始原の魔術
翌朝暖かい温もりを感じながら目を覚ますと、伏せて休んでいる狼達に囲まれていた。俺が目をさますと狼達も一斉に頭を上げ、狼のリーダーが『ウオゥ』と一声あげると立ち上がり、俺たちから素早く離れていった。
俺が伸びをしながら欠伸をして周りを見ると、クマが出来たキリシュ達が苦笑いをしていた。
「おはよう!」
「おはようじゃないですよ。あんなに狼に囲まれてよく寝れますね」
目を覚まし、ンー!と伸びをしているレイチェルとセーラムはキョロキョロして、狼達がいなくなっているのを見ると残念そうにしていた。
「どういう事か説明して貰えますよね?」
クマを作って、せっかくのエルフの美貌が台無しになっているエラウェラリエルが問い詰めてきた。
俺は既に決心してあったため、俺を見つめてくるキリシュ達に【自然均衡の神スネイヴィルス】によって、始原の魔術とドルイドとしての力を得ている事を明かす。
ちなみに自然均衡の代行者である事は誰にも明かしていない。流石に序列2番とされる【自然均衡の神スネイヴィルス】の代理人なんて言えるわけがなかった。
「まさか…じゃあ5年前のヴァリュームの巨大な竜巻は…」
「うん、あれは俺が始原の魔術で作り出したんだ」
「なら昨日なんでマンティコアの時に使わなかったんですか⁉︎」
「理由はいくつかあって、まず始原の魔術を俺はまだ制御しきれていない事、それと制御しきれていないため仲間にも危害を加えかねない事、最後に…スレイドの裏切りがあってからは、不用意に教えないようにしているんだ」
そこまで言うとキリシュ達は黙り込んだ。特にズィーは、ズィー本人が素性を明かしていないためなのかウンウン頷いていた。
「マスターは秘密主義なところはありますが、仲間思いで裏切るような事はしません」
「そうね、私が攫われたときだって、迷う事なく助けに動いてくれたって、カイ姉さまに聞いてるわ」
「パパは優しいの」
セーラムのはどうでもいいな…
「俺も似たようなもんだから分かるぜサハラ」
「ズィーはシーフだからでしょ。でもサハラさんは違う。なんで教えてくれなかったんですか?僕達仲間なんじゃないんですか?」
「キリシュ、お前、俺より、馬鹿」
「そうじゃな」
キリシュを除いたキリシュの仲間が笑いだし、当の本人は突然笑い出した仲間に困惑しているようだ。
「な、何がおかしいんだよ!」
「ウォーレン、お前さんが教えてやってくれ、ブハハハハ」
「おう、まかせろ。サハラ教えた。俺たち、信用したから」
キリシュがハッとした顔をすると、納得したように照れながら頷いていた。
「解決したようだし、サッサと飯食って行かないと次の野営地点に着くのが夜になっちまうぜ」
慌てて皆んなは食事の用意をしだすなか、俺とエラウェラリエルは魔法の記憶を急いだ。
そうだな…魔法矢、1本しか出ないなら別の魔法の方がマシか。
[睡眠]と[魔法盾]を記憶したが、ここでまだ記憶できそうな気がしたため、もう一度魔法の本を開いて[魔法矢]を追加で記憶してみたら難なく記憶出来た。
おお!3個記憶できるようになったぞ!
朝食を終えるとまたヴォルフに向かって俺たちは歩き始めた。
「うぅ…寝れてないからキツイ…」
「うん…」
キリシュとセレンがフラフラとゾンビのような足取りで歩いていて、エラウェラリエルもきつそうに見える。
「人間もエルフも一晩まともに寝れなかっただけでダラシないのぉ」
「俺、平気」
「お前さんとズィーは別格じゃ」
そのズィーはと言うと昨日同様先行して偵察しに行っていた。
偵察前に俺が大丈夫なのか尋ねると、3日ぐらいまでなら、飲まず食わずでも活動に影響出さずに動けるそうだ。スゴイな。
そう思っているとズィーが少し慌てた様子で戻ってきた。
「この先にオーガの集団がいる。数は6匹だ。」
「6匹だと居なくなるまで待つしかないですね」
オーガか。通称人食い鬼と呼ばれていて、3メートルほどの巨人で知能が低いが、すさましい怪力を持っている。鬼というが別に角が生えているわけではない。人肉を好み暴力的で、残酷な殺し方をするのを楽しむ変態だ。
っと俺の主観が入った。
「オーガ自体の強さはどれほどなのかな?そうだな…キリシュ達なら何匹まで相手にできる?」
「2匹ですね。3匹になるとウェラの魔法を使い切る覚悟が必要になります」
という事は、俺らが加わっても6匹はキツイのか。
「マスター、街道でオーガなんかいたら商人達も困るでしょうから、討伐しましょう」
「セッター、今の俺たちの話聞いてたろ?6匹は俺らじゃ厳しいんだから、無理はしないが鉄則だよ」
「人数も多いのだし、やってみなきゃ分からないじゃないですか!」
「やってみなきゃって…それで死人でも出たらどうするんだ?」
「む…」
セッターの悪い癖…いや、騎士道の悪いところか。
「どうやら、逃げるしかなさそうよ」
俺らの進路先からオーガが姿を現した。
匂いでも追ってきたか?
「ズィー!逃げるとしても当てはあるか?」
「この辺りは無いな。だからこそあいつらが狩場にしてるんだと思うぜ」
「ならば尚のこと逃げるなどと言わず戦いましょう!マスター!」
セッターはやる気満々で、剣を抜いて応戦する気でいる。
迷っていても仕方が無いか…
「仕方がない、皆んな、応戦するぞ!」
オーガとの距離はまだ十分ある。俺は始原の魔術を使うことにした。
意識を集中する
“俺は自然均衡の代行者”
“あるゆる自然現象を想像し”
“具現化する”
“想像するは雷”
“天空より落ちて”
“俺に仇なす者に突き刺され!”
「落雷!」
次の瞬間、空が光ったと同時に猛烈な衝撃波と轟音が鳴り…
ガラガラガラガラッシャーーーーー!!!
向かってくる1匹のオーガに雷が落ちた。近くにいた他のオーガ達にも電気が流れていった様で、パタパタと倒れていった。
…………………………。
俺を含む全員が呆然とする。
「…サハラさん…ごめんなさい…やっぱり無闇にその魔術は使わないでください…」
「使うのはこれで2度目だけど、やっぱり威力が半端じゃないな…」
「スゴイ…これが魔法の大元と言われる始原の魔術…」
そんな中素早く立ち直って行動に移ったのがズィーだ。オーガの元へ駆け寄り生死の確認でもしているのか、オーガを突き刺しているのが見えた。
「おーい!スゴイのは分かったけど、急がないと次の野営地点に着くのが夜中になっちまうぞ」
俺たちは慌てて次の野営地点に向かって歩き始めた。
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