーシさんって……なんか、人生が全体的に残念ですよね」
「お前に言われたくねぇわ、出禁天使!?」
「天使じゃないです、営業です! 一緒にしないでください!」
「一緒にされたくねぇのは天使の方だろうよ!」
お前の口に口内炎を作ってやろうかぁ!?
「しょうがないですねぇ…………」
言いながら、エルセが冒険者カードを「すちゃっ!」と構える。
「わたしが一回だけ引いてあげます」
自信満々に言う。
……が。
「えぇ……いいわぁ。お前、絶対運悪いし……金だけ貸して」
「何言ってるんですか!? 営業ですよ、わたし!?」
いや、営業に幸運なイメージねぇし。
「それにわたし、こういうの得意なんですよ」
こんなガチャみたいなヤツに得意も不得意もないと思うんだが?
「どっから出てくる自信だよ、それ」
「ふっふっふっ……こう見えてわたしは…………」
不敵な笑みを漏らし、エルセは腕を高々と掲げてはっきりと言い放った。
「かつて、課金ゲーム廃人だったんですっ!」
「自慢して言うことかっ!?」
もう、マジでなんなの、お前…………パーティ再編成したいなぁ…………マジで。