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101話 練り合わせる

「……魔法が封じられたこの部屋で魔法を……アイテムを使ったのか……いや、しかしあいつは何も持っていないし………………何者なんだ、あいつは?」


 エビが真顔で俺を見つめる。

 ……うん。まぁ、真顔だと思うんだけど、如何せんエビなんでなぁ。

 俺、エビの顔色窺うのとか、ちょっと自信ないな。


「気を付けろ! そいつは、どこか普通じゃねぇ! ただの魔法使いだとは思うな!」


 ウセロが憎しみのこもった声で言う。

 普通じゃないとは心外だな。学校の成績も軒並み「3」の、極平均的な男子高校生をつかまえて。


「コーシの巨乳好きがバレていたのね……っ」

「そんな、顔を歪めるほどの出来ことじゃねぇよ!」

「コーシさん……普通じゃないくらいに好きだったんですね……」

「お前らは真面目にやる気とかないのかなぁ!?」


 スティナに続いてエルセまでもがアホの娘を炸裂させる。


「ん……よいっしょ、なのじゃ……」


 そして、俺の腕の中で、さり気な~くニコが胸を寄せ谷間を強調する。

 ……ニコ。お前だけはこっち側の人間でいてくれ。頼むから。


「コーシ! ニコラコプールールーを連れて後方へ下がっていろ! 魔法が使えない以上、前衛は無理だ」


 すでに三人を相手にしているグレイスが、俺たちに交代を指示する。

 ウセロとその護衛のワッシー、『牢獄のディミオス・アヒロ』に拘束されているゲソを除いてもまだ五人いる。それを一人で引き受けようというのか。


「オート防御機能が付いていると教えてもらっただけで十分だ。正体が分かれば、多少不可思議な動きをされても戸惑うことはない! 種の明かされたトリックなど無いも同じだ!」


 戦いながら、背中で語るグレイス。

 なんて頼もしい背中なんだ。


「分かった! だが、対策を立ててすぐに応援に戻るからな!」

「ははっ! なら、楽しみにしているぞ!」


 背中を向けたまま、視線だけがチラリとこちらを窺う。

 こんな状況の中、グレイスは笑みを向けてくれた。


 なんとか、俺も戦える方法を見つけなければ。


 ニコを抱き上げて、スティナたちの元へと戻る。


「なぁ、ニコ。古代魔法ってさ。魔導書を使わずに使用出来るってことは、俺にも使えるのか?」

「うむ。ただ、魔力と詠唱を練り合わせなければいかんから、慣れは必要じゃがの」

「練り合わせる?」

「うむ。……そうじゃのぅ」


 みるみる若返っていくニコの肌。

 ぷっくりツヤツヤし始めたほっぺたを人差し指で押して、ニコが考え込む。


「なら、簡単な魔法で練習してみるのじゃ」


 そう言って、一つの詠唱を教えてくれる。


「『なんだよぉ、こっち見んなよぉ』……なのじゃ」

「え……なにそれ? 詠唱?」

「なのじゃ」


 一体どんな魔法だと言うのか……


「砂粒を発生させて、相手の目をくらませる眼つぶしの魔法なのじゃ」

「うわぁ、……地味」

「簡単な魔法じゃからの。じゃが、魔力を込めれば威力は増すのじゃ」

「眼つぶしの威力が増してもなぁ……」

「そんなことないのじゃ。コーしゃま。戦いとは、眼つぶしに始まって眼つぶしに終わるのじゃ」

「卑怯なヤンキーの戦法みたいだな、その戦い」


 互いに眼つぶしを狙ってる戦いって……もうちょっとなんとかならないもんか。


「ちなみに、魔法名は『砂かけ』なのじゃ」


 まんま、砂かけババアの技だな……


「コーシ。とりあえず試してみてはどうかしら?」

「そうだな。習うより慣れろっていうしな」

「え?」


 エルセが、目をまんまるくして俺の顔を覗き込んでくる。

 ……なんだ?


「『呪うよりにょれろ~ん』じゃないんですか?」

「お前、それどういう意味のことわざだと思ってんの!?」


 どういう場面で使うんだよ『呪うよりにょれろ~ん』!?


「とにかく、試してみるのじゃ。上手くいけば、他の詠唱も教えてあげるのじゃ」

「よし! えっと……――なんだよぉ、こっち見んなよぉ――砂かけっ!」


 しーん………………な? まぁ、最初はこうなるよな。

 うん分かってた分かってた。


「言葉に魔力を纏わせるイメージなのじゃ。一文字一文字に魔力を練り合わせるのじゃ」

「言葉に魔力を…………」


 練り合わせるってのがよく分からんのだが……


「頑張ってください! グレイスさん、いくら強いと言っても、からくりソード五本を相手にするのはつらいでしょうから!」


 エルセの中では、手強いのは使い手ではなくからくりソードだという認識らしい。

 あながち間違いではないんだろうが……新鮮組、形無しだな。


「大丈夫よ、エルセ」

「スティナさん……」

「コーシは、やる時はやる男だもの」


 そんな言葉をストレートに発する。

 飾り気のない素直な笑みは、思わず見惚れてしまいそうなほど綺麗で……


 なんか、すげぇ元気出た。やれそうな気がしてきた。


「それに……」


 スティナがこちらを向いて視線が静かに重なり合う。


「コーシはヤれる時にヤっておく男でもあるもの」

「――なんだよぉ、こっち見んなよぉ――砂かけ」


 砂、ぶゎっさぁ~!


「ぎゃああ! 目が! 私の目がぁぁあ!」

「おぉ! コーしゃま、出来たのじゃ! 凄いのじゃ!」

「いや、あの!? スティナさんが、スティナさんがのたうち回ってますけども!? そしてやっぱり『サンクチュアリ・ベール』が守ってくれてませんでしたけども!」


 床の上をごろんごろん転がるスティナをきれいさっぱりシカトして、俺は今の感覚を忘れないように脳みそに刻みつけた。


「スティナさん、回復を! とにかく自分に回復魔法を!」

「コーシ! 私をときめかせてくれないかしら!? 可及的速やかに! 目の痛みを忘れるほどに!」


 ……ったく。口は禍の元って言葉を覚えとけ。


「でもですね、スティナさんも反省しないといけませんよ。『チクワはお惣菜の素』と言ってですね……」


 ……うん、ついでにエルセ、お前も覚えとけ『口は禍の元』。一般教養としてな。







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