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106話 建物崩壊

 落とし穴ドッキリよろしく、からくり武者が若干ユニークな感じで落下してから数十秒後……はるか下の方から物凄い衝突音が聞こえてきた。


 ……容赦ねぇなぁ。


「う~ん………………たぶん、死んではいない、はずだ」


 上家が空中に人差し指をさまよわせて、何かを計算している。

 からくり武者の防御力と、あの重量のものが300メートル落下して地面に激突する力を計算したりしていたのだろうか。……出来んのか、そんなこと。

 頭のいいヤツのすることはよく分からん。


「だが、機能は停止したはずだ。いくらからくり武者でも、そこまで強靭じゃねぇ」


 己の計算に絶対的な自信を持って上家が断言した直後。



『――マジウケルシッ!』



 すっごい下の方で凄まじい爆音が轟いた。


「…………ぴんぴんしてんじゃねぇか」

「…………ワッシーのヤツ。オレの想像を上回るパワーアップをしていたか……」

「お前が計算間違えたんだろ?」

「…………まぁ、そんなこともある」


 うん。やっぱ暗算じゃ限界があるよな。


「任せて。私があのバケモノを機能停止に追い込んでおくわ」


 言いながら、スティナが次々に見取り図に文字を書き込んでいく。

 その度に、階下からおどろおどろしい、時には耳を塞ぎたくなるような凄まじい音が響いてくる。


 ……あいつ、あそこになんて書いてるんだ?

 見たくないなぁ……俺の脳では生み出せない悪辣非道なことがびっしり書かれてそうで。


「あ、あの……コーシさん。念のために充電しておいてもらえませんか?」

「ん? あぁ、そうだな」


 エルセが真っ青な顔をしている。

 何か別のことをして気を紛らわせたいのだ……ろ…………


「チマチマやり始めたら、らぐなろフォンをそこの穴から落とすからな?」

「はぅっ!? なんでバレたんですか!?」


 お前の考えることくらいお見通しだっつの。


 とはいえ、一応ここはまだ戦場だ。

 充電はしておく。

 らぐなろフォンを頭に載せて……


「ニコも、充魔しておくか?」

「はいなのじゃっ☆」


 ぴょ~んと、俺の胸に飛び込み、首に巻きついてくるニコ。

 ……の、顔を容赦なく握り潰しにかかるグレイス。


「……ワタシのコーシに馴れ馴れしいぞ、ニコラコプールールー?」

「ワ、ワシのコーしゃまなのじゃ……っ!」


 ニコも、懸命に張り合っている。


 うん。一応……どっちのでもないんだ、俺。


「二人とも、やめてください。コーシさんはどちらのものでもありませんよ」


 少し怒ったような口調でエルセが言う。


「コーシさんは、私の……」


 そして、ちらりとこちらに視線を向けて……


「充電器です!」

「よし分かった! らぐなろフォンを捨てる!」

「わぁぁあ! 戦場ですのに! ここ、めっちゃ戦場ですのにっ!?」


 ニコに抱きつかれてなかったら、ソッコーでポイしてたところだ。


「……ん? どうしたんだスティナ?」


 俺たちが部屋の隅でごちゃごちゃしていると、スティナが一人、部屋の中央へ向かって歩いていった。


「新鮮組の面々を回復してあげようと思ったのよ。どうせ、殺したくはないのでしょう? コーシのことだから」


 新鮮組の連中は、俺の放った岩つぶて(すっげぇデカい砂粒)の直撃を食らい、全員床の上で伸びている。

 それを回復してやろうということらしい。


 ……ってことは、からくり武者の方はもう済ませたって判断なのか?

 言われてみれば、階下からの音がもう聞こえない…………スティナ、実はお前が最強なんじゃねぇの?


「あ、でも。回復するならきゅんポイントを……」

「平気よ」


 そっと、右手で胸を押さえて、スティナが振り返る。


「さっき、コーシが守ってくれたもの」


 そう言って微笑むスティナの頬は、心なしか、薄く染まっていた。

『サンクチュアリ・ベール』が発動したことがそんなに嬉しかったのか…………そんな顔で言われると、ちょっとドキッとするな。


「分かった。けど、十分気を付け…………」



 俺がそんな言葉を言い終える前に、世界が揺れた。



 爆発音と共に、建物が大きく傾いた。

 何が起こったのか考えるまでもない。アイツだ。

 からくり武者が一階の壁を壊しやがったんだ。


 無理矢理300メートルも伸ばした歪な建造物が、壁を失って建っていられるはずがない。


 見る間に俺たちのいる部屋には亀裂が走り、真っ二つに、そして四つに、八つに、割れていく。


 内側はあんなにも頑強だったのに、外からの力にはこんなにも脆いのか……っ!?



 部屋が崩壊し、俺たちの体が宙へ投げ出される。


「スティナッ!」


 一塊になっていた俺たちとは違い、スティナだけが遠くに離れていた。

 一人ぼっちで、スティナが落ちていく。


 部屋の隅にいた俺たちは、建物が傾いた影響もあり、アジトの外――森の上へと投げ出される。


 しかし、部屋の中央付近にいたスティナは、そのまま真っ直ぐ階下へ向かって落ちていった。


「みんなっ! 風のタリスマンを使うのじゃっ!」


 そうだ!

 風のタリスマンには、落下速度軽減の力があったはずだ!


 懸命に「落下速度軽減」と頭の中で念じ、空に浮かぶイメージを思い描く。

 ……と、微かな抵抗があり、落下速度が緩やかになった。


「にゃぁあー! わたしの風のタリスマン、壊れてるんでしたぁぁああ!」


 風のブラジャーに穴を開けられたエルセは、落下速度軽減が使えないらしい。

 胸元からぴゅーぴゅー風が漏れていた。


「エルセ! 掴まれ!」

「コーシさんっ!」


 腕を伸ばし、エルセの腕を掴まえる。

 グッと引き寄せ、エルセをしっかりと抱きとめる。


「あ、ありありありありががががととととうとう、とぉううううっ!」


 抱きしめられてエルセがパニックを起こしている。

 が、今は落ち着け! 落ちるぞ!


「ニコ! グレイス!」

「大丈夫なのじゃ。グレイスは、ワシが慈悲の心で助けてやったのじゃ」

「恩着せがましいことを! ワタシのコーシに愛嬌を振り撒くな!」


 見ると、互いの顔面にアイアンクローをやり合っているニコとグレイスがゆっくりと空を下降していた。

 ……もっとちゃんと掴まれよ、お前ら。


 とりあえずこっちは大丈夫だ。


 俺は首から下げている貝殻を手に取り、そこへ話しかける。


「スティナ。風のタリスマンを使え。浮かぶイメージをすれば落下速度が軽減されるはずだ」


 こちらからのみ、一方通行で通信出来るアイテム。

 これを使えばスティナに声を送信出来る。


 ……だが。


 スティナの声は聞こえない。安否が分からない。

 俺たちは随分な距離を放り出されたようで、アジトから遠く離れた空を滑空していた。


 スティナの姿が見えない。


「スティナ。お前が心配だ……必ず、助けるから………………無事でいてくれよ」


 アジトの一階にはからくり武者がいる。

 そこに落ちたとなると、とても危険だ。


 攻撃の手段を持たないスティナにとっては、あの見取り図だけが頼りってわけだ。

 けれど、からくり武者は、どんな物々しいトラップも跳ね除けていたようだし、あれで一体どこまで逃げおおせるものか……


「あっ。コーシさん。上家さんも無事みたいです」


 エルセが、頭上を指さす。

 見ると、上家が巨大な紙風船みたいなパラシュートを広げて優雅に空を舞っていた。


 あいつはなんでもありだな。


 …………え。


「コ、コーシさん、アレって……」


 エルセも、俺と同じものを見つけたようで、目を大きく見開いた。


 風に弄ばれるように、一枚の紙がひらひらと空を舞っている。

 あれは、一階の見取り図……



 スティナのヤツ、切り札を失っちまったのか。



 うっすらと明け始めた夜空はまだまだ薄暗く、深い森は闇の中にのみ込まれるように暗かった。







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