過去の約束
幼い頃スラムで生活していて8歳ぐらいの頃に両親が亡くなった。餓死だった。
幼かった私は生きる為に食べ物を盗みなんとか生きる生活を送っていて、周りの人も貧しく助けてくれる者などおらず、私は私と同じ様に親を亡くして生きる子供たちの仲間に入って生活する日々を送っていた。
ある日飢えに飢えた私は絶対に手を出してはいけないとされる騎士達の住む屋敷に侵入し、そこで盗みを働き誰もいないのをいい事に満腹になるまで食べ物を貪り食べ、あろう事かそこで満たされた私は寝てしまう。
物凄い激痛で目が覚めると、この家の持ち主であろう若い男が立ち、手には木剣が握られていて、それで殴られたのが分かった。
そして自分はここで死ぬのだろうと覚悟をした。
だがーーー
「今の痛みは私の家に勝手に入り込み、盗みを働いた分だよ」
スラムで生きると死が常につきまとう為、嫌でも殺気を読み取れる様になる。だが今目の前にいる男に殺気は感じられなかった。それどころか優しげな笑顔を向けてくる。
不思議そうに眺める私を男は優しく声をかけてきた。
「もし君が望むのなら私と一緒に暮らさないか?ただし騎士見習いの小姓としてだけれどね」
私は信じられなかった。だが目の前にいる男は真っ直ぐに私を見つめ返事を待っている。
盗みに入った私なんかを何故か尋ねると「出会いは全て縁で結ばれているものだよ。これも何かの縁なんだろうね」と言う。
両親以外の人から初めて受けた優しさ、私はその時泣いてお願いしたんだったと思う。
これが私とギャレット様の出会いだった。
騎士見習いとして下働き、稽古、文字の読み書きなど厳しく教わりながら、私にとってもう1人の父親のような存在となったこの人と一緒にいたい一身で頑張った。
後でわかったことだが、ギャレット様はそろそろ従者を持つ頃合いだったのだそうだが、独り身で宛てもなかったところへ私が転がり込んできたのだそうだ。
ある日のこと稽古をしている時だ。
「なぁセッター、いつかお前が大きくなって私に勝てたら、その時はお前の願いを聞いてあげよう。もちろんできる範囲でだけれどね」
私はその言葉を励みに頑張った。だが、それもオークの進軍に始まり、その後ガウシアン王国に占領されるとあまりに理不尽な理由で処刑されることを知ってしまう。
私には生きる意味が無くなり絶望していたところにマスターとの出会いがあり、そしてギャレット様は公開処刑をされたとばかり思っていたが、生きていてくれた。それだけで嬉しかったというのに、まさかあの時のことを覚えてくれていたのだろうかーーー
ドラを合図に向かい合う。
「強くなったなセッター。覚えているかい?私に勝てたら願いを聞いてあげると言ったことを」
「やはり覚えていてくれたのですね!
今この時を持って勝たせていただき、私の願いを聞いていただきます!」
「はは、期待しているよ。ただね、わざと負ける気はないから、本気でかかってくるんだ!」
「無論です。この…」
私は7つ星の剣を引き抜き騎士の構えを取る。
「この剣に誓って正々堂々勝ってみせます!」
「7つ星の剣に認められるとは驚いた。なら…私も手加減する必要はまったくなさそうだな」
ギャレット様も剣を抜いた。先ほどと変わらぬレドナクセラ帝国時代、騎士団長に任命された時に皇帝に賜われた剣だ。
初めの合図のドラが鳴ったーーー
先ほどとは違い、ゾクっとする思わず逃げたくなるような殺気を放ちながら恐ろしい速さで攻撃を仕掛けてくる。が、私もマスターの元で色々経験を積んできたつもりだ。
ーー7つ星の剣よ、私に力を貸してくれーー
Yes master
は?
頭に声が聞こえ、ギャレット様の攻撃を躱すのが遅れてしまう。
auto barrier
また奇妙な声が私の頭に響く。と、剣が勝手に腕を体を引っ張るように動かし、ギャレット様の連続的に斬りつけてくる攻撃全てを受けきった。
これが7つ星の剣の力?いや、今は戦いに集中しなければ。
「今のを全て受けきるとは驚いた」
自分自身分かっていない。だが…マスターは、マスターならきっとこう言うだろう。
『細かいこと気にするなと(どうでもいい)、なすべき事に集中しろと(やる事をやれ)』
私は反撃に移り、今まで戦ってきた経験を生かすことにする。
一旦跳躍で距離を取る、が、ギャレット様も跳躍で追ってくる。同じ騎士魔法を使ってくる相手とは戦いにくいものだと思いながら、振り上げてくる剣を7つ星の剣で受け、着地と同時に念動力でギャレット様の着地点に向けて舞台にあったドラを飛ばす。
こんなものでは倒せはしないだろう。だがギャレット様が取れる行動は回避する以外ないはず。
「くっ、念動力まで使いこなすのか!」
片手を着地点に向け防壁でドラを防ぎながら着地する。そこへ剣を持つ腕を狙いを定めたのだがーーー
「だが、まだまだ甘いね」
ギャレット様は信じられないような体勢から剣を降り、パーーンッ!と7つ星の剣を払い飛ばされてしまい、体勢の整わない状態のまま更に剣を突き出してきたーーー
やはりギャレット様は強い。
慌てて片手を前に突き出し防壁でなんとか防ぎながら、弾かれた7つ星の剣の場所を確認すると、ギャレット様の後方に見えた。
視線で気がつかれたのか、剣を取らせないようにギャレット様は剣を背にするように立ち剣を突き出しながらーー
「セッター、3本目で決着だな」
そう宣告されてしまう。
だがーーー
「負けは死なのです」
「うん?」
「冒険者にとって負けは死、己れの死、仲間の死なのです!」
「…そうか、ならセッター、お前の負けだよ!」
剣がギャレット様が私に向かってくる。防壁を使えばその攻撃だけは防ぐ事は出来るがそれだけだ。
私は体をよじってその鋭い一撃をなんとか躱すと同時に念動力で7つ星の剣を手元に引き寄せーーー
ボトッ、カラーンと剣と剣を握っている手が落ちたーーー
「そこまでえぇぇぇい!!」
ドラを鳴らせなかった為、ノーマ侯爵が声を張り上げ試合終了となった。
手首から先を失った腕を押さえながらギャレット様があの初めて会った時の優しげな笑顔を向ける。
「強くなったなぁセッターは。まさか剣を念動力で手元に戻す事まで出来るとは想定外だったよ」
それだけ言うと腕の治療の為に急ぎ兵士に連れて行かれた。
観客から盛大な拍手と声援が聞こえたが、それ以上に近づいてきたマスターに「やったな」と言われた時自分が勝ったのだと実感を持てた。
そう、私はギャレット様に勝てた。




