おはよう!
セッターとギャレットの試合はセッターの勝利で終わった。
次は俺の番だ。腕輪の力で習得した最後の力、修道士は結局この試合が最初にして試運転になってしまい、この世界で修道士がどれだけ力を発揮するかは分からないが、何故か分からないが自信がある。
ドラが鳴り響いた。
二本の巨大なツノが生えたような兜をかぶり、手には小さなハンマーとマッチョな上半身裸でズボン一丁と、6年前にギャレット達を公開処刑と称した出立で舞台に姿を現した。
「サハラ大丈夫なの?」
「たぶん問題なさそうな気がするの」
「それってエルフの勘っていうやつ?」
「うん、よく分からないけど、今のサハラは凄く不安要素が感じられないの」
ジトーっとレイチェルが俺を見ている。まぁレイチェルとカイは腕輪のことを知っているから仕方がない。
「ふ〜ん、そうなのね〜」
勝手に言ってろ。
「マスターは対人であれば負けはしないとは思いますが…」
「心配すんなって、これは試合であって負けても死ぬわけじゃないだろ?」
「いや…その考えはダメなのでは…」
はははと笑いながら手を振って舞台に向かった。俺の武装は杖にローブ、それと中に着込んだエルブンチェインだ。
どうするかなぁ…1本目は騎士魔法は使わないで修道士として戦ってみるかなぁ。
ていうか、なんで俺、さっきから落ち着いてるんだ?
首をかしげながら舞台に上がり、ノーマ侯爵と向き合う。
いざ向かい合うとデカイな。これでドワーフなんだぜ。まるで巨人…それは言い過ぎだが、標準的なドワーフは152㎝程なんだが、この筋肉ダルマは優に180㎝はある。つまり俺よりデカく力士の様な体格をしているわけだ。
ただでさえ頑強なドワーフがデカくなったら最早雄牛、でかいツノの兜なんか被っているからバッファローの様だ。
ふと脳裏にあるプロレス漫画の超人を思い浮かべてしまい、顔がにやけてしまう。
「随分と余裕の様であるな。だがその顔いつまでもつのであるかな」
やべ、怒らせた?
っと、ここで俺が習得した修道士の能力をおさらいしておこう。
気力を挫くいかなる危難も克服し、最も予測しがたい所を攻撃し、敵の弱点をついて優位に立つ。修道士はそれに熟達している。俊足と戦いの技をもってあらゆる戦闘をたやすく歩みわたれる。それが修道士だ。
まず体内に宿る気を攻撃に込めることにより素手はもちろんの事、扱う武器にもその力は発揮し、魔法的効果を生み出しあらゆる生物に攻撃することが可能だ。ただしゴーストのようなゴーストタッチ能力まであるかは不明である。
次いで高速移動。別にフラッシュや009のようになるわけではなく、普通の人に比べたら相当早いというぐらいだろうと思う。理由は分からないがおそらくレフィクルもこれを使える。
身躱し能力。これは今のところよく分からない。
連撃と昏倒攻撃。これも今のところなんとなくでしか分からないが、この試合で分かるのかもしれない。
そして縮地法、自身に対してのみ有効なウィザード魔法の次元扉のように空間の狭間に魔法的に滑り込むことができる。ちなみに次元扉とは視界に見える範囲程度のテレポート魔法の事だ。
そして最後に虚身、自身の体を少しの間エーテル状態にできる。はっきり言ってもはや人じゃなくなるような能力だ。
その他に病気や毒、精神に影響を及ぼすものを抵抗するなどの細々したものがあるが、些細な為どうでもいいだろうか。
杖を逆手に構え、修道士特有の呼吸法で気を入れ終えたのと同時に試合開始のドラが鳴った。
ウオオオォォォォ!っと雄叫びと同時にお決まりの突進をしてきた。
が、
なんかスローモーションなんだが…
呼吸法により気を入れた時から意識を集中する事で覚醒したようにクリアになる。身躱し、つまり見切ることが出来るようだ。そして高速移動により突進を方向転換出来ないギリギリの所でスッと躱す。
当然ノーマ侯爵が横を通り過ぎていくのだが、脇腹がガラ空きになっているのを見て、思わず学生時代を思い出す。
実にくだらない友人同士のおふざけで、朝登校して自分に気がついていない友人にそっと近づき「おはよう!」と挨拶しながら脇腹にパンチを叩き込むのではなく押し込む。受けた相手は突然脇腹を突かれビクッと体が反応する程度で痛くはない。
懐かしさから同じように、ただし友人ではなくノーマ侯爵なので気を入れて脇腹にーーー
「おはよう!」
パンチをーーー
叩き込んでみたーーー
ドウッ!
綺麗にパンチが決まった。
うん、この感じ懐かしいなぁ…ゾザァァァァアァァーーー
え?
ノーマ侯爵が少し先でそのまま倒れ身動きをしない。
えぇええ!ああっピクピクしているぅ⁉︎
嘘だろ?冗談だよな?だって思いっきりやってはいないんだぞ。
まさかこれが昏倒⁉︎
焦りから辺りをキョロキョロ挙動不審者のように見回す。
観客はもちろんの事、レイチェル、セッター、セーラムまでもが驚き口を開けたまま固まっていた。
「こ、殺した!」
「試合なんだろ?」
「死んだ…私たちのノーマ侯爵様が…」
ポツポツと声が上がり始めたその時、ノーマ侯爵が立ち上がった。立ち上がってくれた。
そして俺の方を向き肩を両手で掴んでくる。顔を見ればいつもの険しい顔とは違いーーー
何故か凄く清々しいキラキラとした顔をしているーーー
はっきり言ってキモい。
「儂の負けである」
「え?はい。あと1本取れば俺の勝ちですよね」
「儂の負けである!」
「ど、どういうことでしょう?」
「約束通り、ヴァリュームはお前のものである」
いや、だから意味がまったく話からないんだってば。
「答えてやろう。お前の力量は十分分かった。だから儂の負けである」
「え、あ、なんでぇ?」
多少確かに友人達とやってた時よりは力を込めたつもりだったが、メチャクチャ痛かったんだそうだ…
そして昨晩約束もしてないのにヴァリュームを俺に譲ると言ってくるが、慌てて俺が領主になんてなる気がないと拒否すると不思議そうな顔はした。
「そうなると儂と飲み比べで勝たねばならんぞ?
今であればヴァリューム領主となり、全兵士を手に入れられるというものを」
そういう事か。
「俺は貴方の手助けが欲しいんです。飲み比べで勝って、貴方を俺たちの仲間に引き込んでみせますよ!」
そうか、と言って肩から手を離すとまたいつもの険しい顔に戻り、観衆に向かって声を張り上げた。
「この試合!ここにいるサハラの勝ちとするのである!」
一瞬の静寂の後歓声、ではなく大ブーイングが巻き起こる。そりゃそうだ。試合前にノーマ侯爵が負けたら俺が領主になるなんて言ったんだからな。
「安心せい!ヴァリュームの民達よ!この者はヴァリュームはいらないと言った。
故に領主は儂がこのまま続けるのである!」
そう叫ぶように言うとーーー
ウオオオォォォォ!とヴァリュームの人達は喜びの声を上げた。
好かれてるなぁ。気持ちは分かるが、
そしてタイミングを見てこの試合という催しは幕を閉じたのだった。




