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始原の魔術師〜時を旅する者〜  作者: 小さな枝切れ
第5章 霊峰竜角山攻略
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翌朝にはほぼ全員が立ち直り、またあの男と遭遇したくはなかった事から、今日中に準備を済ませて明日には霊峰竜角山に行く事が全員一致で決まる。


昨晩は酷く、セーラムは夜中に突然泣き出し、レイチェルも時折ヒィ!と叫び声を上げて目を覚ましたりしていた。

エラウェラリエルはあの恐怖が忘れられず、仲間の目も気にせず俺にしがみついて寝たほどだ。セッターとマルスはあまり寝れなかったのか、目の下にクマができていた。



「今日は明日からの竜角山攻略の準備を各自で行ってください。ただ念の為2人1組以上で必ず行動してください」

「食事はどうするなの…」

「もちろんいつもの酒場に行くぞ」


俺が即答で答えると批判的な声が上がる。


「マスター、明日から竜角山攻略なのにそれは…」

「そうよ、あそこ以外だってお店はいっぱいあるのよ?」

「う〜…怖いなのぉ」


別に面白がってというわけではなく、俺は昨日からずっと考えていたことがあった。


「実は昨日1人で考えてみたんだけどさ…」


昨日の一件であの夫婦をレジスタンスにひき込めないかと考えていた。

元冒険者であの強さと言うか気迫に冒険者達からの信用もあり、情報通でどこかに所属しているわけでもない。仮に断られたとしても秘密は厳守してくれると思う。そして何よりあれだけ愛し合っているのであれば、世界の崩壊は避けたいんじゃないだろうか?

そう思ったことをみんなに話してみた。


「なるほどねぇ、確かに昨日のアレ見たら100万の兵も戦意喪失しかねないな」

「場合によってはここ霊峰に挑戦していて戦力を持つ多くの冒険者達も引き込めるかもしれませんね」


マルスはマスク狩りされそうな事を口にしたが、エラウェラリエルは俺が言わなかったところまで見抜いていた。


「試すだけでもどうだ?」

「そう言う理由であれば、マスターにお任せします」




それでも嫌がるセーラムを引きずるようにして朝食も兼ねて酒場へ向かった。


「あらいらっしゃい。てっきりしばらくは来ないかと思っていたよ」


やっぱり大抵は来なくなるらしい。だが、しばらくするとここで得られる情報なんかが便利な為結局戻ってくるそうだ。


「女将さん、朝食の後ちょっと時間欲しいんですけど大丈夫ですか?」

「昨日の落とし前って訳じゃなさそうさね」

「当たり前だボケ!」

「アン?」


いつもの感じでマルスが突っ込んだのだが、たった一睨みされただけでマルスは大人しくなった。女将さんは了承してくれると早速朝食を運んできてくれる。

俺たちが食事を済ませている間に他の客や冒険者は食べ終わったからなのか、店からいなくなっていき新たな客が来ることがなかった。


「なんか誰もいなくなったなの」

「これだけ広い酒場に私たちだけってなんだか居心地悪いわね」


バタンと扉が閉まる音と施錠をかける音が聞こえ、やがて足音が近づき…


「はいよ、これで誰も入ってこないさね」


女将さんがやってきた。

旦那も来るからと話を切り出そうとした俺を制すると、ドスドスと足音が聞こえ強面の旦那も来て椅子にドスッと座る。


「で、ボーロ男爵の御子息のマルス様があたいらに何の用だい?まぁ粗方想像はつくけどシッカリとあんたらの口から聞かせて貰いたいさね」

「バレて…た?」

「はぁ〜?そんな髪と眉を剃ったぐらいで変装したつもりかい?それなら最低名前ぐらい変えときな」


要するに俺たちの名前から分かる範囲の情報は既に調べてあるらしい。

レイチェルがヴァリュームの宿屋の娘だということ、セッターがヴァリュームの騎士の従者だったこと、エラウェラリエルは冒険者で俺と親しい関係にあること、マルスがボーロ男爵の子息でレジスタンスのメンバーであることまで分かっていた。

セーラムに関しては俺ら以上に詳しく知っていて、ヴァリュームにフラッと現れた妊婦のエルフがスラムに住み着きそこで生まれた子で、ガウシアン王国の支配が始まった直後に母親が連れ去られたと。その後ヴァリュームの宿屋で世話になっているところまで調べ尽くされていた。

そして俺はというと、突然現れソードマスターのスラッシュと同じくソードマスターのアルトリウスを打ち負かしたとだけだった。


「あたいらの情報網にすら引っかからないあんたは一体何者だい?」

「それは別にどうでもいいでしょう?」

「…ま、しょうがないさね。

それで?レジスタンスのあんたらが用事ってことは、あたいらをレジスタンスに誘おうって魂胆じゃないだろうねぇ?」


バリバリに分かってるじゃん。こりゃ嘘とかついても情報で得られそうなもんは全部バレるな。


「その通りです」

「冗談きついよあんた。あたいらは既に冒険者引退したんだ。今はここで店を構えて慎ましく生きてるのを不意になんて誰がするっていうんだい」


至極まっとうな答えだな。だけどそれができなくなると知ったらどう出るかな。

俺は神々がレフィクルの魂を死極に封印し肉体を滅ぼすのを人に託す事を話し、もし失敗するようであれば大洪水で世界を洗い流す事を説明する。


「それをなんであんたらが知ってるっていうんだい?」


案の定食いついてきた。流石に俺が代行者だとは言いたくなかった為、名前を伏せてレジスタンスにいる神の代行者からの情報だと教えた。


「その代行者ってのは本物なのかい?裏が取れてなけりゃ誰だって嘘ぐらいつけるさね」


やっぱりそれだけじゃ信じてはくれないか。

出来れば俺が代行者ってのは言いたくない。なのでもしこの話が本当であれば2人はどうするかを尋ねてみた。

流石にこれには女将さん1人では答えられず、悩みながらチラチラと旦那さんを見ていると、今まで黙って聞いているだけだった旦那さんが初めて口を開いた。


「俺と嫁の仲を引き裂こうとする奴がいるなら…

例え神が相手でもぶっ潰す!!」

「愛してるよあんた!」

「ヒィッ!」

「あ、ああぁ…あぁ…」



いや、例えじゃなくて相手は一応神なんですが…悪魔王だけどさ。

でもこれはいい感じなんじゃないか?

レイチェルは小さく悲鳴をあげ、あ…セーラムはまたやっちゃった…

じょわわ〜んとお尻辺りが濡れていっている。


「お嬢ちゃん、おじちゃんいきなり大きな声で叫んじまって悪かったなぁ」


旦那さんがセーラムの頭に手をのせた瞬間、意識が遠のいたようだ。15歳の女の子からすれば恐怖以外の何物でもないのだろう…

旦那さんは困った表情で頭を掻くとバツが悪そうに女将さんを見て頷いている。


「うちらは答えたよ。今度はそっちが神の代行者の裏付けを言ってもらおうかねぇ?」


俺はニンマリと皆んなの顔を見る。

貰ったな。それなら俺も安心して言える。


「裏付けも何も俺が代行者だからです」

「はぁ?なら言ってごらんよ、一体誰の代行者だい?」

「【自然均衡の神スネイヴィルス】の代行者です」

「はん!こりゃまた大きく出たね。序列2番、実質神々のトップと言われる神の代行者とはね。

…それ、証明できんのかい?」

「加減ができないんで、この町に被害が及んでもいいのなら証明してみせますよ?」


天候操作程度じゃこの2人にはソーサラーとでも言われかねないだろうからな。まぁどうしても見るって言われたその時は町の外に出て見せるさ。


「…まさか引退したってのに現役に戻るとは思ってもみなかったさね」

「え?って事は…」

「そもそもレジスタンスと分かって話を交わす時点で、あたいらの気持ちもゼロじゃないってことさね。

ただ少し時間は貰うよ。こちらもいろいろと準備やらあるからねぇ」


どれぐらいか聞けば30日ほどだと言う。それなら明日から最後の霊峰竜角山に行くから全然余裕がある。

それを伝えると「ついに制覇かい、頑張りな!」と声援を貰った。

ついでにこのお店はどうするのかを聞いてみると、いない間知り合いに任せるそうだ。

ちなみに女将さんと旦那さんは名前を教えてくれたが、呼び慣れたというのか名前で呼ぶのが恐ろしいのか結局そのままになった。


こうして2人をレジスタンスの仲間に引き込むことに成功し、俺たちがレジスタンスの隠れ家まで戻る時に一緒に同行する事になった。




「うぅ…行きはヨイヨイ帰りは怖いなの…」



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