閑話 ウィザードサハラ
うーむ、町をぶらついたはいいが、目的もなく町を1人でぶらつくのはもしかしたら初めてなんじゃないだろうか。
今まではぶらつくにしても誰か必ずいるか、バルロッサに魔法を教わりに行くなどのしっかりとした理由があった。
1人きりの気恥ずかしさか、気がつけばフードを引っ張り深々と被っていた。
「で…なんで俺は竜角山の入り口に来てんだよ…」
気がつくと自然と霊峰竜角山の入り口まで歩いてきていた。
入り口前ではネトゲのように野良パーティを組もうとしている者、足りないメンツを募集している者、最終確認をしている者達で溢れかえっている。
思えば俺には既に仲間がいて、目的を成し遂げる事しか考えてなかったから、入り口付近は素通りでじっくり見た事なかったな。
「あ、あの!パーティ探してるんですかっ?もし良かったら一緒に組みませんかっ?」
不意にまだ冒険者になっていかにも日が浅そうな、地味だが愛嬌のある元気な女の子が俺に声をかけてくる。
真新しい鎧に剣と小盾か。という事はこの子は前衛の戦士辺りってところか。
その女の子は俺の返事を深々と被ったフードを下から顔を覗き込むようにして待っている。
「え、いやその…は、ははは」
「ダメ…ですか?」
「いや〜そうでなくてですね…」
「じゃ、じゃあ一緒に行きましょうっ!私シノって言いますっ!一応前衛の戦士やってますっ!」
パァッと明るい笑顔を浮かべ、勝手に自己紹介すると俺の手を取って、引っ張るようにして仲間の元に連れて行かれてしまった。
「お〜い、シノ、そいつ誰だぁ?」
「ウィザードが1人でいたから思いきって誘っちゃったぁ」
「ナイスですね、シノさん」
あれ…勝手にウィザードだと思い込んでる。そうか、杖持ってローブ着てればそりゃ普通ウィザードだよなぁ。
「よ〜し、そんじゃあよろしくぅ!俺、リョウ。前衛の戦士で、シノとそっちのケイは幼馴染なんだ」
リョウと言った元の世界なら野球やサッカーをやっていそうな少年も真新しい鎧に剣を持っている。こっちは盾無しか。
「ズルいですよリョウ。勝手に紹介しないでください。
改めまして僕はケイです。【守護の神ディア】様を信仰する神官です。もし怪我をしたら任せてください」
ケイと言ったどこかお坊ちゃんな感じで控えめそうな少年はど定番のメイスに盾を持ち、神官着を着用している。
成る程、幼馴染同士で冒険者か。
で、俺の自己紹介を待ってるようなんだが…。いやそもそも一緒に行くとは一言も言ってないんだけど…
3人のキラキラした目と初々しい姿に断りきれず…
「さ、サハラです。その、こちらこそ…宜しく」
「サハラ?どっかで聞いた事あったような…まぁ別にいっかぁ!」
この3人この調子で大丈夫なのだろうか。
で、気がつけば竜角山に入り込んでいるわけで。
「なぁ、サハラはここどれぐらい挑戦してんだぁ?」
「3回、いや4回程ですね」
「じゃあ僕達と同じぐらいですね!」
いや違うんだ。俺の場合一度入ったら戻ってくると60日後とかになるからなんだ。
「今日はサハラもいるし、いつもよりちょっと奥に行こうぜ!」
「うんっ!」
「頑張りましょう!」
「ハ、ハハハ、そうですね〜」
入り口から時間にして1時間ほど歩いた少し開けたところでリョウが立ち止まる。シノもケイも立ち止まる。
「おっし!この辺でいいか!」
「そうですね」
「うんっ!」
そして3人が俺の方を向く。あれ、もしかして俺、嵌められた?
「えーっと?」
「ん?あぁ、後は魔物が来るの待ちだよ」
「もし魔物が沢山来た場合は全力で逃げる準備もしておいてくださいねっ!」
「あ、あぁうん、分かりました」
どうやら早とちりしただけだった。
しかしこの辺って、確かコボルトかゴブリンがいる辺りだよな。っと早速来たな。3匹…いや、4匹だな。つい癖で感知を使ってたよ。
「あ、来たっ!」
「数はどれぐらいいる?」
「えーっと、3匹かなぁ?」
「3匹か、コボルトなら良いんだけど、ゴブリンだったら安全第一で逃げようぜ!」
「うんっ!」
「分かりました」
な、なんて言うか…微笑ましいな。俺もこういう体験してみたかったんだ。何しろ俺の場合、いきなり初っ端出会ったのがドラゴンで、その後は賢人の腕輪で戦えちゃったからな。
「やっべ!コボルトだったけど、4匹いるじゃん!サハラを中心にして守るように戦うぞ!」
「サハラさんっ!絶対に守るから安心してねっ!」
これはもう間違いなくエキスパート級にもなってないなぁ。とりあえず俺は魔法矢使うか。
コボルトもこちらに気がつくとギャーギャー喚きながら走ってくる。
「魔法の矢よ敵を打て!魔法矢!」
詠唱をし3本の魔法矢を放つ。目標は3匹にそれぞれ1本づつ放った。
バシュバシュバシュッ!
ギャ!
ギャワ〜ン
ギャワ〜ン
2匹が倒れ、1匹は耐えたようだ。これで無傷1匹と負傷1匹だけだからこの子達だけでもだいじょう…ぶ…
じゃねえぇぇぇ!
驚いてかビックリでか分からんけど、リョウ、ケイ!固まってんじゃね〜よ!シノは振り返って目キラキラさせてんな!
結局、あそこまで追い込んでおいてリョウがコボルトの持つ木の棒で叩かれた事で意識が戻り、子供のチャンバラ遊びのような戦いの末辛くも勝利した。
「お〜、イテテ」
「待っててください。今すぐ治療しますから。
【守護の神ディア】様、リョウの傷を癒したまえ、軽傷治療」
…しかし何も起こらなかった。
がまさにピッタリ合うな。
【守護の神ディア】って言ったら、3神の1人で今忙しいからなぁ。
何度かケイが試すとやっと神聖魔法の効果が現れた。
「ケイ、サンキューな!」
えええええっ!そういうもんなの?そういうもんなのか?
「僕のほうこそ信仰心がまだ足りないせいで時間掛かっちゃって申し訳ないです」
そっちも⁉︎そっちもそうな訳?
なんかもうとんでもないとしか言いようが無いんだけど。
「サハラもサンキューな!全部相手だったら最悪大怪我してるところだったよ」
「うんうんっ!サハラさん凄かったっ!」
「僕もウィザードに成りたかったなぁ」
あ、あははは…はぁ〜。
その後も同じ場所で会話をしながら待って、魔物が来たら倒すを繰り返し、気がつけばギルド換金で結構な額分の部位が集まり、夕方が近づいた為町に戻る事になった。
ん?1人。魔物じゃないな。
「あ、誰か来たみたいだよっ!」
「カモみぃつけ、たぁぁあああ!
お前ら金目のもん置いてけや。そしたら命までは取らないでやるよ」
あ〜、やっぱどこにでもいるんだなぁこういう奴って。
「うぅ、ヤバイよぉっ!」
「なんて日ですか…」
「ちくしょー!ちょくしょーめぇ!」
突っ込みどころが満載ですな。
「どうすんだおめぇらぁあ!」
「くっ!分かったよ。だけど、この人は今日だけ入ってくれた人だから、お礼の分だけは勘弁してくれ!後はやるからさ!」
リョウ、お前すごく良いやつだな。
でもな、こういう奴にそんなの関係無いんだよ。
「はぁ?そんなの知るか。とっとと出さないなら、そこのお嬢ちゃんがどうなっても知らないぜ?」
「ぐっ!」
「いやっ!」
「酷すぎます!」
はぁ…この子達にはずっとウィザードのサハラとして内緒でいたかったなぁ。おおよそ1日だけど、もう十分だよな…うん、本当に楽しかった。
「リョウ、後は俺に任せて下がって」
「サハラ?」
「あんだおめぇ、俺とやりあう気か?
それならしょうがねぇ、口封じに全員ぶっ殺してやる事になるぜ!」
俺はフードを下げ、顔を露わにして杖を逆手で構える。
「今日は本当に楽しかったよ。リョウ、シノちゃん、ケイ、ありがとう」
振り返ってそう言うと3人は俺の素顔を見ても不思議そうに首をかしげるだけだったが、目の前に立つ男は違った。
まぁこういう事やってる奴は手を出しちゃいけない相手は確認しているだろうからな。
「き!きき金竜に最も近いパーティの、さ、さささ、サハラ!!」
そこで初めて3人も理解する。
「マジか!」
「ええええええっ!」
「憧れのパーティの人と一緒にいたなんて!」
こうなるんだろうなとは思ってた。もうウィザードのサハラに戻れなくされた怒りは、このど阿呆にぶつけてやる。
な訳で瞬殺、では無くさっくり意識を刈り取り、引きずるように入り口を出て冒険者ギルドまで行き事情を説明した。
報酬なども貰えたが、すっかりかしこまって遠慮するリョウ達に半ば強引に譲る。
「サハラ!…さん、呼び捨てで呼んだりしてゴメン!…なさい」
「サハラのままでいいよ、俺も楽しかったし、それに俺たちはもう仲間だよ」
「サハラさんっ!今日は本当にありがとうございましたっ!」
「シノちゃんも早く夢が見つかるといいね。
そうだ、魔法の言葉を教えてあげる。
『夢は強く思えばきっと叶う。叶わない夢なんて寂しいだけ』だよ」
「…うんっ!ありがとうございますっ!」
「今日の事一生忘れません!」
「あはは、俺はたいしたことしてないよ。でももしケイも強くなったら、困ってる人がいたら助けてあげてね」
「はい!」
最後に3人と握手を交わし俺も俺の仲間がいる宿屋に戻った。
レフィクルなんていなくて、世界が平和だったならば、きっとこんな風に楽しく生きていけたんだろうなぁ…
サハラの姿が完全に見えなくなるまで3人はその後ろ姿を見送った。
「『夢は強く思えばきっと叶う。叶わない夢なんて寂しいだけ』かぁ。
ねぇリョウ、ケイ、2人の夢って何っ?」
「そうだなぁ…」
「そうですねぇ…」
「私はねっ、夢見つかったよっ!」
「それじゃあ一斉に言ってみましょう!」
「じゃあ!行くぞ!せ〜のっ!」
そして3人は互いに笑いあった。
初めての閑話になりました。
前話で翌日まで時間が余りすぎてるので書いてみました。




