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102話 砂粒

 ガギン……


 と、物々しい音が鳴り響いた。


「なんだ!?」


 金属が軋みを上げるような、人の悲鳴を思わせるような高音の残響。

 鼓膜に触れた瞬間に全身が泡立つような不快な音。


「……くっ!」


 振り向くと、グレイスが右腕を押さえていた。

 剣を持った手が震えていて、それを押さえつけるように、左手が右の手首を握りしめている。


 何があった?


「もう一度行くぞ!」

「御意っ!」

「ん~、私も行くんだろぅ~なぁ~、しょうがないなぁ~」

「つーか、うっせぇし! マジ黙って付いてこいし!」


 新鮮組の四人が一斉にからくりソードを振り上げる。

 イソのからくりソードから真っ赤な炎が、そしてチョーのからくりソードからは漆黒の闇が吐き出される。

 炎と闇が重なり、暗黒の炎となってグレイスに襲いかかる。


 すかさず、後方へと飛び退くグレイス。

 忍者のように、後方宙返りを決めて、体の芯をブレさせることなく着地する。


 ――が、着地したところへマグとボンが、同時に切り込む。

 下段から救い上げるような剣筋で、二本の刃がグレイスを狙う。


「ちぃっ!」


 手にした剣を反転させ、切っ先を床へと向けるように持ち替えて二本のからくりソードを受け止める。


 その瞬間――ガギン……という、耳障りな音が鼓膜を殴打する。


 それは、二本の刀がほんの少しの間隔をあけてグレイスの剣に衝突した音だったのか。


「うっ!」


 からくりソードを受け止めたとしても、その衝撃が腕へと伝わっていくのだろう。

 グレイスは分かりやすく顔を歪めた。


「フフフ……我が刃はダイヤモンドの硬さを誇り」

「オレの刀が風で衝撃を倍増させてんだっつぅ~の!」


 魔法を織り交ぜた波状攻撃。

 あんなものを受け止め続けていたら、グレイスの剣も、それを持つ腕も壊れちまうぞ。


 からくりソードの自動防御機能に攻撃を防がれ続け、疲れから攻撃の手が止めば、逆に攻撃が開始される。

 グレイスの体力が落ち始めれば、形勢は逆転されてしまう。


「加勢に行く!」


 どうやらもう、グレイスに時間を稼いでもらって魔法を覚えるなんてことをしている時間はなさそうだ。

 俺に出来ることをやる。

 例えば、ニコが生み出した『牢獄のディミオス・アヒロ』にヤツらを誘導するとか。


「…………させると思う?」


 立ち上がると同時に、細い水柱が飛んできた。

 エビが、俺に刃を向けている。


「…………この中で一番危険なのはお前だから。オレは、お前しか見ていないから」


 冷静沈着な声で言い、隙のない構えでこちらを睨み続けるエビ。

 幸いにも、エビの体はニコの『牢獄のディミオス・アヒロ』の向こうにあるため、こちらへ切り込んでくることはないようだ。

 ただし、からくりソードから放たれる水の魔法は健在……と。


 とりあえず、やるしかないか……

 今俺に使えるのは『砂かけ』と風のタリスマンの風のみ…………こいつに魔力を最大限注ぎ込めばどうなるんだ? 黄砂みたいに大量の砂を撒き散らすことになるのか。

 上手く作用すれば砂嵐くらいは生み出せるか。


 まぁ、やってみるさ。


 魔力を込める。

 マッドゴーレムに『イビル・クレバス』を使った時のように……集中して、魔力を込めて………………


「お前の、剥き出しの目を潰すっ!」


 エビの目は剥き出しだ。

 腕で覆ったくらいじゃ砂は防げまい!

 目つぶしを喰らえば、足元の『牢獄のディミオス・アヒロ』に引っかかるかもしれない、いやきっとそうなる。

 それに、残りの新鮮組にも目つぶしが効けば、グレイスが有利に戦えるだろう。


 今の俺に出来ることなんかそれくらいだ……


「コーシ、万が一グレイスに被害が及んでも、私がすぐに回復させるから」


 魔力を溜める俺の背後に歩み寄り、スティナは頼もしいことを言ってくれる。


「存分にやりなさい」

「分かった」


 集まった魔力をすべて注ぎ込んで、詠唱を始める。


「――なんだよぉ、こっち見んなよぉ…………――」


 砂かけの準備と並行して、風のタリスマンの風を呼び起こす。

 風に乗って部屋を埋め尽くせ、俺の砂!


 そして、全身全霊をもって、叫ぶ。


「砂かけっ!」


 瞬間、――ンゴッ!――と、鈍い音がして、ソフトボール大の『砂粒』がエビの頭に直撃した。


「……え?」


 その後も、こぶし大からバスケットボール大くらいの『砂粒』が、発生した『突風』に乗って他の新鮮組にも次々命中していく。……というか、めり込んでいく。


 飛来する無数の『砂粒』に、からくりソードの自動防御も追いつかない様子で……面白いように『砂粒』がヒットしていく。


「わっ! ちょっ!? コ、コーシ!? これはっ、危ないっ!」


 ただ一人、グレイスだけが器用に飛来する『砂粒』を回避していた。

 身体能力の差が、こういうところで出るんだなぁ。



 約五秒間。

 俺の生み出した『砂嵐』は部屋の中を駆け巡り……新鮮組のほとんどをのみ込んで、止んだ。


「…………コーシ」

「…………コーしゃま」


 味方からの視線が痛い。

 うん、言いたいことは分かる。けどあえて言わないでおいてくれる優しさに感謝したい。

 俺だって分かってる。分かってるんだ。


「コーシさん。はしゃぎ過ぎです」

「はしゃぎ過ぎ言うな!」


 他のみんなが気ぃ遣ってくれてるのに、空気読まねぇな、エルセ!?


 まさか、こんなことになるとは思わず、魔法を使った俺が一番驚いている。

 ただの目つぶしの砂かけが、とんでもない破壊魔法になったものだ。


「また、テメェか…………っ!」


 部屋の向こう側。

 四つ角の一つに身を寄せたウセロとワッシー。

 ワッシーが先ほどの『砂嵐』をすべて防ぎウセロを守ったようだ。


 角に避難すれば、『砂粒』の飛んでくる方向は一つに絞れるからな。なるほどな。



 部屋には、俺たちと上家、そしてウセロとワッシー。

 そろそろ決着がつきそうだ。


 ……だが。


「コーシよ、油断するなよ」


 グレイスが剣を構えてそんなことを言う。こちらも見ないで。


「あのイワシ男……新鮮組の中で群を抜いて強いぞ…………もしかしたら、ワタシと互角か……それ以上かもしれない」

「えっ!?」


 グレイス並みの強さだと!?


「まじウケる…………オレ、本気出しちゃおうかな……」



 イワシ顔のワッシーが、ゆらりと、刀を構えた。







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