9話 魔法を手に入れる方法
「違うんです……充電器が使えないんです、この世界……なので、コーシさんが電気を発してくれたら……ィタタタタッ! こ、このスマホの有用性は、コーシさんもご存じの通りですよね!? 必要ですよね!?」
魔法屋の硬い床の上に正座させ、アイアンクローをお見舞いしながら弁明に耳を傾けてやる。慈悲深い自分に感心するね。
しかし、エルセのらぐなろフォンが強力なのは確かだ。
……俺を充電器扱いしようとしていたことは看過出来んが…………もし魔法で充電出来るなら心強い武器になるな。
「なぁ、婆さん。電撃の魔法はあるか?」
「可愛い生娘なら今すぐお持ち帰り可能じゃぞ☆」
「はっは~、試し撃ちの的にすんぞ、この動く枯れ木」
誰が生娘だ。水分全部飛んじまってんじゃねぇかよ。
熟女すら通り越して、『枯女』だろ、お前は。
「あるにはあるが、高いぞぃ? 高位魔法『神々のイカヅチ』は7千万Mbじゃ」
「高っ!?」
「家買えますね!?」
エルセが主婦みたいな発言をする。……なに、家買うつもりなの?
「威力をグッと下げれば値段も安くなるぞぃ」
「ちなみに、一番弱いのってどんなのだ?」
「電気ショックで相手を痺れさせる魔法があるぞぃ」
痺れさせるだけか……痺れている魔物を袋叩きに…………魔法使いの戦い方じゃねぇな。
「主な使用用途は、夜道で婦女子の首筋に『ビリッ!』と電気を流し、抵抗出来なくなったところへイケナイイタズラを……」
「最低の使い方だな!? 推奨すんな、そんなもん!」
「……コーシさん」
「だからなんなの、お前のその『うわぁ……』みたいな顔!? 俺、なんも言ってねぇじゃん!?」
「ちなみに……先ほど、試し撃ちの的に指名された生娘が……ワシじゃ……ぽっ」
「んなぁぁ! まさか、ここに来てさっきのツッコミが振りになってしまうとは!?」
「……コーシさん」
「だから、その『うわぁ……ついに……』みたいな顔をやめろっ!」
なんて不愉快な店だ!?
魔法を覚えたら真っ先に破壊してやる!
「ちなみに、そのドスケベ専用魔法はいくらなんです?」
「おいこら、俺が買うかもしれない魔法に変なイメージ付与すんじゃねぇよ」
「この下位魔法『ドスケベ電撃』は30万Mbじゃ」
「そんな名前じゃないよな!? ちゃんとした名前言えよ! で、やっぱ高ぇな!?」
30万Mbは手が出ない。
二人合わせても12万Mbしかないのだ。
「魔法は強力じゃからな。最低ラインでもこの程度の値段はするわぃ」
そっか。
6万Mbで何か買おうってのがそもそも間違いなのか。
「どうしてもというなら、あのお楽しみBOXに挑戦してみるかぃ?」
「お楽しみBOX?」
ババアの指さす先に、触れると呪われそうな禍々しい箱が置かれていた。
「どこがお楽しみしだ? 恐怖と狂気しか感じないぞ」
とりあえず近付いてみる。
箱の横にレバーが付いており、そいつをガシャコンと下げれば箱の下についている取り出し口から魔導書が出てくる仕様のようだ。大きさは自動販売機くらいある。……デカいな。
「その箱の中に入っている魔導書は一冊3万Mbじゃ。ち・な・み・に、何が出るかはお楽しみじゃ」
「ふぉぉお! なんかガチャみたいですねっ!?」
そうだな。欲しいヤツが絶対当たらないんだろうなぁって雰囲気までそっくりだ。
「不良在庫を詰め込んだようなもんに、誰が金なんか払うか」
「けど、魔法がないと、いつまでたっても親子丼にはなれませんよ!?」
「目指してねぇよ、親子丼!」
俺の将来の夢を勝手に『親子丼』にすんじゃねぇ。
……とはいえ。
魔法が使えないことには話にならないってのも一面の真実だ。
たとえくだらない魔法だとしても、無いよりかはマシ……か?
「お楽しみBOXが嫌なんじゃとすれば……おぬしらに残された手段はあと一つ……」
「えっ!? 何か方法があるんですか!?」
エルセが食いつくと、ババアはニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「あぁ……たった一つだけ……おぬしらが高位魔法を手に入れる方法はあるが…………聞きたいかぃ?」
なんだか、嫌な予感がする。
こういうのってだいたい、墓地とかの地下に眠っている魔導書を取りに行けとか、どこかに眠る秘宝を取ってくればそれと交換してやるとか……そういうクエストだったりするよな。
今の俺たちに、そんなことが出来るのか……?
エルセに視線を向けると、向こうも俺を見ていた。
考えていることは同じなのだろう。
エルセの瞳が「どうします?」と語りかけてくるようだ。
「とにかく、話だけでも聞いてみよう」
出来るかどうか……いや、やるかどうかはその後で決める。
「ある意味では簡単……ある意味では相当に覚悟のいることじゃ…………」
簡単だが、覚悟がいる……試練、ってヤツか?
勇気を持って進めば道が開かれる――なんてのは、RPG初期のイベントにありがちだ。
最初のイベントで自分の武器を手に入れるってのもセオリーだ。
なら、こいつは――
――俺が受けるべき試練!
「聞かせてくれ。魔導書を手に入れる方法を!」
「ワシと結婚すれば、この店の魔導書は全部おぬしの物じゃぞっ! きゃっ☆」
「エルセッ! 火を持てぃ! この悪魔を焼き払う!」
「うわぁ……コーシさん……なんて思い切った決断を…………」
「してねぇから、決断!?」
くっそ! こいつも敵か!?
お前もまとめて焼き払っちまうぞ!?
論外魔法使い。いまだ魔法は使えず……