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始原の魔術師〜時を旅する者〜  作者: 小さな枝切れ
第7章 レドナクセラ帝都奪還
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魂抜きの籠手

【自然均衡の神スネイヴィルス】は焦っていた。大陸各地にある【魔法の神アルトシーム】と【守護の神ディア】、【勝利の神アロンミット】それぞれの神殿の破壊又は神殿を守る司祭達が次々と殺され、3神の力が弱まりつつあったからだ。

今、3神の力はレフィクルを抑えるだけの力があるか不安な状況にまでなっていた。


「このままでは人に託すまで持ってゆけぬかもしれぬな」


老いた老人の姿でボロ切れのようなローブに身を包んだ【自然均衡の神スネイヴィルス】は言った。


「申し訳ありませんスネイヴィルス」


魔力を帯び蒼く美しい長い髪を紐で1つに束ね、まさにウィザードといった姿の美しい女性の姿をした【魔法の神アルトシーム】が首を垂れ申し訳なさそうにしている。


「アルトシームまだ諦めてはいけない。諦めは敗北、勝利には繋がらないのだ」


そして脳筋ぽそうな発言をするのが雄々しい姿の男で両手剣を軽々と片手で持つ【勝利の神アロンミット】だ。


「相変わらずというか、勝利の神らしい発言ですねアロンミット。スネイヴィルス、なんとか打開策は無いのですか」


3神最後の1人で全身フルプレートで身を包み、フルフェイスヘルムでどのような顔をしているか分からない【守護の神ディア】がスネイヴィルスに頼る。


「《魂抜きの籠手》で彼奴の魂を【死の神ルクリム】の死極に閉じ込めなければ最後の手立てしかなくなってしまう」

「ここは不本意ですが【闇の神ラハス】の力を借りてはいかがでしょうか」

「アロンミット!闇の力など借りなくとも我らだけで充分だ」

「しかし現状1番力がある神は確かにラハス以外いませんよ」


スネイヴィルスは3神の話を聞きながら打開策を考える。

レフィクルは未だ人の身でもあるため、なんの苦もなく地上を動き回れるが、神となっているスネイヴィルス達が地上に降り立ってしまうと、その間自分達を信仰する人達に力を貸せなくなってしまうのだ。


「ラハスを頼る、かの」


闇の神ラハスは他の神とは違い、闇があれば力を持ち続けることが出来る。自然均衡の神スネイヴィルスに近い存在だ。だがそれ故に闇の魔物達にも慕われていて、所謂真祖や魔王とでもいうべき存在でもあった。

最もラハス自体は邪悪な存在などではなく、あくまで闇を司っているだけだ。


「あの吸血野郎を頼るなど断じて認めんぞ!」

「しかし儂等が手間取れば希望を捨てずに頑張っているサハラやキャスの行動が無駄になってしまうのじゃぞ」



その時だ。3神が一斉に神威が強まった。


「こ、これは一体?」

「力が戻ってきたぞ。どういう事だ?」

「鎧が輝きを取り戻してきている?」


それはちょうどその時サハラ達によりレフィクルが死にかけるという出来事が起こった時だった。




「サハラ達に助けられたようじゃな。儂等も一踏ん張りせねばならんな」

「レフィクルは神聖魔法は使えず、また通じないですから、私達の力を蓄えるチャンスですね」



【鍛冶の神スミス&トニー】よ。頼む。この機会に早く《魂抜きの籠手》を完成してくれよ。



それからしばらく3神は人々に力を貸し与え力を少しづつ取り戻していった。

特に霊峰竜角山では数多くの冒険者達が登頂を目指し挑み続ける為に相当な助力を求められ、3神もその願いに応えるべく力を注ぎ信仰の力を得て神威を取り戻していった。


だがそれもレフィクルの具合が良くなってくるにつれ、次第に停滞し始めやがて後退し始める。

意識を取り戻し、指示を出せるまで回復すると信用の置ける部下に命じ各地でレフィクルに変わり神殿の破壊などが再開されようとした。




「なんとかせねばならんな」


スネイヴィルスが長く伸びた白髭を撫でながら思案していた。もうそろそろ《魂抜きの籠手》が完成するという頃での神威の低下は、スネイヴィルス本人と3神の身の危険につながりかねない事だ。



「スネイヴィルス!ガウシアンが!」

「一体何事じゃ、ガウシアンがどうしたのじゃ」

「サハラです。スネイヴィルスの始原の魔術で…」


天界から地上を見下ろす。そこにはスネイヴィルスですら驚く光景が起こっていた。


「あれは一体何じゃ!」


ガウシアン王国一体に巨大な暴風の渦が現れ、その中央には薄っすら女性のような姿をした精霊が高笑いをしながら建物を次々と破壊し尽くしていく。逃げ惑う人々に容赦なく暴風が襲う。だが不思議と逃げ惑う人々に建物の破片が当たらないようにまるで避けるように飛ばされていた。


「始原の魔術は想像が元となる。サハラの世界ではあの様な暴風の精霊がおるというのか」

「あの暴風、私達神に匹敵するのでは…」


アルトシームが己の魔法をはるかに凌駕するであろう暴風の威力を見て驚愕している。


一晩暴風の精霊が暴れ回ると高笑いをしながら消え去った。そしてそれと同時に3神達はさらに力が戻っていくのを感じられた。それはガウシアン王都にあるレフィクルを祀る本神殿が完膚なきまでに破壊され尽くしたからだった。


そして遂にスネイヴィルスの元に2人が姿を見せた。


「スネイヴィルス、完成したぞ」

「渾身の出来だわい!」


そう言って現れたのは【鍛冶の神スミス&トニー】でスミスはガッチリとした人間の外見でトニーは如何にも鍛冶をするドワーフといった外見をしている。

実はこの2人、神になる前はお互いライバルで競い合った間柄だった。トニーが唯一ドワーフ以外で鍛冶師(ブラックスミス)と認めた人間だった。2人は弟子を育て上げた後、当時の鍛冶の神すら凌駕する物を合作したため否応なく交代させられるように神になった。

神になった後も2人は競い合い、特注が来ると共同で最高の一品を作り出している。

その2人がついに《魂抜きの籠手》を完成ささせた。


《魂抜きの籠手》を手渡されたスネイヴィルスが品定めでもするように見る。

外見は籠手というだけあって鉄製、神鉄アダマンティンで作られ薄っすらと赤光りしていて何処か禍々しい。そして指の可動部が6本あった。


「何故これは指の可動部が6本もあるのじゃ?」


この質問に2人の鍛冶の神は顔を見合わせると申し訳なさそうにスミスが答える。


「この籠手は注文通り魂を抜き去り死極へと封じれる。だが、作っている途中から自らの意思を持ち始めてな」

「6本目の指は使用する者の意志を奪ってしまうんだわ」


つまりレフィクルの魂を抜き去り死極に封じた使用者は籠手に精神を乗っ取られてしまうというものだった。ただし乗っ取られたあとどうなるかまでは分からないと言う。


「時間が惜しい。儂がその任を担おう」

「いけません!スネイヴィルスがいなくなってはもし危険なものであった場合対処する術がなくなってしまいます」


黙って聞いていた3神のうち魔法の神アルトシームが叫ぶように言う。


「じゃが他の者にこのような任まで請け負わせられぬ。それに儂にはもう立派に育った代行者がおる」

「それなら私も任せられるだけの代行者がいます」

「お主が、やると言うのか?アルトシーム」

「彼がすぐに私の後を継ぐかはわかりませんが、今この世界は魔法が力を持ちすぎています。魔法を司る神の席が空席になれば…」

「人達が扱える魔法を抑えられるという訳か」


確かに神々も気になっていた。サハラやキャスは別としてもそれ以外の生物達まで強力な魔法を扱えるようになってきている。


「辛い役目を任せてしまうのぉ…」





薄暗くシトシトと雨が降るガウシアン王国王都の王城はだいぶ修繕されていた。

レフィクルは1人王室で未だ完全とまで言わない身体をベッドに横たえ眠っている。


「ふん、来たか」

「さすがよの」

「余を殺しにでも来たか?よもや余の力を知らぬとは言うまい?」

「お主の憑依強奪の力ぐらいわかっておる」

「ほぉぅ?知って尚余に挑むか。余を殺さねばお前を殺して強奪し、余が殺されれば貴様の力をすべて頂かせて貰うぞ」

「どちらにせよ、お主はいずれ神々を手にかけるつもりであろう!」

「無論だ。この世この世界全てを余が貰い受ける。先ずは貴様の力を頂くとしよう」


次の瞬間レフィクルが跳ね起きたと思えばスネイヴィルスの間近まで迫り、いつの間にか手にした漆黒の短剣で突き刺そうと迫る。


「させない」


だがその攻撃は守護の神ディアの持つ楯により防がれる。


「もう1人いたか。余は実に運がいいぞ!」


レフィクルは2人の神と対峙することになっても顔は喜びに満ちていた。そして防いだはずの楯にヒビが入る。


「絶対に破壊不可能の私の楯が!」

「是非も無し」


バリバリと音を立て楯が崩れていく。そこへ魔法の神アルトシームが束縛(ホールド)の魔法をレフィクルに放った。


「余にそのような魔法は効かぬ…む?これはなんだ!」

「私は魔法の神!今の魔法を只の束縛(ホールド)の魔法と思わないことね!」


身動きを取れなくされたというにも関わらず、レフィクルは未だその顔は喜びに満ちたままだ。そして、


「余は知っているぞ!神々のルールを!」


その言葉にスネイヴィルス、ディア、アルトシームが動きを止める。


「神々のルール、いかなる理由があろうとも…人を直接殺める事を禁ずる!唯一自然均衡の神スネイヴィルス!貴様以外はな!

だがその貴様も直接ではなく間接的にとなっている。さぁその膨大な自然の力で余を世界を滅ぼしてみろ!」

「お主何故それを…」

「簡単な事よ。余は闘争の神の力を強奪している。故にこのような拘束も…」


拘束(ホールド)の魔法がビシビシと音を立てる。アルトシームはあり得ないと叫ぶが、実際にレフィクルはその拘束を破ってしまった。


「闘争の力は貴様らが1番分かっていよう」

「拒絶の力…よの」


そして神が手を下せないのをいい事にレフィクルは己を拘束したアルトシームに攻撃を仕掛けた。


「厄介な貴様からだ!」

「くっ!」


アルトシームが咄嗟に《魂抜きの籠手》を着けた手を出してしまう。絶対破壊不可能と言われるディアの楯をも破壊した短剣が籠手の数センチ手前で止まった。


「なんだその籠手は!…だが、闘争の力は拒絶する!」


しかしその拒絶すら効果は発揮する事はなかった。ギリギリと力を込めるがビクともしない。そこへディアが背後からレフィクルを押さえ込み身動きを封じようとするが、軽々と投げ飛ばされてしまう。


「まだだ!俺もいるぞ!」


アロンミットがその大きな両手剣を片手で振り下ろしてきた。レフィクルは咄嗟に身を躱す。

レフィクルの強奪には制限があり、強奪した場合融合しきるまで次の強奪は使えなくなる。今のレフィクルが欲しい力は魔法の神アルトシームの力が優先であった。その為、アロンミットの神々のルールを無視して平然と切りかかられるのはレフィクルにとって邪魔でしかない。


「さすがは卑劣神だけあるな。勝利の為なら手段は選ばぬか?」


人々に崇められ人気のある神だが、その実勝利の神は勝つ為に手段を選ぶことはない。勝利こそが全てであり、そのためであれば人質を取ることも厭わない、そういう神だ。


「五月蝿いわ!勝てば官軍よ!」


平然と攻撃してくるアロンミットが邪魔になったレフィクルは応戦する事に変え、素の力でもあるアサシン能力をも活かし驚速で攻撃を防ぐ、更に加わったディア2神を相手に見事と言うしかない短剣さばきで捌ききっていた。


「ふん!」


ディアの体に剣が食い込む。レフィクルの手には短剣しかないと思っていたが、2神を相手にしながらサブウエポンをいつの間にか手にしていた。


「ディア!」


アルトシームも何もしていないわけではなく、魔法を使い攻撃をしていたがことごとく拒絶されてしまっていた。


ぐお!


「アロンミット!」


2神が手傷を追ってしまう。レフィクルの強さは神々の想像をはるかに超えていたようだった。

スネイヴィルスはその様子をただ眺めていた。眺めているしか出来なかった。それと言うのもレフィクルの力により精霊達は近寄れなくされドルイドの力を使えず、始原の魔術しか戦う術がなかった為だ。



「終わりだ」


アルトシームの胸に漆黒の短剣が深々と突き刺さる。あまりの早さに魔法の神では見切る事が出来なかった。だがーーー


「貴方が…です!」


アルトシームが胸に短剣を突き刺されたまま《魂抜きの籠手》でレフィクルを掴んだ。


「な、なんだそれは!うおおおおお!!」

「ソウルスティール!」


アルトシームが叫ぶと籠手はレフィクルの魂を一気に引き抜いた。そして握りつぶすように閉じると消えて無くなった。


「これで貴方は憑依強奪の力は使えませんよ!」


レフィクルは意味がわからず、だが確かにアルトシームの力を強奪出来ないのを理解した。


「それで?余を殺すか?」

「よくやったぞアルトシーム。

レフィクル、神々のルールにより儂等はお前さんを直接は殺せぬ。じゃが、儂等の目的は果たせた」


傷だらけのディアとアロンミットがアルトシームを支え立ち上がり、スネイヴィルスの指示で天界へと去っていった。






3神は大怪我をしたが神だ。天界に戻るとたちまち傷は癒え立ち直る。だがアルトシームだけは精神を籠手に侵食され始めていた。

アルトシームは籠手に支配される前に創造神とスネイヴィルスに謁見し、その職務を全うしたと自らの命を【死の神ルクリム】に委ね、輪廻に還ることを選んだ。

ルクリムの魂の運び手であるグリムリーパーが漆黒の馬車に乗って現れるとアルトシームは残った神々に別れを告げ丁重に運ばれていった。


「此方も手痛い目に遭ったわ…レフィクルの奴めが」





サハラよ儂等はなすべきことはした。後はお前さんに託すぞーーーアルトシームの行為を無駄にしないでくれ。



魂を失ったレフィクルは肉体を失えば死極に閉じ込められ出る事ができなくなる。

こうして神とレフィクルの戦いは終わりを告げ、地上に生きる人々に託す事になった。



昨晩更新できなかった分です。



「神様達も頑張ってくれたのね」

「そうだな、今度は俺たちの番だ」

「なんかもうすぐこのお話も終わっちゃいそうだよ!」

「まぁ近いのかもしれないな」


いえ、まだレドナクセラ奪還ですから。ガウシアン王国とレフィクルは先になると思いますよ。書き溜めも少ないし。


「よかったー」

「そう言えば今回はルー姉さまの次回予告は無いのかしら?」

「いらないだろ? 突然の変更があったら困るし」




と言うわけで、次回更新は定時更新の予定でお願いします。書き進む状況によっては、途中で更新するかもしれません。


それでは

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